33 熊の手も借りたい
ギルドの依頼を受け始めてからかれこれ二ヶ月近くたった、今日。奇しくもクリスマスの前日。十二月二十三日だった。
マーキュリー夫婦から午後は休みと言い渡された永華達は今日もギルドの依頼を片づけ金策をしようとしていた。
「くぅ〜……寒い。住んでたところと比べ物にならないレベルに寒い!せっかくの午後休だから暖かくしてごろごろしたいんだけど、そうも言えないしなぁ」
着込んだ永華は寒い寒いと言いマフラーに顔を埋め、チョロチョロと動き回っている。多少でも動いて暖を取ろうと言う作戦のようだ。
戌井の言う通り、僕らの出身地よりも気温が低い。これは北海道の冬レベルなんじゃなかろうか。
……凍傷や氷柱に気を付けなければいけないか。
「はぁ~……次どこ行く?報酬が良いのは確か薬草採取だっけ?あぁ、でも外やだな……」
「あんなの素人が手を出すべきものじゃないだろう。調べたところ、あれに酷似したものは多数あるようだ」
「なら詳しいの呼べば良いじゃん」
「どこにあるんだ。そんな伝」
「シマシマベアーさん」
「……」
一瞬だけ思考が停止する。
一秒にも見た時に動き出して、シマシマベアーについて振り替える。森の案内役、シマウマのような柄の熊、何故かナノンと話せるふしぎな熊。
「できるのか?薬草の選別」
「ナノンちゃん曰く、危ない草やキノコを教えてくれるんだって」
始めてあった時のことを思えば、その言葉にはそれなりの信頼度がある。
「……まぁ、薬剤師も選別はするか。なら今はシマシマベアーを連れて森だな」
「言い出したの私だけど外は嫌だ。寒い、やだ」
「知らん」
「やだぁ……」
寒いのをいやがる永華を他所にカルタはシマシマベアーの居所を予想し、依頼主と八百屋に寄り道してから森へと足を踏み入れた。
空気の冷えたなか森を歩いて数分、キャッキャッとこどものはしゃぐ声が聞こえてきた。恐らくはナノンの声だろうか、これならもしやするとナノンに通訳を頼めるかもしれない。
声の聞こえる方に進んでいくと予想通り、シマシマベアーとナノンが戯れていた。
「あ、お姉ちゃん!お兄ちゃん!どうしたの?森に来るなんて珍しいね!」
「やあ、ナノンちゃん。シマシマベアーさんと遊んでたのかな?」
「うん!」
「そうなんだ。……子供は風の子かぁ。こんな寒いのによく遊べるなあ」
永華がナノンの元気さに頬をひきつらせていると、カルタは一人と一匹に近づき膝をつく。
「君らに協力してほしいことがあるんだ」
「きょーりょく?」
「ぐう?」
一体何のことだろう?そう言わんばかりの不思議そうな表情で首をかしげていた。
「そう。私達のお仕事を手伝ってほしいの、この森に関したらナノンちゃんの方が先輩でしょ?だからね?」
「せんぱい?ナノンが先輩!」
永華が先輩と言ったからか、不思議そうな表情から一変してパァアッと明るい表情に変わった。いつもされているこども扱いとは違う、大人扱いもとい先輩扱いを嬉しかったのだろう。
「何するの?」
「探したいものがあるんだ。でも見分けるのが難しくてシマシマベアーさんに手伝って貰いたいんだけど私達はシマシマベアーさんの言葉がわからないから通訳してほしいの。シマシマベアーさんもいいかな?」
「ぐ〜」
「いいよ〜って、私もいいよ。なに探してるの?」
「これだよ。似たようなのが多くて素人にはどうにもね。わかるかな?」
そういって戌井が取り出したのは依頼主「マーキュの薬屋」の店主、マーキュ・カティさんから見本のためと譲り受けた薬草だった。
類似品には毒性を持つものもあり、触るのも避けたい。それに数が給金と直結するこの仕事では似ているだけの類似品を持ち帰って給金が減るのは避けたい。だから判別が出きるとの疑惑があるシマシマベアーに頼んだ。
「ぐぐう。くぅ〜、ぐぐ」
「わかるって!匂いが独特なんだってさ」
「……草の匂いしかしないんだけどな?」
