えれべいたは嫌いじゃ
何やらイナリの能力は凄い、らしいのだが。職員達が駆け寄ってきて説明したところによると、こうであるらしい。
S=規格外、A=事実上のトップクラス、B=超上級クラス、C=上級クラス、D=中級クラス、E=普通、F以下=戦力外。
レベルが上がることで能力も上がっていくらしく、また同じランクでも差はあるらしいのだが……レベル1で魔力A、魔防Bは魔法系の覚醒者としては有り得ないくらいに破格であるらしい。
「なるほどのう……」
「たとえ此処から伸びないとしても全く問題のないレベルです。ジョブも初めて見るものですし……凄いですよ!」
「他が分からんから何とものう」
「普通はEかFが並んで、Dが1つでもあれば期待の新人なんですよ。Cがあろうもんなら大騒ぎです」
なるほど。確かにそれではイナリの能力値は大騒ぎを超える騒ぎになりかねないということだろう。
「……人の世、めんどくさすぎんかのう」
「世捨て人でもやってたんですか?」
「世を捨てたというか世に捨てられたというか……」
「あー……最近そういうニュース聞きますもんね。ネグレクトとか……」
「よく分からんが違う気がするのう……」
ともかくカードは発行されたのだが、真っ白なカードに写真入りで情報の載っているソレを手の平で遊ばせながら、イナリは「うーむ」と唸る。
覚醒者カード。そう呼ばれるカードにはイナリの名前が……「狐神 イナリ」という名前が載っている。そう、苗字である。イナリが自分を国津神と名乗り、狐の耳と尻尾があることからだが……ステータスにもそう表示されているのを見るに、イナリとしては「ステータス」とかいう代物について何者による仕業かと悩んでしまうのだった。
……が、それはさておいて覚醒者カードも中々に素晴らしいものだ。個人情報保護とやらでカードに記載されているのは名前と顔写真、それとレベルと職業だけだ。
詳しいステータスは権限と端末が必要であるらしく、勝手には見られないことになっている。そして真っ白なカードは新人の証であるらしい。
「立派なもんじゃのう……」
「現時点での最新技術が投入されていますから偽造も出来ません」
「うむうむ」
光の具合で見えるキラキラしたホログラムが、イナリとしては実にお気に入りだ。
「それでイナリさん。今後のことなのですが……」
「む?」
「ひとまずの住居は手配しておきました。半年は無料となっておりますので、どうぞご活用ください」
「うむ、助かる」
青山の差し出した住所の書かれた紙を受け取り、イナリは頷く。確かに住んでいた神社も今は遠い。こうしたものを用意して貰えるのは非常に助かる話だ。
「で、他にあるかの?」
「イナリさんの能力は素晴らしいものです。積極的にダンジョン攻略をしていただけると助かります」
「だんじょん、のう……儂も見たが、アレはあまり良くないもんじゃぞ。まあ、先程も似たような話をしたかもしれんが」
「だとしても、対抗できる力もまたダンジョンにしかないのです」
「ふむ……」
ダンジョンを破壊した時、それをやめろといった類の警告じみたメッセージが表示されたことをイナリは思い出す。アレが何かは分からないが、仮にも超常の存在であるイナリに自分のルールを押し付けることが出来る何かであることは確実だった。
(天津神……ではないじゃろうのう。とすると異国の神……? いや、それも違う気がするのう)
「ま、ええ。すてえたすとやらを管理しとるのが如何様な存在かはまだ分からぬが。ひとまずは踊らされてみるもまた一興か」
「我々はシステムと呼んでいます」
「しすてむ」
「誰かによって与えられる力ではありますが、何処か自動的でもある……そういった皮肉も込めた呼称ですね」
「なるほどの、中々に洒落が効いておる」
青山と話しながら辿り着いた場所は、エレベーターホール。それを見てイナリは嫌そうな顔になる。
「……これ、先刻も乗ったが何か嫌なんじゃよなあ……」
「そういった方もいらっしゃいますね」
青山はそうは言うが、全く気にせずエレベーターのボタンを押し……やがて高速で降下していくエレベーターの中で「ああああああ……」というイナリの悲鳴が響いて。
「え、えれべいたは……嫌いじゃ」
「残念です。慣れると楽しいものなのですが」
「そうかのう……」
エレベーターからよろよろと出て壁に手をついていたイナリだが、やがて気持ちを立て直す。そんなイナリを見て青山も頷くと、慇懃に頭を下げる。
「それでは、イナリさんの今後の活躍をお祈りしております」
「うむ、壮健での」
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