【第四章:ターゲット発見(2)】
「君たちは去年も来たんだけど、とりあえずまた研究室の中を
その日は土曜日にも関わらず、多くの学生が研究室にいて、みんな
「土曜日なのに、たくさん人がいるんですね」と池田勇太が聞くと、「研究者に休みはないからね」と苦笑いをしながら冬木浩二は答えた。
一通り実験機器を見せてくれたあと、冬木浩二は大きな
「せっかくだから、彼が
はじめに池田勇太が顕微鏡をのぞき、続いて空木カンナが、そして最後に真中しずえが顕微鏡の
「きれい」と真中しずえがピントを合わせながら言って、接眼レンズから目を話して、「これは何の細胞なんですか?」と聞いてきた。すると、冬木浩二は少し
その男の人は
先ほどの会議室での穏やかそうな冬木浩二の態度と、今の冬木浩二の態度が少し違ったことに対して真中しずえは少し
「これはマウスの
「ひぞう?」
「そうです。脾臓です。より正確にいうと、脾臓のランゲルハンス
「ははは、聞きなれない言葉がたくさん出てきて困ってるみたいだね」と、学生に対する態度とは違い、再びにこやかな表情に戻って冬木浩二が真中しずえに話しかけてきた。「人間だとここら辺にあるんだよ」とお腹の辺りを指差した。
「インスリンを出す細胞のことですか?」と、空木カンナが聞いた。
「え?よく知ってるね。うん、そうだよ。僕らは
「糖尿病って、おしっこが甘くなる病気なんだよ」と、池田勇太が自分の
「糖尿病と、その、ベータ細胞?ってどんな関係があるんですか?すみません、基本的なことをわかってなくて」と真中しずえが少し
「全然恥ずかしがることはないよ。自分が知らないことを、きちんと質問できるのはとても大切なことなんだよ」と冬木浩二は
「えっと・・・」と少し口ごもりながらも学生は、
「この緑色はGFPでしょうか」と空木カンナが聞くと、「君は本当に良く知ってるね。そうだよ。GFPのシグナルなんだ」と冬木浩二は答えた。
「先生、GFPって何ですか?」と小声で真中しずえが聞くと、池田勇太は「え?えっと、えっと、ぐれーと・ふーせん・ぱんち・・・?」と訳のわからないことを言った。
「おい、勇太、適当なことを生徒に教えちゃだめだぞ。GFPくらい知ってるだろ。Green Fluorescent Protein、緑色の
そんな池田勇太のことを
「ううん、それは違う。GFPはマウスの細胞には出ていない。もちろん、人間にもね。ある
「何のためにですか?」と今度は空木カンナが聞く。「僕らはね、年をとるにつれて何でインスリンが減るかを調べたいんだ。でね、年とともに発現レベルが減るのはインスリンだけではない。だから、そういったものの中にインスリンを作るのをヘルプしているタンパク質があるのではないかと考えているんだ。だから、そのタンパク質とGFPをくっつけて、そのタンパク質の発現レベルを人工的に増やしたらどうなるかを見てるんだ。」
「GFPのシグナルが出てるということは、目的のタンパク質の発現レベルも増えているはず、ということですか?」
「まさにその通り。」
冬木浩二と空木カンナの会話を聞いていた真中しずえは、「すごーい、そんなことができるんですね。私たち人間の体でも、そういうことはできるんですか?」と聞いてきた。
「
「そうなんですね。」
「
「りんりてき?」
「えっと、わかりやすく言うと、人としてやってはいけないこと、ってことかな。人間で実験をしちゃいけないとか、研究をするには色々なルールがあるんだよ。」
「なるほど、そうなんですね。」
「もったいないな」と小さな声で空木カンナは言ったが、横にいた真中しずえ以外は誰もその
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