轅下之駒(えんかのこま) (4)
「露峰君、なにかしたの!?」
猫丸が目を丸くしてこっちに走ってくるのを見て、露峰はあからさまに目つきを悪くした。
「してない」
「ごめん、昨日一人で帰らせちゃったから―――僕らが無理矢理あんなことさせちゃったから、いらついてやっちゃったんだよね―――?」
「だからなんもしてないって、なんで決めつけるんだよ」
「ほんと―――?」
猫丸は机に両手を置き、眉を曲げて露峰の顔を伺っていた。その表情は半信半疑といった具合で、なんども目を開けたり閉じたりして焦りを隠せていないようだった。
「ほんと。強いて言うなら買い食いしたけど、ただの自販機でミルクセーキ買っただけだから。こんなので呼び出されてたら世話ないよ」
「ミルクセーキ―――?」猫丸は聞き馴染みのない商品に首をかしげた。
「俺も何が何だか分からないけど、呼び出されたからには行くよ。冤罪なら冤罪って言わなきゃだし」
「僕もついていこうか―――?」立ち上がった露峰と同時に背筋を伸ばした猫丸を、露峰はそっと遠ざけた。
「いい。どうせ剣道部とは無関係だろうから。後、あんま騒がないで。目立つから」
それだけ言って、露峰は猫丸に背を向けた。特に物怖じすることもなく、その背中は遠ざかっていく。
残された猫丸は「うん―――」とだけ言って、その場に立ち尽くすことしかできずにいた。
露峰は扉の前に立ち、扉の上にある"校長室"と書かれた札を見上げていた。
入学してからそんなに時間が経ったわけでもないし、当然といっちゃ当然だけど―――初めて来たな、校長室。
露峰は小、中通して特段問題を起こしたことも、功績を挙げたこともなかったので、こんな空間には無縁だった。
まさかこんな訳の分からない形で校長室デビューを果たすとは―――露峰は小さくため息をつきながら、扉をノックした。
「はあい、どうぞ」
優しそうなしゃがれ声が、露峰を室内に誘った。露峰は慎重に扉を開ける。
「失礼します」
部屋全体を視界に入れると、露峰は目を細めた。
なるほど、校長室というのはこういう部屋なのか。露峰は学校の中にあるとは信じがたい、ゴージャスな景観に新鮮さを感じていた。
部屋の奥の大きな机には、ちょび髭のおじいさんがちょんまりと座っており、大きなパソコンに向かってカタカタと手を動かしていた。
「君が―――露峰君、だね」パソコンから老人が顔を覗かせた。
「はい、一年三組、露峰樹です」
「うんうん、来てくれてありがとうねぇ。そうだね、そこのソファーにでも座っちゃって。楽にしてくれて良いから」
校長はにっこりと笑いながら、大きなソファーに手を向けた。
思ってもいなかった歓迎ムードに、露峰は困惑していた。
「はあ―――じゃあ失礼します」
露峰は怪しみながら、全体が模様で覆われたようなソファーに腰掛けた。
座ってみると、見た目以上のクッション性に身体は深く沈み込み、露峰は少し慌てた様子で体勢を整えた。
「ちょっと、待ってね。今、少しメールを送ってるからねぇ―――これでおっけい。さてと」
校長は「よいしょっと」と自分の椅子から降りると、腰に手を当てながらとぼとぼと部屋の端に移動した。
カチッという音と共に、電子音のような音が部屋中に響き渡る。露峰はそんなケトルの音から、話が長丁場になる可能性を感じ取っていた。
少しすると再びスイッチが作動する音が響き、同時に校長は急須にお湯を注き始めた。湯気と共に茶葉の香りが膨らみ、校長は頬を緩ませた。
ある程度お湯を注ぎ終わると、校長はお盆に湯飲みと急須を乗せた。そのお盆を手に露峰の正面まで移動し、テーブルにそれらを置いて、校長も露峰同様ソファーにどっぷりと座り込んだ。
「―――聞かないんだね、なんで呼ばれたのかって」
校長は露峰の顔を見て柔らかく笑った。
「まあ―――聞いても良いことなさそうだったので」
「だからといって、こんな状態で長々と黙り込んでいるのも、中々の辛抱強さだと思うけどね。面白い生徒だねぇ、君は」
校長は湯飲みにお茶を注ぎながらそう言った。
そう言うなら早く要件を教えてくれよ、と露峰は多少呆れ気味に思っていたが、あえて表情には出さないようにしていた。
「そういえば、君剣道部なんだって? まさか剣道部が復活するとはねぇ」
「いえ、剣道部ではありません。時々顔を出すだけの、お手伝いみたいなものです」
露峰は淡々と否定した。
「そうなのか、聞いてた話と違うな。じゃあ経験者というわけではないんだね」
「いや―――経験者ではあります。けど、部員ではありません」
自分でそう答えておきながら、露峰はその言葉に刺されているような感覚に陥っていた。
「そうか―――実はね、僕も昔剣道やってたんだよ、ちょっとね。ほんとに昔の話だし、今は竹刀すら振れないんだけどね」
「へえ―――」露峰は興味がなさそうに呟いた。
「でもそうかあ、部活に入らないんだねぇ―――時に露峰君、剣道は好きかな?」
