全部聞こえとるんじゃよなあ……
その中で、ダンジョンには2つの種類がある事も分かってきた。すなわち「固定ダンジョン」と「臨時ダンジョン」である。
臨時ダンジョンはクリアすると消えるダンジョンで、突如現れる渦のようなゲートが特徴だ。
そして固定ダンジョンはクリアしても消えないダンジョンであり、クリアから一定期間で全てがリセットされたように復活する性質を持っている。洞窟や塔など、何かしらの形を持っているのも特徴である。
どちらも「一定期間攻略されないとモンスターが溢れ出す」性質を持っている為、厄介である事に変わりはない。
だが、入ってみるまで分からない臨時ダンジョンと比べれば内容の分かっていて対策の立てやすい固定ダンジョンは「しっかりと準備をした覚醒者」さえ居ればどうにでもなる。
「故に固定ダンジョンから持ち帰る様々な物品が特産品となり、様々な場面に役立てられているのですね」
言いながら青山は一本のナイフを取り出してみせる。一見すれば飾り気も何もない普通のナイフだが……鞘に納められたそれは、イナリの目には不可思議な力を纏っているように感じられた。あの2人の持っていたものと同種の力に見えるが、微妙に違う気もする。
「……おかしな力を感じるのう。それも『あーてはくと』とかいうものかえ」
「ええ、アーティファクトです。正確には『そういう意味』の単語ではないのですが……誰かがそう呼び始めてしまいましてね。おかげで人造アーティファクトなどという単語も生まれるくらいです」
「よう分からんがまあ、分かった。そういうモノを今は作れるわけじゃな?」
「ダンジョンから出てくるアイテムがあってこそ、ですがね」
しかし何故かは分からないが、矢に加工すれば効果はあるが弾に加工すると効果がない。しかも同じ弓でもボウガンにすると効果がない……と、制限も多いようだ。
「と、此処までお話すればご理解いただけると思うのですが……ダンジョンとは現代における新たな鉱山とも称すべきものです」
「その考えはどうじゃろうのう……」
「仰りたいことは分かります。しかし現在、ダンジョンを中心に回るものも多いのです」
覚醒者用の武器に防具、その他新素材を使用した各種の物品、新薬などなど。ダンジョンを攻略することで得られる経済的利益は計り知れず、何よりダンジョンを攻略しないという選択肢はない。それでどうなるかは充分すぎる程分かっているからだ。
「ま、社会がそうで回っとるなら儂もそれに合わせるべきなのじゃろうて」
「ご理解いただけて幸いです。さて、イナリさん、貴方もステータスを持つ覚醒者です。ですので、日本本部で覚醒者登録をさせて頂きたいと思いますが宜しいでしょうか?」
「……一応聞くが、断ったらどうなるのかの?」
「どうもなりません。ただ、登録者でなければ出来ない事は多数ありますし……覚醒者に交付されるカードは国際基準の身分証明書です。何かと便利かと」
まあ、作って損はない。イナリは身分証明どころか戸籍すらない身だ。
それが出来るというなら、断る理由もない。
「ちなみにイナリさんの場合は何と言いますか……色々と事情があるのが透けて見えますが、お伺いしても構いませんか?」
「事情と言われてものう。儂は神社に自然発生した国津神の類じゃよ。イナリとすてえたすに呼ばれちゃおるが、宇迦之御魂大神とは何の所縁もないしのう」
「はあ、神様……」
「信じとらんなー? まあ、すてえたすにも狐巫女呼ばわりされちゃおるが」
そういう意味では扱いが妖に近いが、まあ霊力だろうと妖力だろうと使い方次第ではあるとイナリは思っている。
祟りでも神になるのは日本の伝統だ。さておいて。能力計測ということで連れていかれた部屋では、何人かの職員がザワついていた。
イナリとしては何やら四角い部屋の中に入っただけなのだが……部屋の隅で計測しているらしい職員達がああでもないこうでもないと騒がしい。
「やっぱり何度測っても同じだ。魔法関連の能力値が物凄く高い。レベル1でこれって……期待の新人ってレベルじゃないぞ」
「それより召喚スキル持ちな上にレベル8のスキル? 神通力って……」
「課長、これ外に漏れたら拙いやつでは?」
「全部聞こえとるんじゃよなあ……」
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