飛梅と小説家《薄氷奇譚》2
壱
やけに
思えば、今まで随分と長い月日を、このような虚しき思案に時を預け過ごしてきた気がする。
机上に目をやる。と、原稿用紙は相も変わらず真っ白だ。
『絶望』
その言葉が私の脳裏を
「おお、もう昼か」
条件反射で顔を上げ、時計の文字盤を確かめる。
針は揃って天を指しており、正午丁度だった。
「要するに 『最早これまで』だな!」
ポンと膝を打ち、筆を置く。
「よし──!
小早川君とは、私の担当編集の名前だ。
常は味方だが、今この時ばかりは敵である。
「原稿を書く気はあるんだがなァ」
神に誓って、書く気概だけは
しかしながら、如何せん世の中には仕方のない場合があり、気分転換が必要な瞬間があり、まさしく今がその時であった。
煮詰まった脳髄に、ひと時の諦念を。
そのような次第にて、私は、万一の遭遇を避け窓から抜け出すことを今決意した。
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