あれよという間に、ラブホの一室まで来てしまった。

 僕はシャワーを浴び終え、いまは、後輩が汗を流している。

 重い身体をベッドに横たえると、自分の心臓の音が聴こえた。ゆっくりと、しかし大きく跳ねている。目を閉じる。似た動悸を、かつて経験したことがある。


 小学生で偽りの遅刻を繰り返し、自虐することで集団になじむことを覚えた僕の勢いは中学でも止まらなかった。

 クラスに、面田という巨漢の生徒がいた。

 何をするにものろく、周りに迷惑をかける彼を、みんなは疎ましがり、揶揄った。しかし、彼は全く動じず、どんな言葉にも眉一つ動かさず、学校生活を続けていた。


 それがつまらなかったのだろう。彼に対するいじりは次第にエスカレートしていった。暴力や肉体的な攻撃にこそ発展しなかったが、悪意ある言葉が飛び交った。けれどもなお面田は飄々としていた。


 その日も、彼はみんなの言葉などどこ吹く風で、机に座っていた。

 僕は、彼の二つ隣の席に座っていた。

 面田への揶揄いの言葉を、一言も発しない僕に、責められているような気分になったんだろう。お前も何か言えよ、という空気がいつの間にかできあがっていた。


 できることなら言いたくなかった。


 誰かに悪意ある言葉をぶつけるなんて、夜空と一緒にいた頃の僕であれば、考えられないことだった。


 でも、みんなはそれを望んでいる。正確には、面田以外の全員が。


 僕は、彼が自分の性器の小ささを気にしていることを知っていた。トイレで小便をするとき、異常なほど便器に身体を近づけているのを、何度か見たことがあり、それで推測したのだった。


 僕がそれを指摘すると、初めて面田の顔がゆがんだ。


 人を傷つけた。胸に刺すような痛みが走った。周りは面田の動揺に湧き、僕は肩を叩かれた。それ以来、面田には性器に対する揶揄がとび、彼はその度に顔を歪ませ、またまわりが面白がり、いじめはゆるやかに激しさをましていく。


 それからは。


 人の悪口を言った。弱い人をいじめた。取り返しのつかない悪戯をした。愚かな自分を繕った。嘘をついた。

 みんなが笑ってくれるのは、楽しかった。同じだと受け入れてくれるのは、安心した。綺麗なことなんて、誰も求めていない。それに、こんな一物をぶらさげた存在は、そもそもが汚い。だったら。

 みんなと一緒がいい、などという環境のせいにした欺瞞に、僕は流され続けた。

 集団になじむためだと言い訳して、欲を満たし続けた。

 偽悪的な行動を続けているうち、どこまでが嘘で、どこからが本当か分からなくなる。

 気づいた時にはもう遅く、僕はとっくに内面まで真っ黒になっていた。

 みんなと同じであるためだと、人を傷つけ、良心の呵責に耐えているふりをしながらも、その良心はとっくに擦り切れて存在しないのだった。

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