飛梅と小説家《薄氷奇譚》7
私は、『
──困った。声だけでは、
「これはまた、にっちもさっちも――どうにも」
しかしながら、暗中模索を厭うていては
その為私は、どうにか気を取り直し、
目を凝らすと、不思議なことに、白い金平糖の中央で、更に小さな人影がユラユラと揺れている奇妙な
が、
人影は、私に助けを求め続ける。
「先生。偉い小説家の先生。ね、凄いんでしょ? お隣のおばちゃんが言ってたよ、頭が良いって。どうかボクを助けて。早くここから出たいんだ。病気の母さんの所に帰らなきゃ。お使いのお薬を持って帰るのを1人で待っているんです。薄氷に惹かれて寄り道なんてしなきゃ良かった……」
かつてない規模の類稀なる怪しさだ。
それでも、これが、童男の行方に繋がる唯一の糸ならば、手繰り寄せるしかない。どんなに放り出したくとも、逃げるわけにはいかなかった。
ゆえに、私は努めて優しく菓子に接した。
傍目から見ると唐突に金平糖に話しかけ始めた大男が私なわけで、誰かしらに見られた際に最も怪しく思われてしまうのは彼奴ではなく私の方でまず間違いないだろう。
どうあれ、素知らぬ顔をして人影と話す。
「はて。薄氷童子とは初めて耳にする名の妖であるが、いったいそれは何者か? まこと無知にて恥ずかしき限りではあるのだが、1つこの浅学な先生にも解るように少々教えてはくれまいか?」
彼奴は答える。
「解りません」
「ならば何故――」
私は、責める言葉を吐き出しかけたが、
――何故……薄氷童子という名を知っていたのだ。妖は人間に主導権を奪われてはならぬゆえ、滅多なことでは自らは名乗らぬ筈だ。
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