永遠の秘密１：とくべつなふたり

【最終章：右目と名前（1）】

夏休みも半分くらいが終わったある日のこと、科学探偵（かがくたんてい）クラブのみんなはC県の中の山深（やまぶか）い古民家（こみんか）に来ていた。

ここは保健室（ほけんしつ）の先生である立花美香（たちばな・みか）が、「もう誰も使っていないから」という理由（りゆう）で遠い親戚（しんせき）から譲（ゆず）り受けた古民家だった。

その場所は、真中しずえ達（たち）の学校から車で三時間ほどの場所にあった。持ち主（ぬし）の立花美香は、この古民家をもらったときから週末（しゅうまつ）や長期の休みのたびに車でここに来て、傷（いた）んでいる場所を直したり、掃除（そうじ）をしたり、庭を整備（せいび）したりして、一年間くらいかけて人が住める状態にまでしたらしい。

一階部分には、居間（いま）と台所、それに大きな寝室（しんしつ）が一つあり、階段をあがった二階には少し小さめの寝室が二つあるが、そのうちの一つは今は物置（ものおき）として使われているとのことだった。

また、お風呂（ふろ）は一階にあり、トイレは一階と二階に一つずつあるが、二階にあるトイレは古くて小さいので立花美香はほとんど使っていないと言っていた。

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その日の朝、科学探偵クラブのみんなは、車二台で立花美香の『別荘（べっそう）』へと向かうため学校に集まっていた。

今回集まったメンバーは、真中しずえ（まなか・しずえ）と、彼女に半（なか）ば強引（ごういん）に科学探偵クラブに入れられた、空木カンナ（うつぎ・かんな）・相葉由紀（あいば・ゆき）・沢木キョウ（さわぎ・きょう）・田中洋一（たなか・よういち）・羽加瀬信太（はかせ・しんた）の６人の子どもたちである。

表向（おもてむ）きは、学校の公式なクラブ活動（かつどう）である科学クラブの夏の合宿（がっしゅく）という名目（めいもく）であったため、その引率者（いんそつしゃ）の先生として、科学クラブの顧問（こもん）であり彼ら彼女らの担任の先生でもある池田勇太（いけだ・ゆうた）も参加することになった。

二台の車の運転手は立花美香と池田勇太だったが、子どもたちはみんな立花美香の車に乗りたがり、どのような組み合わせで車に乗るかで少しもめた。

結局、真中しずえが「男女別にしようよ！」という提案（ていあん）をし、その案に田中洋一は最後まで抵抗（ていこう）したが、結局は真中しずえたち女性陣（じょせいじん）に押し切られ、男女分かれて立花美香と池田勇太の車に乗り込むことになった。

田中洋一は「僕らは無事に目的地に着くんだろうか」と本気で心配している様子だったが、この日のために新しいカーナビを購入（こうにゅう）したという池田勇太は、そのカーナビを見せびらかしながら「これがあればどんな道でも迷（まよ）うことがないぞ」と、ガッハッハと笑った。

その様子を見た田中洋一はますます不安になったが、同じく心配そうな顔をしている羽加瀬信太に「もう、あきらめるしかないよ。きっといつかは立花先生の別荘に辿（たど）り着くと思うから」と元気のない様子で言われ、しぶしぶ池田勇太の車に乗った。

沢木キョウは特に不安げな様子は見せずに静かに助手席（じょしゅせき）に乗り込んだ。しかし、その手には色々と目印が書かれた地図があった。自分が池田勇太の車に乗ることになっても大丈夫なように、あらかじめ立花美香に学校から別荘までの道筋（みちすじ）を聞いていたようだった。

一方で、可愛らしいピンク色の車に乗り込んだ女の子たちは、男の子たちとは正反対の様子で、みんな明るい表情をして楽しく会話をしていた。

助手席に乗った真中しずえは、車が動き始める前から自分の旅行（りょこう）カバンからお菓子（かし）を取り出し、みんなと一緒に食べ始めていた。その楽しげな様子を、くすんだ緑色の中古車の後部座席（こうぶざせき）から見ていた田中洋一は、自分が男であることを恨（うら）めしく思っていた。

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