あの狐耳……動くぞ!
何がどうなっているのかは分からないが、さっきのが「ダンジョン」と呼ばれる何かであって、それに関わる何者かが破壊されるのを嫌がっているというのは理解できた。
そしてそれが、イナリに自分のルールを押し付けることが出来る程度には強大な力を持っているということも。
「とはいえ、儂が人の子に今更関わらんでも、上手くやっとるのかもしれんのう」
イナリの顕現がこの状況と関わりがあるのであれば、20年の時がたっている。ならば、もう人間の力でどうにか出来ているのだろうとイナリは思う。
「ま、儂は何も変わらんか……」
そう呟きイナリは境内に戻っていくが……そうはいかない。
20年もたてばダンジョンのエネルギーをある程度感知する技術も開発されており……それで感知できる程度には強力なダンジョンが即座に消滅したことを、すでに政府も把握していた。混乱する彼等がこの場所に調査隊を送り込むのは……もう、間もなくのことであった。
数日後。イナリは、周辺を何かが飛んでいるのに気付く。
(この音は……確かへりこぷたー、だったかのう)
煩い音を響かせながら飛び回っているヘリを「煩いのう」と一言で片づけ茶をすすっているイナリだったが……やがて、何やら視線のようなものが自分に向けられていることに気付く。それも、尋常の視線ではない。
何か、超常の力によって無理矢理視線を通しているような、そんな感覚だ。
「ふーむ……千里眼、かの? しかし、女子を斯様な不躾なもので覗き見るは少しばかり無粋じゃのう」
呟くと、イナリは振り向き……向けられている視線を、虫にするかのように軽く払う。
パキンッと何かが壊れる音がして視線が消えるが……ヘリコプターは、何処かに行く気配はない。むしろ、近づいてきて……やがてローター音を響かせながら、境内へと降りてくる。
その中から出てきたのは……2人のファンタジックな装備を纏った男たちだった。
1人は鎧兜に剣と盾、1人はローブと杖。理解の外にある格好に、イナリは思わず頭の上に「?」を浮かべてしまう。しかしながらよく見れば、その装備……何やら妙な力を纏っている。
「この子か?」
「田山の言ってた特徴と合致する。間違いないだろう」
そんな事を言い合っている2人だが……そんな2人を見ながら、イナリは軽く頬を掻く。
「けったいな恰好をして出てきたと思うたら、2人だけでお話か。余所でやってくれんかのう」
「いや……けったいな恰好はお互い様だろ」
「儂のは伝統的衣装じゃろ。お主等のは……なんじゃそれ。妙な力は感じるが、妖物の類でもなさそうじゃ」
そう、イナリから見てみれば2人の纏っているものはどれも奇妙な「力」を感じるものばかりだ。あの男の持っている剣にしたところで、妖刀と呼べる程度の力は持っていそうだ。
そんなものを幾つも所持しているのは、どうにも只事ではない。
そこまで考えて……イナリはまた妙な感覚を感じた。どうにも無遠慮な覗きの如き、不愉快な何かを……目の前のローブの男から感じるのだ。あまりにも不愉快だったので手で払うと、パキンッという音がしてローブの男が「うわっ」と声をあげる。
「か、鑑定を弾かれた!?」
「おい宅井、お前そんなことを……」
「まーた妖術か。妙じゃのう、今はそんなもんを気軽に使える時代なのかえ?」
「よ、妖術? いや、スキルなんだが……」
「すきるう?」
言われて、イナリは自分の「ステータス」とかいうものを思い出す。確かあそこにも「スキル」とかいうものがあったが……。
「あー、なるほどのう。お主等、あのだんじょんとかいう代物に関わっとるんじゃな?」
アレを破壊したことでイナリは「ステータス」とかいうものを押し付けられた。本来は破壊するものではなかったらしいが……アレをどうにかすると、妖術……スキルを得られるということなのではないだろうかと考えたのだ。
「そう、それだ! この辺りに強力なダンジョンが発生して、すぐに消えた。その原因を調査してるんだ」
「破壊したぞ?」
「破壊……えーと、ボスをか?」
「ぼす? だんじょんのことをそう呼ぶのかの?」
「ん?」
「ん?」
剣士の男とイナリは首を傾げ合い……やがて、剣士の男が「えーと」と言葉を選ぶようにしながら手の動きで丸のようなものを描く。
「こういう……丸くてグルグルしてるダンジョンゲートってものがあるんだが」
「おお、あったのう」
「もしかして、それを破壊したって言ってるのか?」
「そう言っとるのう」
「冗談だろ?」
「まあ、壊すなとは言われたがの」
「は? 誰に?」
「なんかこう……目の前に文字が現れての?」
この辺じゃ、と手で示すイナリに剣士の男は考え込んで。そうすると、イナリを無言でじっと見ていた「宅井」と呼ばれていた男の方が、剣士の男をつつく。
「なあ、丸山」
「なんだ? 今、真面目に考えてるんだ」
「あの狐耳……さっきから動いてねえ?」
「は?」
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