飛梅と小説家《薄氷奇譚》4
弐
まことに驚くべき事が、今、私の目の前で展開していた。
それは、私の書斎にて否応なく
頭の中で、1から情報を整理する。
異変の発端となる出来事の幾分前、書斎の正面にある客間では、私が室内に戻りて早々我が家を訪れていた
私はというと、
なにしろ小早川君の奴ときたら、白紙の原稿について説明をする私の話を全く聞かずに、私を、所謂カンヅメに処したのだ(彼は私より約8寸も背丈が低いのに、一旦怒ると巨人の如き気迫がある)。東風の馬耳を射るが如きとはまさに、だ。
無論、開き直った私も悪いのだが――。
そう。
本当に、私は、あの瞬間まで気づかなかった。
それが異変の片端であるとの想像すらできずにいたのだ。
裏庭の向こうには、相も変わらず遊ぶ童男。
パリン、と、
パリン。
パリン。
パリン。
「――待て」
はたと勘付く。
「いつまで割れ続けるんだ?」
「待て待て」
困惑しながら顔を上げ目を凝らす。
と、童男が踏み割るそばから薄氷が素早く動き元の姿へと戻っている気味の悪い様が見えた。
「おい坊主――」
直後に、私の見つめていたその真ん前で、声もなく
「おっ――おい! 待て! 待て! 待て!」
慌てて窓に駆け寄る。が、時既に遅く、童男の姿など何処にもない。影も形も残ってはいない。
「坊主! 返事をしろ! 坊主! おい!」
既に、静寂が辺りの音を統べていた。
抗いようもなき怪事を前に、私は息を呑む。
それはまさしく、刹那の油断を狙って瞬く間に為された犯行。
つまり《神隠し》であると思われた。
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