【第一章:転校生(3)】

その日は、梅雨つゆ時期じきにも関わらずひさしぶりに天気が良かった。そのため、給食きゅうしょくの後の休み時間には、多くのクラスメートが校庭こうていに出て遊んでいた。しかし、何人かのクラスメートは、この日も田中洋一の周りに集まっていた。


「今日はどんな手品を見せてくれるの?」


田中洋一の机の前のイスに後ろ向きにすわっていた真中しずえ(まなか・しずえ)が聞いてきた。


真中しずえはこのクラスの中心的ちゅうしんてきな人物で、田中洋一とはちがって、運動も勉強もできる女の子だった。


彼女かのじょ科学かがく不思議ふしぎなことが大好きで、学校の科学かがくクラブには四年生のときから入っていた。


昨年の夏休みの自由研究じゆうけんきゅうでは、科学クラブ仲間なかまでクラスメートでもある空木カンナ(うつぎ・かんな)と一緒いっしょに、『土壌どじょうのアルカリ性が植物しょくぶつ伸長しんちょうに与える影響えいきょう』という研究けんきゅうプロジェクトでC県の教育長賞きょういくちょうしょう受賞じゅしょうしていた。


「沢木君は手品は好き?」


真中しずえは田中洋一の隣に座っている沢木キョウにそう聞いた。


「うん、それなりに好きだよ。」

「じゃあ、沢木君も一緒に洋一君の手品を見ようよ。彼の手品はね、ときどき失敗しっぱいしたりするから手品のタネを見破みやぶれることが多くて楽しいよ。」


余計よけいなお世話せわ」と言いながら、田中洋一は手品の準備じゅんびをした。実はこの日、田中洋一は新しい手品をランドセルのすみっこに入れて持ってきていたのだ。


田中洋一は先週の誕生日たんじょうび十二歳さいになり、そのときに誕生日プレゼントとして新しい手品用トランプを親に買ってもらっていた。


「じゃあ、今日は皆さんに新しい手品をお見せします」と言いながら、少し大げさな素振そぶりで田中洋一はトランプを箱から出して、こなれた様子でトランプをシャッフルした。そして、「だれかトランプをシャッフルしてくれる人いますか?」とまわりのギャラリーに聞いた。


この日は、真中しずえ、沢木キョウの他にも、空木カンナと羽加瀬信太(はかせ・しんた)も田中洋一の手品てじなを見ていた。


***


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