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「え、性欲とかないの?」
「いや、そりゃ人並みにはあるっすよ!」
嘘だ。
性欲は、めっちゃある。
僕が初めてオナニーをしたのは、小学三年生のときだ。初遅刻をかましたのが四年生なので、それよりも前。
成績優秀ゆえに、好奇心旺盛だったのか。好奇心旺盛ゆえに、成績優秀だったのか。どちらかは分からないが、とにかく小さな僕には気になるものが多かった。
貪欲に知識を食らう獣であった小学三年生の僕が、いちばん興味がつきなかった研究対象。それがちんちんだ。
なぜ、ちんちんは、固くなるのか。
九歳の少年の中で、それは確かに命題といえた。
風呂場、僕が見つめる先で、手を添えていないどころか、触れてすらいないのに、ちんちんは少しずつ大きくなる。蛇が鎌首をもたげるように、ゆっくりと。やがてぴんと張り、不気味に上を向く。鬼頭が現れ、まるで一つ目の化け物のような顔と、僕の目が合う。
(後々知ったのだが、僕は物心つく前に包茎手術を受けており、その時点で皮は剥けていた。親が、将来、ここ一番で恥をかかないようにと払った高い金は現時点で全くの無駄でありなかなかに趣深いものがある)
大人に聴いても曖昧な顔で目を逸らされる。学校の図書室で調べてみても分からない。もしかすると、僕だけの身体に起きた異常なのではないか。
自分の身体を検体として、調査を続けるしかなかった。
研究を重ね続けた結果、なんかこするとふわふわする、それのみが分かった。
判明した一点を頼りに、研究をつづけ、来る七月二十一日。
僕は精通した。
風呂場、いつものように一定の速度でちんちんを擦っていた僕は、次第にその速度が速まっていくことに気づいていた。それは、止めようとして止められるものではなく、まるで潜在意識が直接、身体に指令を出しているかのようだった。
得体のしれない恐怖があった。自分の身体が、自分のものではないような。しかし、この衝動に従えば、そこに答えがあるという確信も、同時にあった。そして。
越えた。
あえて表現するなら、そういう感想になる。
取り返しがつかないことをしたという確信的な恐ろしさがはじめにあり、射精はその後だった。
既に手を離し、慄く僕の目の前で、棒状になったちんちんが、ぐおん! と真上を向き、そして、白い粘膜、虫のはらわたからこぼれ出るような色の、正体不明の液体が、尿道から飛び出て、僕の顔を汚した。
ちんちんは、一度頭を下げ、再び同じ動きを繰り返し、液体を射出する。
なぜかろくに働かない頭で、止めなくては、と思う。直後、止まんない! という恐怖にパニックになる。
顔面蒼白、力の入らない全身、その中で、唯一ちんちんだけが、力強く動き続け、謎の液体を噴出し続けている。
五跳ね目で、あっ、終わった……と静かに悟った。
射精がではなく、人生がである。
頭がもうろうとする。身体に力が入らない。身体の一部が自分の意志と反して動き続けている。これだけの材料が揃えば、なんらかの症状が身体に現れていることは疑いようがなく、しかもこれだけの異常は生きてきて初めてだった。
覚悟を決めた。
死因がちんちんの暴走というのは、なんだか恥ずかしいが、悔いはない。
ぎゅっと目を瞑る。
しかし、僕の覚悟をよそに、十跳ね目で、ちんちんの躍動は止まった。
おそるおそる目を開けると、そこにはぐったりと折れ、白い液体をまき散らし、透明な粘液をたらしたちんちんがあった。
命の危機が去り、その後に僕を襲ったのは、絶望感だった。
後の世に言う、賢者タイムである。
なにやらおそろしくきったねえものをみた。
茫然としながらも、おそるおそる自分の精液を触る。指の腹で伸ばしてみる。
やがて僕は、いや、そうじゃない、と気づく。おそろしく汚いのは僕だ。これは僕のちんちんから出てきたものだ。僕のちんちんが醜くも痙攣し、吐き出したものだ。
念入りに痕跡を掃除し、その後の一週間を僕は震えながら過ごした。
人に言ってはいけないような気がした。
自分は重病患者だという意識が抜けず、この瞬間にも人に何かしらの病原菌をうつしているのではないかという不安が止まらなかった。
あるいは、僕のちんちんだけに、エイリアンが寄生していて、ついにそれが活動を始めたのだ。こちらの意志に反して動くちんちんは、もはや別の生命体に思えた。
綺麗な優等生を演じている間も、醜いちんちんは僕のすぐそこにぶらさがっている。それがたまらなくいやだった。
それでも、一週間もすると、僕は股間に手を伸ばしていた。
辞めた方がいいと分かっているのに、やめられない。
エイリアンに脳幹まで支配された。ちんちんから寄生し、やがて僕の行動の全てを支配するつもりだ。
回数を重ねるごとに賢者タイムの深度は増し、僕は初めてリストカットをした。
リストカットといえば一般的には手首だが、僕の場合はちんちんである。
自傷というより、もっと実際的な動機だった。寄生元を切り離そうと思ったのだ。
とはいえ、うっすら線を入れるので精いっぱいだった。
ちんちんの根本にカッターの刃を当て、素早く引くと、薄ピンク色の裂け目ができる。見つめるうちに、ピンクの淵からだんだんと血が滲み、やがてその血が膨れ上がるまであふれ出す。しかしそこまでで、垂れ落ちるほどの出血はなく、やがて固まり、かさぶたになる。つまりは、それくらいの度胸しかなかった。
かさぶたは、完治しても、うっすら白いラインとなって残り、やがて僕の股間はストライプちんちんになった。
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