目を覚ます。


 いつの間にか、眠ってしまっていたようだ。


 ぼんやりした頭で物音のしたほうを見ると、ちょうど後輩がシャワーを浴び終えたところだった。

 ここがラブホテルのベッドの中だと思い出す。


「寝ちゃってたんですか?」


 名前も思い出せない女性が、ささやきながら、身体を寄せてくる。照明が落とされた薄暗い闇の中、シャンプーのにおいが鼻に届いた。僕もこの子も、同じ匂いを身にまとっている。


 変な姿勢で寝たのか、下半身がしびれている。自分の性器の状態が分からなかった。


「緊張してます?」

 悪戯っぽく笑われた。


「かなり」

 と取り繕う。


 後輩が身にまとっていたタオルが、取り払われる。

 裸身が露わになり、現実感のなさに、自分の頭がぼうっとしてくる。嫌でも、目が彼女の肢体に吸い寄せられそうになる。


 ただ、彼女の肩越しに、窓が見えた。


 決して大きな窓ではなかった。都会から見える、いつも通りの空のはずだ。けれど、その空は、限りなく美しかった。


 星が、いっぱいに輝いていた。一つ一つが瞬いて、何かを懸命に伝えようとしているかのようだった。人が最後に行き着く場所として示されたとしても、誰もが納得できるような色をしていた。


「ねぇ、空って、こんなにきれいだったっけ?」


 静謐な天に、目をくぎ付けにされたまま、僕は思わず尋ねている。


 彼女は明らかに気が削がれた様子で言う。

「暗いところから見てるからじゃないですか?」


 近づいた女の顔が、視界を埋めて、僕の目から空を隠した。

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童貞録 @R4i

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