【第二章:科学探偵クラブ(2)】

翌日よくじつ、いつもとちが筆箱ふでばこつくえの上に置いてるのに気づいた真中しずえ(まなか・しずえ)が相葉由紀に話しかけてきた。


「おはよう。今日は新しい筆箱を持ってきたの?それ可愛かわいいね。」

「これ、私が3年生のときまで使っていた古い筆箱なの。いつもの筆箱はちょっとなくしちゃって・・・。」

「そうなんだ。前に使っていたのにすごく綺麗きれいだね。由紀ちゃんは物を大事だいじに使ってるんだね。」

「う、うん・・・。」

「どうしたの?なんか元気ないみたいだけど。」

「ううん、大丈夫。」

「本当に?私ができることがあったら言ってね。」

「うん、ありがとう・・・。実はね・・・。」


と言って、相澤由紀は昨日の放課後に旧校舎の図書室できた出来事を話した。


「そうだったんだ。筆箱、そこの机に置いてきちゃったんだね。」

「うん、読みかけの本とかノートとかも置きっぱなしのままなんだ。今日の朝、この教室きょうしつに来る前にその図書室にりたかったんだけど、何だかこわくて・・・。」

「じゃあ一緒いっしょに行こうよ。」

「え、ほんとに?」

「うん。今から行ったら朝の会に間に合わないかもしれないから、二時間目と三時間目の授業じゅぎょうの間の15分休みのときに走って取りに行こうよ。」

「ほんとにいいの?怖くない?」

「大丈夫大丈夫。実はね、この間、私とカンナで科学探偵かがくたんていクラブを作ったんだ。」

「科学探偵クラブ?」

「ほら、カンナと私は科学クラブに入ってるでしょ。それでね、このあいだ不思議な現象げんしょうなぞを科学の力で解き明かす科学探偵をしてみると楽しいかもね、って話してたの。だから科学クラブの下部組織かぶそしきとして科学探偵クラブを作ろうとしてるんだ。」

「そ、そうなんだ。」

「だけどね、不思議な現象や謎って、実は身近みぢかにはあんまりないんだよね。だから、科学探偵クラブの事件簿じけんぼ第一弾だいいちだんとして、この旧校舎の図書室にあらわれる幽霊の謎を解いてみようかな、って由紀ちゃんと今話していて思ったんだ。」

「そっか。」

「学校の七不思議ななふしぎみたいで面白くない?」

「どうかな。私はちょっと怖いけど・・・」


と、相澤由紀が言ったところで、近くのせきにいた悪ガキ二人組の一ノ瀬さとし(いちのせ・さとし)と酒見正(さかみ・ただし)が馬鹿ばかにしたような口調くちょうで「学校の七不思議だってよ」「そんなの昭和時代しょうわじだいでしか盛り上がんねーよ」と、口々に言って真中しずえにからんできた。


「あんたたち、またそんな悪口ばかり言って。」

「悪口なんかじゃねーよ。今さら学校の七不思議なんて流行はやんねーよ、って言っただけだろ。」

「そんなこと言って、本当は怖いんじゃないの?」

「な、何言ってんだよ。怖いわけねーだろ、そんなうわさ。幽霊なんているわけねーし。」

「私もそう思うよ。だから科学の力で旧校舎の幽霊の謎を解き明かそうとしてるのよ。」

「無理無理。お前なんかじゃ幽霊の謎はわかるわけないじゃん。」

「言ったわね。由紀ちゃんが見た幽霊を絶対につかまえてみせるから!」


「私、幽霊は見てないし、別に捕まえてほしくもないけど・・・」と、小さな声で相澤由紀が真中しずえに言った。


「え、そうなの?でも幽霊っぽいのが近くにいたのはたしかなんだよね。たんに自分の目で見てないだけで。私、その謎を解いてみせるわ、由紀ちゃんとカンナと一緒に。」


「え、私も一緒に幽霊のなぞを解くの?」と相葉由紀がおどろいた声で言ったとき、少しはなれた席でランドセルから教科書を出していた空木カンナも全く同じセリフを言ったのは真中しずえの耳にはとどかなかった。


***


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