【第一章:転校生(2)】

小学六年生になって二ヶ月がったある日の朝、田中洋一のクラスである六年三組の担任たんにんの先生にれられて知らない男子が教室きょうしつに入ってきた。


「はい、みんなせきについて。これから朝の会を始めるよ。」

「先生、その人だれ〜。」

「これから紹介しょうかいするから、はやく自分の席にすわりなさい。」


「は〜い」とやる気のない声でそう言いながら、一之瀬さとし(いちのせ・さとし)はだるそうに自分の席についた。一之瀬さとしは、体が大きく乱暴らんぼうな子供だ。勉強は苦手にがてで、先生の言っていることをさえぎることが多く、いつも授業じゅぎょう邪魔じゃまばかりしていた。


しかも、六年生になってからは、彼のとなりに座っている酒見正(さかみ・ただし)と一緒いっしょに、色々いろいろと悪いことをしているとまわりからはうわさされていた。


「今日はみんなに新しいお友達を紹介しょうかいします」と、担任たんにんの先生がそう言って朝の会を始めようとすると、「新学期しんがっきが始まって二ヶ月も経ってるのに今さら転校生てんこうせいかよ」と、いつものように一之瀬さとしは先生の発言はつげん邪魔じゃまするようなことを言った。


しかし、担任の先生は一ノ瀬さとしを注意するでもなく、「彼は沢木さわぎキョウ君です。沢木君は今まではアメリカに住んでいたのですが、ご家族の都合つごうで日本にもどってきました。久しぶりの日本での生活ということで皆さんの助けが必要ひつようなこともあると思います。みんな親切しんせつにしてくださいね」と、新しくクラスに入ってくる男の子のことを紹介しょうかいした。


「なんだよ、アメリカ帰りかよ。日本語わかんのかよ、そいつ」と、今度こんどは酒見正が茶々ちゃちゃを入れた。そして、隣にいるさとしと一緒にゲラゲラと笑った。


「さとしにただし、少しはしずかにしていなさい。そんなことは言ってはいけませんよ。沢木君、彼らは口は悪いですが、やさしい子たちです。他のクラスメートもみんな良い子ばかりなので、心配しんぱいしないでくださいね。」


「はい」としずかにうなずいた沢木キョウだったが、一之瀬さとしにも酒見正にも、それどころか、クラスの誰に対しても、彼はまった興味きょうみを持っていないようだった。


そして、「沢木君、自己紹介じこしょうかいをしたいですか?」との担任たんにん質問しつもんには、沢木キョウは「いいえ」とかる返事へんじをして首を横にっただけだった。そのため、転校生である沢木キョウの紹介はすぐに終わり、いつもどおりの朝の会が始まった。


沢木キョウは、黒板こくばんに向かって左端ひだりはしの一番後ろの席に座るようにと言われ、最近買ったであろうランドセルを右手に持ったまま、そこの席に向かった。沢木キョウのとなりの席に座る男の子は田中たなか洋一よういちだった。


***


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