【第二章:科学探偵クラブ(9)】

空木カンナら四人は、その後でみんなで図書準備室に入り、羽加瀬信太が隠していた漫画本を回収かいしゅうして、こっそりと新校舎の図書室に戻した。


帰り道、四人は途中までは一緒に帰ったが、一番始めに空木カンナがみんなと別れた。わかぎわ、空木カンナが「羽加瀬君、何かあったらいつでも私たちに相談してね」と言うと、羽加瀬信太は「うん、ありがとう」と、これまで抱えていた悩みがなくなって気持ちが軽くなったのか、明るい声でそう言った。


その後、五分ほど残った三人で歩いてから、羽加瀬信太が「じゃあ、僕はこっちだから。今日は本当にありがとう」と言ってから、田中洋一と沢木キョウに「バイバイ」と手を振って自分の家の方へと帰っていった。


羽加瀬信太の姿すがたが遠くに去っていって、二人で再び歩き始めたところで田中洋一が沢木キョウに話しかけた。


「どうなることかと思ったけど、何とかなりそうでよかった。」

「まあ、羽加瀬君の問題もんだいはまだ解決かいけつしてないけどね。」

「うん、そうなんだよね。心配しんぱいだけど、きっと大丈夫だいじょうぶだよね。」

「大丈夫だと思うよ。羽加瀬君が強く出れば、酒見君と一ノ瀬君はこれ以上は意地悪いじわるをしなくなるんじゃないかな。今日の様子を見ると、羽加瀬君の決心けっしんは強いようだし、彼なら大丈夫。何かあったら一緒に助けてあげようね。」


「う、うん・・・」と少し不安ふあんそうに田中洋一は答えた。


「大丈夫大丈夫、そんなに心配しんぱいしなくても。そのときは空木さんも一緒だし、きっと真中さんも味方になってくれるはず。それだけの人数にんずうがいれば、彼らも強く出れないよ。それに・・・」

「それに?」

「空木さんがいるだけで色んな問題ごとは解決かいけつしそうな気がするんだよね。彼女は本当に六年生なの?なんか大人と話しているような感じがするんだけど。」

「うーん、実は僕もそんなに空木さんのことは知らないんだよね。彼女、五年生のときに引っ越してきて、クラスでは静かにしてたから。でも、たしかに、今日の空木さんは、まるで大人がしゃべっているようだったね。」


そのとき、田中洋一がふと何かを思い出した。


「あ、そうだ。僕、まだ一つ疑問ぎもんがあったんだ。」

「何?」

「羽加瀬君が持ってきた新しい鍵、番号は『0712』だったでしょ。で、真中さんの誕生日も七月十二日だったでしょ。すごい偶然ぐうぜんだよね。あのとき、もし真中さんの誕生日がちがっていて、あの場にいたみんなの誕生日が七月十二日じゃなかったら鍵の番号はわからないままだったよね。その場合、羽加瀬君はどうしてたんだろ。」

「あれ、偶然じゃないと思うよ。」

「え?」

「羽加瀬君は真中さんの誕生日が七月十二日だったって知ってたんだよ。で、その番号の鍵は前から持ってたんじゃないかな。だから、その鍵を家から持ってきてえたんだと思うよ。」

「なんで?」

「それは、何でそんなことしたのかって質問?それとも何で知ってるのって質問?」

「えっと・・・両方りょうほう・・・かな?」

「空木さんがここにいたら『証拠はないんだよね』って言われそうだけど、僕が思うに羽加瀬君は・・・。いや、それは僕の口からは言わない方がいいかな。」

「えー、そこまで言って内緒ないしょなの?」

「そういう人の気持きもちがわかるようになるのも良いマジシャンの条件じょうけんだと思うよ。頑張がんばって練習しないと。じゃあまた来週らいしゅうの月曜日に会おうね。バイバイ。」


そう言って沢木キョウは去っていった。後に残された田中洋一は、呆然ぼうぜんとして沢木キョウの後ろ姿を見続けていた。


(「第二章:科学探偵クラブ」おわり)

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