【第三章:仲間(6)】
その日の
しかし、田中洋一が机の上にトランプを置くのと同じくらいのタイミングで、またしても酒見正と一ノ瀬さとしが、みんなのところにやってきた。
「なに、まだ
これまでは、そんな話しかけられ方をしたら二人ともすぐに声を
「は?」と、
「ああ、全部正直に話す」と酒見正が言うと、一ノ瀬さとしも力なく
酒見正は、新校舎の図書室にある漫画を羽加瀬信太に
「あんたたち、そんなことやってたの!?」と、真中しずえは
「悪かった。最初は羽加瀬をちょっとからかうだけだったんだけど、そのうち調子に乗ってしまったんだ。お前のことも
すると、一ノ瀬さとしは「羽加瀬、俺が悪かった。
そしてすぐに空木カンナの方を向いて「なあ、俺たちが悪かったから解毒薬を
あの酒見正と一ノ瀬さとしがそんな状態になっているのを田中洋一は
「え、どうするって言われても・・・。」
「これまで君に
「え、許すかどうか僕が決めるの?」
「もちろんよ。君が許したら解毒薬をあげようかなって思ってるんだけど、君がこれまでのことを絶対に許せないって思うんなら解毒薬はあげないから安心して。」
空木カンナがそう言ったのを聞いて、酒見正と一ノ瀬さとしは
「え、解毒薬を二人にあげてよ。
「良かったね、二人とも。許してもらえて」と言いながら、空木カンナは自分のポーチから今朝出したプラスチックケースを出した。それを見てすぐに、酒見正と一ノ瀬さとしは手のひらを上にして両手とも空木カンナに差し出した。
空木カンナがプラスチックの入れ物から
両手のすみずみまで『解毒薬』をぬりこんだあと、ようやく少し落ち着いた二人は、ふぅっと軽くため息をついてから、羽加瀬信太の方を見て「羽加瀬、これまで悪かった。許してくれてありがとう」と
逆に羽加瀬信太は何て答えたらいいかわらかない様子で、「え、え、いいよ、そんな。解毒薬がもらえてよかったよ。おめでとう?」とよくわからない受け答えをしていた。
すると今度は、「じゃあ、もういいでしょ。はやく帰ったらどう?これからは羽加瀬君にちょっかい出さないでよね。あと、ちゃんと漫画は返しておくんだよ」と真中しずえが、酒見正と一ノ瀬さとしに向かって、相変わらずの
田中洋一は、『またケンカになるかも』と心配したが、意外にも二人とも素直に「わかった、これから帰るよ。漫画も返す。先生にもきちんと謝る」と返事をした。
「あ、先生には言わなくてもいいと思うよ」と、空木カンナが会話に入ってきた。「え?」と酒見正が聞き返すと、「池田先生、この問題になーんにも気づいてなかったみたいだから、わざわざ教えてなくてもいいよ。教えちゃったら
「僕も空木さんの意見に
「でしょ。私もそう思う。」
「あ、それと、空木さんの持ってた『薬』についても
「たしかに。」
そして、「どうかな、お二人さん?」と酒見正と一ノ瀬さとしの方を向いて空木カンナが聞いてきた。
「わかった。言う通りにする。」
「ん、よかった。ありがと。」
「じゃあ、俺たちは帰る。漫画は明日家から持ってきて、誰にも見つからないようにこっそりと図書館に
「それでいいと思うよ。あ、あと・・・」
「わかってる。お前の持ってる『薬』については何も言わない。」
「それと?」
「羽加瀬にはもうちょっかいは出さない。」
「うん、
「わかった。田中の手品、
二人が教室から出たあと、田中洋一は「これで
「みんなありがとう」と羽加瀬信太が言うと、空木カンナが「あの二人にきちんとノーを言えた君も
「でもカンナ」と真中しずえが話し始める。「あんた、あんな
「それ、全部ウソだと思うよ。」
「ウソ?」
「うん。そんな『毒』なんてないと思うな。それに、『解毒薬』って言ってたドロッとした
「ハンドサニタイザー?」
「
「
「あの液体がハンドサニタイザーだってよくわかったね、沢木君。」
「アメリカにいるとき、ときどき使ってたからね。
「そうなんだ。でも、そんな『毒』はないってどういうこと?」
「いやー、そんな
「常識的に考えて?」
「うん。だって危なすぎるよね、そんな
「あれ?沢木君らしくないな。たしかに、私はそんな『毒』は持ってなかったけど、
「えー、カンナって何でそんなこと知ってるの?」と、今度は真中しずえが会話に入ってくる。
「去年の夏休みに大学の
「え、そうだっけ?」
「もう、しずえちゃんったら忘れっぽいんだから。」
「えー、カンナがすごすぎるのよ。でも、
「そうよ。科学が
「じゃあ、これからもみんなで科学探偵クラブを
「相葉さんは・・・?」
「あ・・・」
・・・そのとき、旧校舎の図書室でアガサクリスティの『そして誰もいなくなった』を読んでいた相葉由紀は、なぜだかしらないけど
(「第三章:仲間」おわり)
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