露峰は突然の問いに固まってしまっていた。
好きかどうか―――そう聞かれると、よく分からない。伏見には好きだったことなんてない、と答えたが、それも自分の本心だと思う。
しかし、一時期本気になっていたのも本当だ。あの時は―――好きだったのかな。あの"もっと強くなりたい"、"もっと勝ちたい"という想いは、好きだったということなんだろうか―――
露峰は考えれば考えるほど、答えが遠ざかっていってしまうような気がした。
「分かりません」考えた末に、口から漏れた言葉だった。
「そうか。まあキツいもんねぇ、剣道って。僕もたとえ今若返れたとしても、剣道をしたいかって聞かれると―――即答はできない自信があるよ」
ははは、と控えめに笑うと、校長は「でも」と言葉を続けた。
「剣道における"
守・破・離―――露峰は道場にて先生が語っていたことを思い出していた。
確か、"守"が教えを守って型を身体に染みこませる過程で、"破"が自分に合ったより良いと思われる型を模索し試す過程、"離"が既存の型に囚われずに自分の型を生み出す、みたいなことだっけ。
露峰はこの瞬間、目を見開いた。なんだ―――この衝撃は。露峰は根幹をぶん殴られるような揺らぎに、眉をひそめた。
「それ以外にもさ、剣道って武道なだけあって、重要な教えが多いんだよねぇ。だから、剣道から離れることがあっても、こういう教えだけは忘れないで欲しいなぁ」
校長はそれだけ言うと、湯飲みから美味しそうにお茶を啜った。露峰は自分の中に生まれた波紋を無視できないでいるまま、その姿を眺めていた。
いや待て、そういえば―――露峰は思い出したかのように口を開いた。
「あの、それでここに呼び出した理由ってのは―――」
校長は一瞬固まり、お茶を飲み込むと湯飲みをテーブルに置いた。
「それは、すぐに分かるよ。ほら、君を呼び出した張本人が来た」
校長の言葉と同時に、校長室の扉がコンコンと音を立てた。
このとき、露峰は湯飲みが三つあることに気がついた。
「どうぞー」
校長が声を上げると、静かに空いた扉からスラッとした人型が姿を現した。
「は?」露峰はつい声を上げてしまっていた。
「すいません、協力してもらっちゃって」
「いいんだよ、僕も彼と話してて、君の言いたかったことが分かった気がしたからねぇ」
そこにいたのは、浪川に他ならなかった。
「な―――どういうことですか」露峰は二人を交互に目で追っていた。
「こうでもしないと、君は話をしてくれなかったでしょう? 私単体で呼び出したところで、どうせ君は断るか、黙ってブッチするかの二択です」
露峰は図星をつかれたのもあって、言葉を失っていた。さっきからやけに剣道の話をしてくるのも、こういう背景があったからというわけだ。
校長が剣道経験者と言い出した時点で気付くべきだった。
露峰はその場で立ち上がると、まっすぐ浪川の方へと向かった。
「要件は分かりました。答えはノーです。次の授業に遅れるので、僕はこれで―――」
そう言って横を通り過ぎようとする露峰の進路を、浪川はすっと移動して全身で遮った。
「校長先生に協力してもらったのには、もう一つ理由があるんですよ。露峰君なら、分かりますよね」
露峰は浪川を力なく睨み付け、ため息と共に先ほどの場所に腰を下ろした。
校長室に呼び出されるような案件を、一授業が優先するはずがない。しかもあんな放送が流れれば、授業が始まった時にクラスの誰かが担当教員にその旨を話すことだろう。
浪川の機転に、露峰は表情を暗くしていた。
「流石、頭の回転が速くて助かります」
校長先生に譲られて正面に座った浪川の言葉も、今の露峰には皮肉にしか聞こえていなかった。
「どうしようか、僕はどこかに出ていった方がいいかな」
「いえ、校長先生もここにいてもらって問題ありませんよ。露峰君が嫌だ、というなら、話は別ですが」
二人の視線を一身に受け、露峰は「別に気にしません」とだけ呟いた。
「なら、僕も話を聞かせてもらおうかな。余計なことは言わないから、安心してね」
校長はそう言うと、湯飲みを口元まで運んでにこりと笑った。
それから少しして口を開いた浪川の声は、意外にも若干震えていたようだった。
「―――まず最初に、露峰君」
「はい」露峰は表情を変えずに浪川を見つめていた。
「昨日はすいませんでした。意図せず、君を傷つけてしまった。思い出したくなかった過去を掘り返してしまって、申し訳なく思ってます」
そんなことか―――露峰は顔色を変えずに、言葉を返した。
「いえ、気にしてません。今後掘り返さないでくれるなら、問題ありません」
「そう言ってくれて、よかったです。もう過去を掘り返すことはしないので、安心してください。
それでですね、今日話したかったのは―――」
「部活のことですよね」
浪川の言葉を遮り、露峰は口調だけで否定を表した。
「ええ、そのとおりです―――単刀直入に言います。露峰君、私と部活をやってくれませんか」
