面接の終焉と解放

「よろしくお願いします。」

「どうぞ席にお座りください。」

そう言われて、僕は席に着いた。面接官と目が合う。自分の顔が引きつっていくのがわかる。

(クソッ、やっぱり面接は苦手だ。さっさと終わらせて早く帰ろう。)

「履歴書と職務経歴書は持ってこられましたか?」

「はい!持ってきました!」

そして履歴書と職務経歴書を手渡す。面接官がそれに目を通す。

(あ~早く帰りてぇ。)

「では、まず仕事内容の説明をしていきますね。」

「この仕事は病院の敷地内の庭園の草刈りや枝の剪定、秋になったら落ち葉拾いをしてもらいます。」

「雨の日は病院内で仕事をしてもらって、早めに上がってもらったりすることもあります。台風の日などは仕事がお休みになることもあります。」

僕はこの説明を受けてる時、なるたけ面接官の目を見るように頑張りうなずき

「はい、はい」

と答えていた。

(結構楽そうだな。)

僕は説明を受けながらそう思った。

「仕事のイメージは出来ましたか?」

「はい!鮮明に!」

「前職の役所で働いてる時は公園の管理をしていて草刈りや枝の剪定をしていたので!」

「あぁ、ここに書いてあったね!うんうん、へぇ~、えっ?遊具の修繕もやってたの?」

「あっ遊具の修繕に関してはそこまでやっていなくて、ベンチが壊れていたりしたら板を追加してネジ打ちしたりしてました。」

「へぇ~そうなんだ。ここまでで何か質問はありますか?」

「募集要項に週3~4日の勤務と書いてあったのですが、週5勤務は出来ないのでしょうか?」

「そうですね。週3~4日のシフト制で週5の勤務は出来ないね。」

「あっそうなんですか」

「実は僕事なんですが、今実家暮らしで今回就職するにあたって一人暮らしを始めたいと思ってて、、、できれば週5働きたいなと思ってるんですよね。」

「あっ今ご実家で?なるほどね。先の話にはなると思うんだけど。例えば病院内での勤務なら週5の仕事はあって、例えば病院の施設管理や場合によったら事務の仕事なんかもあるよ。」

「あっ、そうなんですか!ありがとうございます。」

「ただ、施設管理の仕事とかをするとなったら資格を取ってもらうことになるよ。電気工事士とかボイラーとか、よくわからないけど。」

「そうなんですね!ありがとうございます。」

「ありがとうございます」と、とりあえず所々返事をしてみたがありがとうの使い方が合ってるのかはわからない。少し違和感がある使い方だな、と思いながら使っていた。面接官はあの「ありがとうございます。」をどう思いながら聞いていたのだろう。

「じゃあここからは書類を見ながら質問をしていくね。」

「はい!お願いします!」

ここからしばらく面接官は僕の持ってきた履歴書・職務経歴書を読んでいた。それをぼーっと見ながら僕は

(あー早く終わんねぇかな。さっさと帰りたい。)

「まず、都立高校に入学したんだね。で、2年生からは、、、これなんて読むんだろう?」

「”セイサ”ですね。セイサ国際高等学校です」

「あぁ”セイサ”ね。セイサ国際高等学校。2年生の時に都立高校を辞めてセイサ国際高等学校に行ったんだね。差し支えな変えればその理由を教えてもらっていいかな?」

「はい。都立高校に進学するにあたって高校デビューをしてしまって、、、それで失敗してしまって、、、居づらくなり編入することにしました。」

「あ~なるほどね。高校生はそういう1回の行動が響いたりするからね。」

「今思えば僕の根性がなかっただけなんですが」

「う~んなるほどね~」

「その後大学に行ったんだね。うんうん、大学も2年制の時に辞めてるんだね。これも教えてもらっていい?」

「はい、大学を辞めた理由は大学の授業は少人数でディスカッションする場だと勝手に思い込んでいたんですよね。で、初めての講義を受ける時に大人数で教授の講義を受けるということが分かって、それで思ったのと違うなと思いだんだん行かなくなって辞めてしまいました。」

「そうか~もったいなくない?3年生4年生まで残れればね、ゼミが始まるから。ゼミは少人数だしね」

「そうですねぇ、ほんと僕の根性が足りなかっただけです。」

「なるほどねぇ、若気の至りだね。うんうん、あっここからは仕事なんだね。」

「はい。」

「あっ大学生の時にプールでバイトしていたんだね。」

「はい!」

「このプールのバイトも大学辞めて辞めてるんだね。これはなんで辞めたのかな?」

「何で辞めたっけな?特に理由はなかったと思います。だけどこの頃はとにかく自分でやっていこうみたいな意思が強かったと思います。プールのバイトを辞めてから結構空白になっていますが、その間は無職だったので。」

