8
目を覚ます。
いつの間にか、眠ってしまっていたようだ。
ぼんやりした頭で物音のしたほうを見ると、ちょうど後輩がシャワーを浴び終えたところだった。
ここがラブホテルのベッドの中だと思い出す。
「寝ちゃってたんですか?」
名前も思い出せない女性が、ささやきながら、身体を寄せてくる。照明が落とされた薄暗い闇の中、シャンプーのにおいが鼻に届いた。僕もこの子も、同じ匂いを身にまとっている。
変な姿勢で寝たのか、下半身がしびれている。自分の性器の状態が分からなかった。
「緊張してます?」
悪戯っぽく笑われた。
「かなり」
と取り繕う。
後輩が身にまとっていたタオルが、取り払われる。
裸身が露わになり、現実感のなさに、自分の頭がぼうっとしてくる。嫌でも、目が彼女の肢体に吸い寄せられそうになる。
ただ、彼女の肩越しに、窓が見えた。
決して大きな窓ではなかった。都会から見える、いつも通りの空のはずだ。けれど、その空は、限りなく美しかった。
星が、いっぱいに輝いていた。一つ一つが瞬いて、何かを懸命に伝えようとしているかのようだった。人が最後に行き着く場所として示されたとしても、誰もが納得できるような色をしていた。
「ねぇ、空って、こんなにきれいだったっけ?」
静謐な天に、目をくぎ付けにされたまま、僕は思わず尋ねている。
彼女は明らかに気が削がれた様子で言う。
「暗いところから見てるからじゃないですか?」
近づいた女の顔が、視界を埋めて、僕の目から空を隠した。
童貞録 光 @R4i
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます