飛梅と小説家《薄氷奇譚》5



 私は急いで居間にゆき、家人と小早川くんに、「これこれこのような子供を見やしなかったか」と幾度も訊ねた。

 が、にわかには信じられぬ事に、私以外誰一人として童男おぐなを目にした者がいない。

 あんなにも大きな声で長時間子供がはしゃいでいたにも拘らず、だ。

 居間に居合わせた女中頭にも尋ねたが、やはり「知らぬ」と言う。

「あゝ……私のせいだ」

 私は頭を掻き、使いすぎで潰れきっている紺の座布団の上にドッカと座り込んだ。

 『果たして童男は何処どこの家の子か』『薄氷はどのようなあやかしであるのか』それらを直様じきさま確かめるすべを今の私は全く持っていない。

「まいったな」

 ――いずれにしろ、童男は助けねばならない。たとえ彼が全てに忘れ去られていようとも。

「私はただ怪奇小説を書いているだけの人間だというのに。もういい加減にしてくれよ……」

 書斎の片隅では、まるで狂い始めたかのように、柱時計の振り子が刻む独特で癖のある動作音が、延々と響き続けていた。

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