「ヒグマ場合の嗅覚は犬の七から八倍、人間だと数百万から一億倍だ。シマシマベアーがヒグマと同等かはわからないが、シマシマベアーわかって君がわからないのは当たり前のことだ」
「規模がでかすぎて想像できない単位だな……。って、そこはどうでもいいや。薬草探し、行こっか」
「うん!」
「ぐう」
シマシマベアーと、その背中に乗ったナノンの先頭に森のなかを歩きだした。
シマシマベアー曰く、少し進んだ先に群生地があるらしい。類似品も生えてるらしいが……。
「うわぁ……」
「……」
開いた口が塞がらない、まさしく今の状態のことを言うのだろう。僕らの目の前、森の開けたところ一面に薬草が生えていた。広さはざっと一軒家が三つは建てそうな広さだ。
どれもこれも同じに見えるが、この中には求めているものと類似品が混ざっている。そう思うと頭を抱えたくなった。
「こりゃ頼んで正解だったね……」
「あぁ……」
「シマシマベアーさん、どれがお兄ちゃん達が探してるものなのかな?」
「ぐう」
ナノンの問いかけにシマシマベアーは群生しているうちの一つを鼻先でつついて見せた。どうやら本当にわかるらしい。
「これか!お姉ちゃん籠ちょうだい」
「あ、うん。一応予備で二つ持ってきたけど一つ持っとく?」
「うん、ナノンも背負う」
「ちょっとでかいから気を付けてね」
「はーい!」
「……これは?」
「ペッ!」
どうやら外れたらしい。シマシマベアー、熊なのにアルパカのようなに唾を吐いた。器用だな、この熊。
それから永華達はシマシマベアー慣習のもと薬草を集めることになった。
間違えた薬草をとれば咥えて捨てられ、その前に摘み取ろうとしているのが目にはいったら軽く威嚇され、アルパカのようなに唾を吐かれた。
目的の薬草であれば特段反応がなかったり、頷くように動いたり、多種多様な反応をされた。
そのうちに四つの籠が埋まりだし、日も暮れだした。薬草の収集はお開きとなり、帰ろうということになったのだが、ふいにシマシマベアーが森の奥へと威嚇し出した。
「ぐぅう〜……」
「シマシマベアーさん?」
「いきなり、どうしたの?威嚇って頃はよくないものが近くにあるってことだよね?」
「……奥で何かあったか」
シマシマベアーの威嚇を見た二人はすぐに警戒体制にはいり魔法を使うための杖を取り出す。
「し、シマシマベアーさんが血の匂いがするって……!争ってる日との声が聞こえるって……!」
「っ!?ってことは人同士の争いか」
「厄介な……」
正直放置して帰りたいが、どうしたものか。盗賊かなにかなら関わりたくない、こっちに来る前に退散してしまいたいんだがな。
それに、少し気になることがある。もし、僕が考えていることが当たっているのなら、帰り道へのヒントになるかもしれない。
「行くにしろ行かないにしろ、先にナノンちゃんを帰さないと……」
「賛成だ」
「ねえ、ナノンちゃん。シマシマベアーさんと一緒に大人、呼んできて貰っていいかな?」
「え?で、でも……」
「お願い」
「……うん」
少し渋ったナノンだったが今の自分が出きることを考えたのか、少し間をとって頷いた。
シマシマベアーの体に籠をくくりつけ、ナノンを背負って走っていくのを見送る。一人と一匹の背が見えなくなった頃、永華が口を開いた。
「一つ思ったんだけどさ。今争ってるのって私達を召喚した人か、シマシマベアーさんに薬打ち込んだ人だったりしないかな?」
「考えることは同じ、か」
どうやら戌井も似たようなことを考えていたらしい。
「とわいえ、懸念は僕らに対する被害だな」
「死んだらもともこもないしね」
争っている理由、争っている相手、ほぼ全てが不明である。だが血が流れるようなことが起こっているのも、下手を打てば僕らもただではすまないことも間違いなかった。
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