「そうなんですね。で、そのあとは令和2年からスーパーのバイト、令和4年3月に辞めると、この理由も聞いていいかな?」

「スーパーのバイトを辞めたのは前職の市役所に受かったからですね。」

ここだけスムーズに答えられた。履歴書の空白は必ず聞かれる。

「あっなるほどね!」

「この役所も今年の6月に退職してるけどこの理由も聞いていいかな?」

「はい、入社した時から僕の障害も理解してお世話になっていた方が移動になってしまい、4月から新しい体制になり先輩職員に仕事を教えなければいけない立場になりそこでコミュニケーションがうまく取れずだんだんと居づらくなり辞めてしまいました。」

「なるほどね。具体的にはどういう所が上手くいかなかったの?」

「お世話になっていた上司が作ってくれた引継ぎの仕事内容と新しく来た先輩職員の方のやり方が違うようでそこがうまくいきませんでした。」

「なるほどね。先輩職員に教えるのは難しいところあるよね。」

「でも、全部そうなのですが僕の根性がなかったのが原因です。」

「なるほど。」

「じゃあ次は職務経歴書の方から質問をしていきます。」

そう言って面接官は職務経歴書を読み始めた。

「ふ~ん、効率を考えて仕事をしていたんだね!あ~一度にたくさんの指示を与えられるとパニックになるの?」

職務経歴書に書いた配慮いただきたい事項を読んで面接官はそう聞いてきた。

「はい、そうなんです。特に優先順位を決めるのが苦手で、優先順位も含めて指示を頂けると助かります。」

「そうなんだ!こっちがあれをやってからこれをやってって順番も指示を出せば仕事はやりやすい?」

「はい!そうして頂けるととてもやりやすいです!」

「なるほどね!え~と電話対応が苦手なの?」

「はい、慣れてくれば大丈夫なんですけど、慣れてくるまでは電話の対応でパニックになってしまったことがあり、回数こなせば大丈夫なんですけど、、、最初のうちはパニックになっちゃうかもしれません。」

「うんうん。庭園管理の仕事は今はLINEで現場の人同士でやってるからそこは大丈夫だと思うよ!」

「本当ですか!ありがとうございます。それなら大丈夫だと思います!」

このやり取りで一通り面接が終わった空気を察した。

(やっと終わりだ!よっしゃ!帰れる!)

僕は心が躍り始めていた。

「こちらからは以上なんですけど髙島さんの方から質問はありますか?」

「はい、え~と今慶聖病院ではどんな人が足りていない、どんな人材が欲しいと考えているか聞きたいです!」

「う~ん」

面接官がしばらく考える。

「う~んどんな人材というよりはポジションだね。ポジションがあいたらそこに人がを入れると考えているよ。」

「なるほど。」

「あとうちの病院で大切にしてるのは”笑顔で挨拶する”ということだね。」

「これから髙島さんがうちの病院で働くことになった時うちの仕事は初めてでわからないこともたくさんあると思う。でも、笑顔で挨拶することは出来るよね?笑顔で挨拶されて嫌な気持ちになる人はいないでしょ?だからうちの病院では笑顔で挨拶できない人は採用しないかな。」

「なるほど!ありがとうございます!」

ぎこちない笑顔でそう答えた。

「こんな回答で大丈夫かな?」

「はい!大丈夫です!ありがとうございます!」

「うん!じゃあ面接はこれで終わります。お疲れさまでした。」

「はい!ありがとうございました!」

面接官と目が合う。僕はぎこちない笑顔を彼に送った。

(やっと解放された!よっしゃやってやったぜ!)

僕は解放感に包まれた。面接の間何度も自分の顔が引きつってるのが分かった。そして面接の途中で完全に集中力も切れていた。だけど席を立たなかった。そんな自分を褒めたやりたいそんな気分だった。

病院との面接が終わった僕は先ほど相談したスタッフに大学の番号札を渡しに行った。

「あの、、これ、、」

「あっ!」

そう言ってそのスタッフは大学の今の順番を確認する。

僕の番号札は32番。現在面接しているのは17番。時刻は15時半。今回の面接は16時で終了だ。

スタッフと目が合う。

「そうですね。ではこの番号札はお預かりします。」

(逃げ切った!)

番号札を返した僕は意気揚々と最初の受付に向かった。

「お疲れさまでした~」

「名札と書類をお返しください~」

返した僕の書類を見て

「1社だけですがよろしいですか~?」

「はい!大丈夫です!」

「お疲れ様です~」

そうして僕の面接は終わった。やってやったぜ。

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