123 ご禁制

永華視点


時間は遡って、二時間ほど前。


 永華達は支度がすみ、すぐに協力してくれそうな相手に連絡を取り、ブレイブ家に向かう道中。


 手を貸してくれたのはリンデヒル商会の会長である、デーヒル・リンデルだ。


 ブレイブ家に行かずとも、近くに行く予定があるのなら乗せていって欲しい。知り合いがいるのなら紹介して欲しい。


 そうお願いしてみたところ、どうもリンデヒル商会の数名とデーヒルさんが元々、ブレイブ家に向かう予定だったらしい。


 リンデヒル商会の馬車、その荷台に揺られているのは私と他二人。メメ、レーピオだ。


 ララとミューとベイノットはローレスの母であるアーネチカさんの捜索のため別れて行動していた。


 編成の理由は単純。


 ブレイブ家に向かう面々は、怪我人の治療係のレーピオ、もしもの時の囮を作れるメメ、隠密や糸での索敵のできる私。


 アーネチカさん捜索に向かう面々は戦闘能力のミュー、運搬係のベイノット、援護と治療係のララ。


 振り分け、その理由はこんな感じ。振り分けたのはレーピオだ。


 占星術の先生が篠野部達は待ってればよし、アーネチカさんは近づいてきている。そんな多少ではあるものの捜索範囲が狭くなる助言をもらって、捜索班とは魔法学校で別れた。


 アーネチカさんの捜索班が別れた理由だが、ローレスがいなくなった理由がアーネチカさんを探しに行ったこと。


 そして篠野部がブレイブ家に呼ばれたこと、ロンテ先輩が行方不明になっていること。


 ローシュテール・ブレイブが篠野部を自分の屋敷に呼んだとなれば、考えられるのは、レイス親子を捕まえるための人質にすること。


 そうくればアーネチカさんとローレス、または片方がローシュテールに捕まっていない状態だろう。


 なら捕まっていない方も同時に保護しなければローレスが失踪する事件の二の舞になりかねない。


 そう考えた私たちは二手に別れることになった。


 あと単純な話、大人数でいけばリスクを上げるだけになるからだ。



 

 リンデヒル商会の馬車に乗り込む。


 屋敷に着くまで時間がかかることを危惧していたのだが、どうも急ぎの用らしく国に申請して使えるようになった転移魔法を使いうのだという。


 本当なら申請などで時間がかかるのだが、ブレイブ家の方からの口添えもあり、申請などの時間は短縮された。


 何を運ばせているのか。


 守秘義務があるだろうが、そう思って馬車に乗る前に聞いてみた。


「守秘義務があるので教えられませんめ。すみません」


「ま、そうですよね」


「ですが、“蓋が開いてて見えてしまったら”仕方ないですね」


「……そうですね。その時は近くにいる商会の人に知らせておきます。荷物が転げ出たらダメですから」


「そうしていただけると幸いです。正直、貴族のお客様よりも、うちで働いている従業員の方が大事ですから……」


 口外に蓋を開けているから見て良いと言ってるのだろう。


 それを聞いた私たちは荷台に乗り込んだあと、蓋の開いてる箱を探した。


 入り口近くの高そうな箱の蓋が開いていた。


 その箱の中には純白の衣装が入っていた。


「これ……」


「ウエディングドレス、ですねえ」


「陸の方が結婚式の際に切る衣装ですわよね?」


 なんでこれがここに?


 そう思ったがブレイブ家は貴族だ。ロンテ先輩だって婚約者がいてもおかしくないだろうから、その人に着せる用、だろうか?


 でも、ロンテ先輩は今は行方不明になっているはずだ。急ぎで運ぶ必要はないだろう。


 言い知れない、不気味なものを感じた私たちは黙り込んでしまう。


 カタン、と馬車が揺れる。


 箱の中から固いものがぶつかる、ドレスが入っている箱からは本来なるはずのない音がした。


 顔を見合わせ、意を決してフリルの海の中に手を差し込む。


 コツリ、固く滑らかなものが指先に当たった。


 それを掴んで、フリルの海から引きずり出した。


「……魔法薬?」


 出てきたのは毒々しい色をした、魔力の籠った液体が入った瓶だった。


「それはあ……すみません、それ貸して下さいなあ」


「え?あ、あぁ、うん。はい」


 毒々しい色の魔法薬の登場にレーピオはサッと顔色を変えた。


 レーピオに瓶を渡せば、あちこちから眺めたり、瓶のフタを開けて匂いを嗅いだり、何かを確かめている。


 ある程度して魔法薬の正体がわかったのか、信じられないとでも言いたげな目で魔法薬の瓶を見ていた。


 レーピオの首筋に一筋、冷や汗が流れる。


「……嘘でしょう。これ、ご禁制の魔法薬ですよお!一時的に自我を消して人形のようにする薬で扱いを間違えれば廃人になってしまうしい、使い方によっては望まぬ契約なんかが成立してしまう物、通称“人形の砂糖薬”。効果と材料から裏社会でも希少なもので値段もそこらの魔法薬の非じゃない。効果が効果だからそこ、ご禁制……。なんでこれが、ここに……」


