【第四章:ターゲット発見(1)】
七月になって最初の土曜日、真中しずえ(まなか・しずえ)と空木カンナ(うつぎ・かんな)は、この年の夏休みの自由研究のためのプロジェクトのヒントを探しに、科学クラブの
池田勇太はこの大学の
その大学の
実際に、一年前にその研究室を
そのため、この日は約束の時間よりも三十分も早く大学に
「ちょっと早く着きすぎちゃいました。すみません。今は実験中ですよね?近くのベンチで
その先輩の名前は冬木浩二(ふゆき・こうじ)。彼は池田勇太の一つ上の先輩で、この三月に
研究室に中にある小さな
「
「そんな
「はい、もちろんです」と真中しずえははっきりとした口調で答え、その後に空木カンナも「昨年はお世話になりました。今日もお忙しいところ、お時間をいただきどうもありがとうございます」と少し大人びた表現を使って冬木浩二の質問に答えた。
「ははは、君たちは
「そうだね。この子たちの去年の自由研究は
すると池田勇太は、「博士論文を書くのって、やっぱり大変だったんでしょうか?」と質問をした。「うん、そうだね。今だから言えることなんだけど、博士論文を書いているときは、自分はなんでこんなにダメなんだろうと思うことが何回もあったよ」と冬木浩二は答える。
「そうだったんですね。でも、博士号おめでとうございます。冬木先輩なら絶対大丈夫だと思ってました」と、池田勇太が言うと、「ありがとう。おっと、こんな話は君たちにはつまらなかったかな。ごめんよ」と、冬木浩二は真中しずえと空木カンナの方を向いて言った。
しかし、真中しずえは、全然そんなことないですという風に首を
「そうか、君は将来は研究者になりたいんだったね。去年会ったときもそういうことを言ってたっけ。」
「はい。今も、というか、今は去年よりも研究者になりたいという思いが強くなっています。」
「若い子が研究者になることを目指してると聞くのは
「はい、覚えています。大学に入って、そこで四年間勉強をしてから、大学院に進むんですよね。」
「うん。大学院はね、最初の二年間と次の三年間に分けられるんだ。」
「最初の二年で
「ははは、よく覚えているね。」
「それで、博士号を取るのはやっぱり大変なんでしょうか?」
冬木浩二は口元に笑みを浮かべて、「君たちみたいに
「それにね、博士論文のための研究プロジェクトは、みんながわかってることをやってもダメなんだ。世界で誰も知らない何かを発見しないといけない。だから、頑張って自分の研究プロジェクトをやっていても、新しい実験データがとれないと博士号は取れない。これは僕の先生の受け売りだけどね、『博士号は
少し
「あ、そうだ。
「わざわざ悪いね。で、これは何だろう。開けていい?」
「もちろんです。気に入ってくれれば
「おお、万年筆じゃないか。これパイロットの『カスタム74』だな。」
「ええ、去年お会いしたときに万年筆のことを先輩が話していましたので、もしかしたら気に入ってくれるかな、と。」
「すごいな。これ本当にもらっていいのか?」
「もちろんですよ。」
「君もさすが社会人だな。こういう細かなことにまで気が
「いえいえそんな・・・」と、池田勇太が言ってる横から真中しずえが、「先生、ほんとのことを言わなくていいんですか?ちょっとずるいですよ」と小声で話しかけてきた。でも、その声は冬木浩二の耳にもきちんと届いたようで、「真中さん、本当のことって?」と聞いてきた。
すると
「そうですよ、先生。もう社会人も長いんですからしっかりしてください」と真中しずえに
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