第6話:最初のカップルが誕生したようで

 入学から一週間。ある程度のグループが早速形成され、教室は今日も賑やかだ。


「カモシー! お疲れ!」


 ここにもグループが一つ。放課後の掃除から戻ってきた高身長イケメンの熊が自席に座りながら隼とハイタッチ。


「え! ずるいずるい! 私も!」


 新入生一の美少女潤佐。桃色の可愛い髪を今日はお団子にまとめており、こちらも熊と同じくハイタッチ。

 顔面が最強の二人に絡まれる隼は良くて中の上。自分とは釣り合いが取れない付き合いだが、一週間も絡まれているとその環境にも順応する。


「お前らちゃんと掃除したか?」

「「もちろん!」」


 イケメン&美女は二人揃ってドヤ顔を浮かべている。


「隼ぉ! おいおい聞いてくれよ!」


 グループの四人目弘高が合流し、隼の周りが一層騒がしくなる。弘高は自分の席に戻らずまっすぐ隼の元へと駆け寄ってきた。


「なんだよ」

「さっき聞いたんだけど、四組のA子と三組のT男が付き合い始めたらしい!」

「早いな。まだ一週間しか経ってないぞ」

「何それ! 気になる!」


 弘高が持ってきた話にカナが食いついた。


「カナ、恋バナとか興味あったんだ。昆虫とかしか好きじゃないと思ってた」

「失礼な! 私だって恋の一つや二つ、経験していますとも」


 プリプリと怒りながら頬を膨らませるカナの発言に、教室(主に男子)の空気がざわりと波立つ。このグループの会話を聞き逃さんと、全員(主に男子)が集中して耳を傾ける気配がする。


「じゃあさ、放課後恋バナ大会しようよ!」


 カナの提案により部活に所属していない四人は残って恋バナ大会に参加することとなった。多くの生徒が部活に所属しているため、この会話を聞けないことに全員(主に男子)が血涙を流していた。


「第一回! もうカップルが誕生しちゃったけど実際のところみんなどうなのさ、恋愛経験喋って仲良くなろう恋バナ大会〜!」

「タイトルコールがなげぇ……」


 何やら張り切っているカナは早口でタイトルを言い切り、そのまま司会進行を務める。


「私は小学生の時に彼氏がいたことがあります! 今はいないです! じゃあハヤト!」

「こういうのって同性同士でやるもんだと思ってた」

「俺もカモシーの恋愛経験聞きたい!」

「なんでだよ! 俺なんかの話聞いてもつまんないだろ」

「でも、ハヤトは彼女できたことなさそう! なんか、色々細かそうだし!」

「なんかいきなりディスられたんだけど」

「ドンマイ、カモシー」

「慰めるな! まぁカナの言う通り彼女なんてできたことないですよ。どうせ君たちと違ってモテませんから!」


 カナに揶揄われ熊から慰められる隼は卑屈に恋愛遍歴を語った。


「それじゃあ、竹林くんはどう?」

「俺も隼と一緒で彼女できたことないぜ!」

「そうなんだ〜。クマリンは?」


 隼経由の交友関係だが、いつの間にかカナは熊のことを先述のように呼んでいる。


「同じく」


 隼はここの中で「おい男子」とツッコミながら沈黙を貫く。自分もその男子に含まれているから。


「えー、つまんないよぉ。他に恋愛系の話題ってある?」


 早くも進行能力の無さが露見したカナは周りに話題出しを振る。


「俺たちの話題はないけど、実際のとこ潤佐さんと熊ってどうなってんの?」


 カナからの振りを拾った弘高が話題を広げる。議題は学年一の美少女とイケメンのカップリングについてだ。A子とT男が付き合ったという情報は本日から流れ始めたものだが、カナと熊のカップルについては入学から数日で噂が立っていた。

 席が近く隼繋がりではあるがあだ名で呼び合う関係。そういった話題に興味惹かれるお年頃のため、誰もが二人が付き合っているのではないかと邪推していた。


「俺とカナちゃんが付き合ってるかって?」


 指名された熊は驚きに目を見開き、カナと目を合わせてニヤリと笑った。


「「ないない!」」


 二人揃って爆笑しながら否定し出した。


「チクリン、俺とカナちゃんは付き合ってないよ」

「そうなの!?」

「俺もちょっとあるんじゃないかって思ってたー」

「カモシーまで!?」

「いや、だってお似合いだし。なぁ?」

「うんうん!」


 隼から同意を求められた弘高は首を大きく縦に振って肯定した。非モテメンズたちから勘違いされていたことを熊は面白く感じたのか「バカだなー」と笑っている。


「カモシー、大事なのは顔じゃないぞ」

「イケメンに言われると腹立つ!」


 優しい表情まで作って諭すような熊の顔を隼はほっぺを抓って歪める。


「それに、カナちゃんも俺みたいな男はタイプじゃないと思うよ! でしょ?」

「うん! 私も顔より中身重視タイプだから!」


 お互いの顔は認めつつ、相性が悪いだろう二人の間に相容れない空気を感じ、隼はそれ以上踏み込むのはやめることにした。だが内心では「こいつら今互いに顔だけって言ってたよな」と、ツッコミたい気持ちを抑えていた。

 二人とも良い意味で純粋すぎる。他の人間が言われれば嫌味に取られるような言動もビジュ強ポジティブ人間の前では褒め言葉として受け止められる。


「じゃあさじゃあさ、俺なんてどうよ! 潤佐さんのタイプ的に!」

「うーん、チクリンはアホっぽいからなぁ」

「お前が言うな!」


 さらりと躱されてしまった弘高に変わり隼がツッコミを入れる。脳内小学生カナだけには言われたくないだろう。

 隼が弘高に目を向けると、「アホだなんてそんな〜、よくわかってるじゃない」と照れ笑いを浮かべていた。

 ポジティブしかいないのかと、隼は三人の自己肯定感の強さに少しだけ羨ましいと思うのであった。

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鴨島隼の奇妙な日常 明通 蛍雪 @azukimochi

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