障碍者の就活

面接会場に着いた。今日の朝何とか志望動機を書き上げ印刷し、いつだかに撮った顔写真をはっつけ面接会場にやってきた。それだけできょうは100点満点だ。バックレないで面接に向かったからだ。

ちなみに3社受ける予定だったが志望動機の書き直しの際に、もう1社だけでもいいから書こうと決めた結果、働き者の自分は2枚書き上げた。こんな働き者は他にいないだろう。面接会場についてまずは受付だ。自分の管轄は立川なので立川を探した。一番端にあった。そこで受付表と名札と紙を貰った。その紙に最後受けた会社を書いて提出するらしい。久しぶりに来たスーツが苦しい。

(だいぶ太ったんだな俺、、、)

そう思わずにはいられない。それから自分が受ける会社をホワイトボードから探し、受ける会社の近くに向かった。今回受けるのは大学と病院だ大学の方は先客がかなりいる。僕が番号札を取ったのは32番。今面接を受けてるのは4番。

(これ俺の番まで回ってくるのかな?)

そんなことを思いながらその大学の前に並んでるパイプ椅子に座った。しばらくじっとして待っていたが4番の面接が全然終わらない。ここで支援相談員の言葉を思い出した。

「まず面接会場に着いたら受けたい会社の番号札を先に取るのよ。1社ずつ順番に番号札を取っていたら全部受けれなくなるからね。」

その言葉を思い出し、僕は次に受けようと思っている病院の番号札を取りに行こうか迷った。面倒くさいからだ。

(面接受けるの面倒くせぇしなぁ、どうしよう)

しばらく僕はその大学の番号札を持ってぼーっとしていた。次第に落ち着かなくなり席を移した。その隣に座っていた女性を何気なしに見た。緊張している面持ちだった。それを見て僕は優越感に浸った。自分より下の人間だと思ったのだ。

(緊張しちゃってんなぁ)

ここは障碍者の面接会場だ。この会場にいる全員何かしらの障害を抱えている。僕はうつ病だ。うつ病と診断されてから5年ほどたっているがまだ薬を塗んでいる。薬がないとすぐに壊れる。そして彼女も見た目からはわからないがなんかしらの障害を抱えている。僕はもともと健常者で、いや健常者だと思っていて何のいきさつか障碍者になった。障碍者になってから3年以上経つというのに健常者であるという自負が抜けない。そんな中で隣に座っているお世辞にも綺麗とは言えない障碍者の女性を下に見て優越感に浸ってる。

(気持ちわるい)

そんな感情を持ってる自分が心底気持ちわるいと思った。思えば自分が下に見られる環境から逃げ続けたら僕は障碍者になっていた。障碍者になり障碍者という枠の中で自分より下の人間を見つけて優越感に浸っている自分が心底気持ち悪かった。

そんな自分を僕は殺した。気合と根性だ。今からこの会場にいる全員対等だ。僕はそう誓った。

それからしばらくして、病院の番号札も取ることにした。僕が取った番号札は7番。今受けてる人は4番。

(これは大学よりも先に回ってくるな)

そう思い、病院の前のパイプ椅子で待つことにした。ただ、なかなか前の人の面接が終わらない。仕方がないのでパイプ椅子に座りながら僕は瞑想をした。そのくらい暇だった。そうやって時間をつぶすのにもしびれを切らした僕は面接のスタッフさんに

「今日って面接は何時までですかね?」

と聞いた

「本日は16時までを予定しています。」

僕はここで大学の番号札をスタッフに見せながらこう聞いた。

「僕の番号札が32番で今面接を受けてるのが7番の方なんですけど、16時までに回ってこなかったら無しってことですかね?」

「一応会社の方には16時までにすべての面接者の方と面接するという話になってます」

「16時までいられないのですか?何か予定があるのですか?」

「はい、用事があって」

用事などない。

「もし、時間が無くなったらこの番号札をお返しすればいいですか?」

「そうですね、その場合は番号札の方を私にお返しください」

「わかりました。ありがとうございます。」

こうして僕は1社だけ受けて帰ることに決めた。

それからも瞑想とスマホを行き来しながらひたすら待った。

ようやく病院の方で僕の番号札がかけられた。

「よし!さっさと面接受けてさっさと帰ろう!」

僕はそう決意した。

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