第5話 過去の断片ー共闘ー

『あんた、優しそうな見た目と違って、結構頑固だよな』

 暗がりに身をひそめて移動しながら、アインはニコラウスに囁く。

『君は可愛い顔をしているのに、結構トラブルメーカーだよね』

『ハァ!?』

『静かに、バレるよ』

 ニコラウスは、不満気なアインを見て、やれやれと苦笑する。

 自分がアインと共闘することになろうとはーー 運命とは不思議だと、ニコラウスは思った。


※※※※※※



 アインとニコラウスが、暗躍する頃。

 王は大陸に以下の内容のお触れをだした。

『ニコラウスは王の暗殺を企てた謀反人である。アインはこの大陸を蝕む砂漠化を悪化させた極悪人である。ニコラウスが結成した、ウィルヘルム。アインが結成した、アイゼン。この両組織は、共に危険組織である。よって、ウィルヘルムに関しては、管理下にある、全ての幻獣使いの大錬丹と幻獣を取り上げる。アイゼンに関しては、アイゼンに関与したもの、全てを打ち首とする』



※※※※※※



 お触れが出てから一ヶ月後。大陸のあちらこちらで暴動が起こった。暴動の波は広がり、シュタール王国でもクーデターが発生する事態となる。

 王城に押し寄せる、数多の暴徒たちを目にして、王は喜びを隠せなかった。ついに、魔狼王を蘇らせるのに十分な生贄が揃ったのだ。

 王は、兵士たちに暴徒の殺戮を命じ、自分は墓廟へ入っていった。そして、いつかと同じように、古びた棺桶から一冊の古びた本を取り出す。

『魔狼王様、ついにこの時が来ました。我らの血族だけが生きる世界が生まれるのです』

 うっとりとした顔で、王は本を開きーー愕然した。

 本は装丁こそ酷似しているが、中身が白紙の本にすり替わっていたのだ。

『取込み中、悪いんだけどさ。王様、あんたが持ってる本、本違いじゃない?』

 王が驚き振り向き見れば、そこにいたのは。

 本物の本を手にして、凛と立ち構える、アインの姿があった。彼の隣には、王の不肖の息子、ニコラウスが立ち並んでいる。

『貴様ら、どうやってあの地下牢から脱出した!?』

『それはお答えできません、陛下。まさか、陛下が禁書の本に呑まれていたとは……。陛下、貴方様はいったいどこで、魔狼王が封印されたこの禁書を手に入れたのですか?』

『ニコラウス、我は王国がもてる最高の教育をお前に施した。にも関わらず、砂漠化を止められなず、悪化させ。それに飽き足らず、今度は、我と我が主の崇高な計画を妨げようとは! 無能のお前など、初めに贄にするべきだった!』

『質問の答えになってないって……。とりあえず、この本は燃やす。イチ!』

 アインの呼び声に応えて、米粒ほどに小型化していたイチが本来の大きさに戻る。そして、アインが放り投げた本に向かって、紫の炎を吐く。

『このクソガキがー!!!!』

 絶叫した王は、禁断の呪詛を唱えた。王の身体は、みるみる奇怪な幻獣へと変化していく。と、幻獣は、イチに焼かれた本の残骸を吸いこんだ。すると、幻獣は数多の幻獣と人の特徴をちぐはぐに持つ化け物と化した。

『落ちるところまで落ちたか。おい! ニコラウス、やるぞ!』

『……ああ』



※※※※※※



『終わったな……』

 アインは誰に言うでもなく呟いた。

『うん、王の野望を阻止したーーという意味ではね』

『だな。あんたは、捕られられてた、あんたの部下を開放して、俺は、国外に散り散りになった仲間を呼び戻した。あんたの部下は、大錬丹の秘密を大陸全土の人々に知らせて周り、俺の仲間は、ウィルヘルムの管理下にあった幻獣使いたちに、大錬丹なくとも幻獣使いになれることを示した』

 アインは、彼の隣に立つ、ニコラウスの横顔をチラッと伺う。が、彼の顔には何の表情も現れてなかった。

『結果として、大錬丹は生成されなくなり、王が出したお触れは意味をなさなくなった。アイゼンは復活し、ウィルヘルムは解体された。……近衛兵団の元兵団長だっけ。その人が新たに、ウィルヘルムの後継となる組織を結成したんだろ』

『うん。そして、クーデターが成功したことで、シュタール王家はお取り潰しになり、新たな王家が誕生した』

 アインはニコラウスをまっすぐに見つめた。

『で、あんたはこれからどうするだ?』

『私は……まだこの件には、何かがあると思う。王をーー父をそそのかし禁忌の道を歩ませ、この大陸を蝕む砂漠化の原因となってるものが……何かある』

 ニコラウスは、そこまで言い切ると、アインの方を振り向き、まっすぐに彼を見つめ返す。

『私はこれから一人で、この件の真相を追うつもりだ。……ありがとう、アイン』

『あんたが俺に礼を言うなんて。……明日は槍でも降るか?』

 照れくさくなったアインは、そっぽを向いた。

『……まあ、あんた一人だと荷が重いだろうから、手伝ってやっても』

 再びアインがニコラウスの方をみると、彼の姿は、もうそこにはなかった。

『ハァ!? あいつ、人の話は最後まで聞けよ!! ……たくっ』

 アインはやれやれと、首に手を当てた。

『本当に……あいつは苦手だ』



※※※※※※



『シュテルン、いつも迷惑をかけてごめん……』

『気にするな、それはお互い様だ』

 ニコラウスを背中に乗せて飛ぶ聖竜ーーシュテルンは、主に気になってたことを問う。

『アインの力は借りないのか?』

『うん。あくまでこれは、私の力だけで解決すべきことだからね』

 ニコラウスは、自身の相棒に優しく微笑んだ。

『そうか』

 シュテルンは主の意を汲み、まっすぐに主を目的地まで運ぶ。


ーーアイン。君は大陸の希望の種だ。希望の種だからこそ、君を巻き込むわけにはいかない。

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