【最終章:右目と名前(7)】
「こっちも
「時間がない。ほっときなさい。」
「二十秒もあれば十分ですが。」
「脱出の準備をしなさい。」
「はい。」
という、空木カンナと立花美香の会話を、うずくまる沢木キョウの横で田中洋一は聞いた。沢木キョウの
「空木さん、お願いだ。キョウ君を助けて」と最後の
しかし、「もう
「なんでなの?」と田中洋一は聞いたが、その質問には答えずに、空木カンナは「最後に大切なことを教えてあげる。ここで見たこと聞いたことは誰にも言わないこと。
「お願い、キョウ君を助けてよ・・・」と、田中洋一はあきらめずに再び空木カンナにお願いをした。しかし、空木カンナはそのお願いにも答えずに、「真中しずえはああ見えて
そして、空木カンナは立花美香と一緒に階段を降りていった。田中洋一の左目は、そのときもまだ開けることができなかったが、空木カンナとの最後の会話のとき、空木カンナの周りには赤黒いモヤは見えなかった。
***
ゴホゴホと咳き込む沢木キョウに、田中洋一は必死に呼びかける。
「もうすぐ救急車が来る。きっと助かる。大丈夫だよ。」
「洋一君、彼女たちはこの家に火をつけるつもりだ。早く逃げて。僕は大丈夫。あとから一人で逃げられるから。」
「何を言ってるの。キョウ君を置いてなんていけないよ。」
「早く逃げて。僕は大丈夫。この傷は
沢木キョウの
「キョウ君、大丈夫?もう喋らないで。」
「洋一君、左目は大丈夫?僕の血が入っただけなんだよね。」
「うん、大丈夫だよ。多分すぐに開けられるようになると思う。でも、右目がおかしいんだ。ときどき、喋っている人の周りが赤黒っぽい
「な、なんだって・・・」と言ってから、沢木キョウは
「もう喋らないで。僕がこれからキョウ君をおぶって外に連れて行くから。」
「いいんだ。それよりも僕の話を聞いて。君は僕が探していた人かもしれない。僕の方をよく見て。僕の本当の名前は沢木キョウなんだ。」
「いまさら何を言ってるの。知ってるよ。」
「僕の周りに赤黒いモヤは見えた?」
「見えたよ。」
「僕はアメリカから引っ越してきた。」
「知ってるって。どうしたの?」
「僕の周りの赤黒いモヤはどうなった?」
「えっと、消えたみたい。今は見えないよ。でも、そんなことは今はどうでもいいよ。早く逃げなきゃ。」
「やっぱりそうだ。君の右目は僕の右目と同じだ。あの薬で能力が
「何を言ってるの?ウソが見える右目のこと?」
「いいかい、洋一君。よく聞いて」と言いながら、沢木キョウはゼェゼェと息切れをしながら
「お願いだから、もう喋らないで」と田中洋一は泣きそうな顔をした。
「君が普通の生活をしたいなら、その右目のことは誰にも言ってはいけない。それに、さっき空木カンナが言った通り、ここであったことも
「キョウ君?大丈夫?」
「う、うん。もう時間がなさそうだ・・・。」
「キョウ君、そんなこと言わないで。」
「洋一君、いずれ誰かが君のことを尋ねてきて、花について質問してくるはずだ。もし君がその右目のことを知りたかったら、そのときに『特異な才能』と答えるんだ。」
「とくいな・・・さいのう?」
「この右目を作った博士が好きだった花の花言葉だよ。ゴホゴホ・・・その人は・・・ゴフッ・・・僕の育ての親でもあった。」
「花?」
「その花・・の名前は・・・
「さわぎきょう?」
***
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