「……はぁ!?」


「……」


 メメは開いた口が塞がらない状態で、私の上げた驚愕の声に商会の人達が何だ何だと集まってくる。


 その中には商会長のデーヒルさんもいた。


「どうかしましたか?」


 それはこっちの台詞だと言いたくなった。


 だが、恐らくはデーヒルさんはなにも知らないだろう。


 これは言った方がいいのだろうか。


 これでブレイブ家にいくのが中止になったらのなら……。


 そこまで考えて、首を振る。


 これがブレイブ家の元に届けなければいない荷物に紛れていた事実、知らなかったとはいえご禁制の物をリンデヒル商会が運ぶことになれば、解体されかねない。


 こちらは好意で協力してもらっている身、商会の解体の危機に黙っているほど非道ではない。


 私たちは商会長のデーヒルさんにだけ話すことにした。


 デーヒルさんの顔色は一瞬にして青を通り越して白くなってしまった。


 デーヒルさんはレーピオから魔法薬を受けとると、さっきのレーピオのように確認をした。


 少しして、デーヒルさんも、これはご禁制の“人形の砂糖薬”だと判断した。


 そこでデーヒルさんは商会の中でも一番足の早い者と戦闘が出きる者を呼び寄せ、魔法薬とサラサラと何かを書いた紙を入れた頑丈な鞄を持たせ、どこかにいくように指示した。


 集まってきていた商会の者達には積む品に不備があったのを私たちが見つけて驚いたと説明、商会は依然としてブレイブ家に向かうことになった。


 デーヒルさんに、それで良いのか。


 そう聞いてみれば顔色は白いまま、答えてくれた。


「行かない方が疑われて危険だと判断したからですよ。こんなものを欲する人ならば何するかわかったものではない。我々はドレスを頼まれていましたが、魔法薬のことなど微塵も知らない。我々の前では確認できないでしょうから、急いで逃げて転移魔法が設置されている場所にたどり着ければ逃げきれます。あとからの問い合わせだって、品が品ですから迂闊にはできないでしょうから、逃げきってしまえば後は専門のものに任せるだけです」


 デーヒルさんは、そういって私たち三人に乗る馬車を変えるように言った。あんなものが見つかった馬車では気も休まらないだろうと言う気遣いからだった。




 そんなこんな荷物を積んだ荷台の中で揺られながらすごすこと、一時間前後。


 私は別れた三人を心配しつつも、黒い噂の多い、しかもご禁制の魔法薬を秘密裏に運ばせる用なブレイブ家の屋敷にいくという事実に少なからず緊張していた。


 篠野部もローレスも、酷い目に遭ってないといいけど……。


 木刀を握りしめ、外と荷台の中を区切る布の中から外を眺める。


 揺られて、揺られて、三人と商会の者達は、どうも外が騒がしいことに気がついた。


「なんか、うるさくないありませんこと?」


「えぇ、何と言うか戦闘訓練の時のような感じですねえ」


 メメの言葉にレーピオが同意する。


 私はレーピオの言葉に、嫌な予感も伴って、外を覗くことにした。


 移動し続けている馬車から見えたのは荒くれ者に追いかけられている、どこかの制服を着た者達と、あれは__


「アーネチカさん!?」


「え!?」


「ローくんのお母様ですか!?」


 そこにいたのは周囲の制服を着た者達に守られながらも必死に逃げているアーネチカさんがいた。


 占星術の先生に近づいてきているという助言をもらったが、まさかこんなところで合うことになるとは、ララ達と別れない方がよかったのかもしれない。


「襲われてる」


「皆さん怪我してますねえ」


「でも、これなら目的の一つが達成できますわ!」


「そうですねえ。永華さんは残ってブレイブ家にいってもらっても良いですかあ?」


「っ!?二人とも行くの!?」


「……承知しましたわ」


「えぇ、アーネチカさんや他の方も治療が必要に見えましたあ。それに僕は戦闘が得意ではないですし、あの人数、さすがに勝てるとは思えません。メメさんの

傀儡魔法があればあ、戦闘には勝てずとも逃げきることができるでしょう。篠野部くんが透明になっていても糸で感知できる、それから治癒魔法の魔方陣が書かれた紙をいくつか持っている永華さんが残るのが一番いいんです」


 レーピオの言うことは最もだ。


 あの人数、あの怪我人の数、戦闘が不得手のレーピオが一人で戦いながら守るのは無理があるだろう。


 だからこそ戦闘がある程度出きるものが必要になってくる。


 私は糸を張っていれば篠野部が透明化していても大体の場所は把握できる。


 だがメメにはその手段がない。


 治癒魔法の魔方陣が書かれた紙をいくつかもっている私がレーピオの代わりに出ようにも、私では重傷者を治せない。


 そしてメメだってある程度の治癒魔法が使える状態で、レーピオ自ら出ようとしていると言うことは、重傷者が見えたからなのだろう。


 消去法で、私が残る他ないのだ。


 こんな事態を想定して捜索班は戦闘が得意でな者達で固めたのに……。


「はぁ、もう!こっちは私が頑張るから行ってこい!ちゃんとやることやってね。それから捜索班の

方をこっちにまわしてよ。私一人で守りきれる自信ないから」


「すみません」


「アストロでスイーツ奢らせてやる!」


「それくらいいくらでもお。見誤った僕の責任ですからねえ。それではメメさん、行きすよお」


「わかりました。えいちゃん、気を付けてくださいました!」


「そっちもね!」


 馬車が道を走る中、二人は透明になれる魔法の布を羽織、箒に乗ってアーネチカさんさん達が消えた方向に飛んでいった。


 私は、それを見送る他なかった。


「……まさか一人になるんてね」


 さすがに一人は心細い。


 けれど、状況的に仕方のないことだ。


 不安ではあるものの、やるしかない。


 私がブレイブ家の屋敷に到着するまで、あと一時間前後。

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