122 逃走経路の確保
手が延びてきたのをかわそうと思っていたが、荷台の中から糸が出てきてロンテ先輩とレイスごと荷台の中に引きずり込まれてしまった。
引きずり込まれたことで、もしやブレイブ家の手の者が隠れていなのではないかと考えた僕は急いで応戦しようとしたのだが__
「大丈夫だった!?」
聞き覚えのある声が頭の上から振ってきて、思考が一瞬止まった。
すぐに透明化の魔法を解除して、声の発生源の方向を見てみれば、そこには戌井がいた。
「……戌井?」
「手荒な真似してごめんね。透明になってたみたいでどこにいるかわからなくって、怪我とかしてない?」
引きずり込まれはしたものの、上手いこと受け身が取れていたのか誰も怪我はしていなかった。
「えっと、ローレスもロンテ先輩もボロボロだけど、それ大丈夫なの?」
「二人とも治癒魔法で治療してるから大丈夫だ」
僕の言葉に戌井は安心したように、息を吐いた。
「それより、透明化していたのになんで気づいたんだ?」
「切れやすい糸を、通るだろうと思って門と馬車周辺に仕掛けたんだ。糸が切れたのに人の姿が見えなかったから、あ、これ篠野部の自己魔法使ってるなって思って」
「なるほど」
いつかのチンピラにやった手口と同じものだな。
「え、永華ちゃん?なんで、ここに……」
「間接的ではあれ、ブレイブ家に関係がある人が三人も姿を消したら、いくら止められててもさすがに動くっての。それに、篠野部が不穏な手紙残していったし」
「見たか」
「見たよ、ビックリした」
よかった。仕掛けがちゃんと動いてくれたらしい。
「だからって、一人で来るか?普通」
確かに、荷物がいくつか入ったままの荷台の中には戌井以外の人間の姿は見えない。
隠れる理由もないだろうから本当に荷台の中には戌井だけなんだろう。
「あぁ〜……その、本当は三人で来ることになってたんだけど……色々あって……」
「色々?」
戌井は頷く。
「あんまり大人数で行くとバレるかもしれないからって、三人だけでブレイブ邸に行く予定だったんだ。他の三人は別行動でアーネチカさんを探そうってことになって……」
戌井曰く、ミューとベイノット、ララがアーネチカさん捜索にいき、戌井とメメ、レーピオがブレイブ邸に来ることになっていたらしい。
それが途中でトラブルが起きたらしい。
「放置できない案件だったから、別れることになったんだ。今回はあくまで隠密だし、占星術の先生が占ってくれたんだけど“待てばよし”って教えてくれたし。向こうは教われてたから二人に行ってもらったんだ」
「そういうことか」
トラブルの内容が気になるが今は脱出が優先だ。
話を聞くのはあとにして、ブレイブ家の敷地内から出ることになった。
「で、どうするんだ?」
「箒が三本、透明になれる魔法を編み込んだ布を六枚あるから、それ使おう。空を飛ぶから魔力探知には引っ掛からない、力流眼持ちがいたときは……その時はその時かな」
「少なくとも使用人たちの中にはいなかった。そこまで気にしなくてもいいだろう」
「ならすぐ行こう」
いたのなら僕たちのことをローシュテールに告げるはずだからな。
「……さっき、三人で来る予定だったんだよな?」
「え、そうですけど、どうかしました?」
「占いで俺がいるの知ってて動いてるんだよな?人数足したら六人で、箒一本足りなくねえか?」
「自分、体質の問題で飛べないんであるだけ無駄です」
「そんなあっけらかんと言うことか?」
「別に気にしてませんし」
透明になれる魔法の布を羽織り、それぞれが箒を持つ。
レイスがロンテ先輩を心配して相乗りしようと言い出したが、ロンテ先輩は即却下。
魔力が厳しいわけでもないのにレイスの魔力を余計に削るわけにはいかないという尤もらしい理由で断っていたが、単純に兄とくっつきたくないのかもしれない。
戌井に関しては僕の箒に乗ることになった。
魔力の減り具合的な話でも、体力的な話でも、僕が一番残っているだろうから、僕がいいだろうと言うことになった。
使わない箒と透明になれる魔法の布は戌井が回収していた。
リンデヒル商会の馬車に証拠が残っていたら迷惑をかけることになるからな。
箒に乗り、飛び立つ。
簡単にはブレイブ邸の敷地から出れた。
僕たちが脱出したことに気がついていないのか、追手は来ない。
空を飛び続け、振り返ってもブレイブ邸が見えなくなった頃にようやく体に入っていた力が抜け、緊張から解放された。
「さすがに、ここまで来れば簡単に見つかったりはしないだろう」
「見えないくらいはなれたもんな。ふぅ、なんか疲れた」
レイスがそういうのも無理はないだろう。それどころか、口には出さないが他の二人も思っていそうだ。
「あ、そうだ。途中で起きたトラブルってなんなんだ?」
余裕が出たのか、気になったらしいトラブルの件を聞いた。
「実はね、会ったんだよ。アーネチカさんに」
「は!?おわっ!?」
あまりの爆弾発言に箒の操作を誤ったらしく、一瞬で視界から消えた。
「ローレス!?」
「兄様!?」
「おい!!」
僕たちは焦ったものの、レイスはすぐに体勢を立て直した。
「お、落ちるかと思った……」
「兄様、ビックリした……」
「何してるんだ……」
「わかるけどさあ……」
驚くのも無理はないが、箒が落ちそうになるのは勘弁して欲しい。
「って、そんなことどうでもいいんだ。母ちゃんにあったって本当か!?」
「ちゃんと見た訳じゃないけど、“アーネチカさん”って呼ばれてたし、ローレスに見せてもらった写真のアーネチカさんとそっくりだったから本人だと思う」
「戌井が見たってことは、魔法学校方面に向かってるってことなのか?」
「恐らくはな。逃げる算段はたててはいないが、安全な場所に行けと言ったから目指したんだろう」
「ん?なんで、そこでロンテ先輩が出てくるの?」
あ、そうか。
アーネチカさんがロンテ先輩に拐われて、今までローシュテールのところに行かないようにされてたのを知らないんだった。
不思議そうな表情でレイスとロンテ先輩を交互に見る。
ブレイブ家で知ったことを色々と説明してやれば、余計に目を白黒させていた。
「は?ローレスとロンテ先輩が腹違いの兄弟?ロンテ先輩がアーネチカさんをローシュテール・ブレイブに渡さないために誘拐した?アーネチカさんはロンテ先輩の部下に保護されてる?は?」
「混乱するのもわかるが、今は飲み込んでくれ」
「……??……????そ、そうね?」
レイス親子が狙われているのを知ってはいたが、その理由が明確になっていない、しかもロンテ先輩の振るまいから執着している理由はろくでもない理由だと思っていたら“いなくなっていた妻と息子を探していた”という理由だったのだから混乱するのもよくわかる。
戌井は何とか状態を飲み込み、ロンテ先輩にアーネチカさんを保護しているという部下の特徴を聞いていた。
「んっと、特徴が当てはまるから、十中八九アーネチカさんたちだろうね。だとすると、ちょっとヤバイかもしれない」
「母ちゃんに何かあったのか!?」
「人から逃げてる最中だったんだよ。多分、盗賊とかの類いだと思う。逃げてるけど守ってる人たち、大怪我じゃないけどあちこち怪我してたから、メメとレーピオが助けに行ったんだよ」
だから戌井が一人できたのか。
「もっと、きちんと説明するとだね」
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