数秒、その場の誰もが黙り込んだ。露峰は小さく首をかしげ、言葉を続けた。
「意外ですね。それって自分も顧問をやるから、ってことですよね? 俺に部活をやらせることがあっても、貴方が部活をやるとは思いませんでした。
貴方だって、部活は嫌いなはずでしょう? 仲間だなんだっていう団体意識とかは、特に」
「―――どうして、そう思うんですか」このとき、初めて浪川の表情が曇った。
「俺が中学に入って、あの試合を迎えるまで―――色々調べてて、知りました。貴方の学生時代のことを。
全国クラスの強剣士が、団体になると一気に勝てなくなった話。こんなちんけな武勇伝が、あの頃の俺の憧れだったんで」
「なるほど―――」
浪川はその時ようやく露峰のことを理解した。手を組んで、テーブルの木目を睨み付ける。
互いの境遇、それは非なるものでありながら、どこか奇妙な点で共通点をもっていたのだった。
「俺はあの時、勝てないと分かっていたのに、道場が原因で持ち上げられていました。それが嫌で嫌で、逃げ出したくなっていたとき、ある記事を見つけました。
それが、貴方の個人戦の記事でした。東海地方出身で、全国二位。しかも浄心道場出身じゃない。この功績を、俺は素直に賞賛していました。
でも、興味を惹かれたのはこの後でした」
浪川は組んだ両手を、強く握りしめた。
「貴方の個人戦、同じ高校の応援が一切、なかったそうですね」
露峰は今、一人の人間を拷問している気分になっていた。
かつてとはいえ、自分が憧れていた人を追い詰めるのは、気持ちが良いものではなかった。
「そのとき、俺は全て悟りました。あなたが、高校にてどういう扱いを受けていたのかを。変だと思われるかもしれませんが、俺はそれから貴方に憧れるようになりました。
一人だろうが団体だろうが関係なく、試合全般に勝てなかった俺は、個人戦のみで己が力を振るう剣士に、どうしようもなく惹かれたんです。
期待を受けてそれに応えられなかった、という点で、親近感を感じてたのもあると思いますけどね」
浪川は、断片的な情報から事態の全貌を把握する露峰の洞察力に感心していた。それと同時に、その力を少しだけ恨んでいた。
しかし、今の浪川は兎にも角にも、形容しがたい罪悪感に苛まれていた。
「そんな人に、あんな無様な姿を見せたんですから。俺の絶望はとんでもなかったですよ」
「私の存在も、プレッシャーの一つだったわけですね」
「なんなら、一番大きかったのは貴方の存在でしたよ」
「それは―――申し訳なかったですね―――」
浪川は顔を上げ、自傷的に笑っていた。
過去の恩師、一時の憧れ、そして部内の期待。そんなものを全部、あんな小さな背中に背負って戦っていたというのか。
浪川は目の前の少年の心労を悟って、眉にしわを寄せた。
「話が脱線しました。俺が聞きたかったのは、貴方がそこまでする理由はなんですか、ということです。話し過ぎちゃってすいません」
露峰は話が膨らんだこと、浪川の過去を掘り返したこと、それらを二重で謝罪するために小さく頭を下げた。
浪川は「いえ、良いんですよ」と呟き、息を大きく吸い込んだ。
校長が一瞬浪川を心配そうに見つめていたが、それが杞憂だと分かるのは浪川の口調に確かな力がこもっていたからだった。
「露峰君。君が言ったこと、全部正しいです。私の過去も、きっと君が把握しているものと相違ないと思います。その上で、言わせてもらいます。
私は、貴方に私のようになって欲しくないと思っているんです。貴方に取っての剣道を、部活を、そのまま終わらせたくない。それが、私の真意です」
「そんな勝手に―――」露峰の反論を、次は浪川が遮った。
「ええ、身勝手な思いです。そして私は、これが私の使命であるとも勝手に思い込んでいます。君を救うことで、過去の自分が救われるかもしれない、と。
馬鹿馬鹿しいですよね、でも本気です。本気で、共に部活というものを乗り越えたいと思ってます」
浪川は揺るがなかった。過去の傷を受けながらもぶれない姿を見て、露峰は少したじろいでいた。
「だからって、どうしてそんなに自信満々に言えるんですか。部活に対して信用がないのは、俺も貴方も同じことでしょ」
露峰はしまった、と思った。それは目の前の浪川という男が、この問いを待ってかのように口角を上げたからだった。
「野上君、加藤君、熱田君、伏見君。私の自信は、彼らから来ています。彼らなら、きっと大丈夫だと。そう思わせてくれる、何かがあると感じたんです。
特に伏見君と熱田君。彼らには、"剣道を好きにさせる力"があると思っています。剣道の楽しさを、背中で示してくれる。だから安心して寄りかかれる」
露峰の脳裏には、熱田との試合がフラッシュバックしていた。あの男の剣道からは、確かに―――感化される、何かがあった気がする。
「それに、彼らが貴方に過度な期待を寄せると思いますか? そんなところが、想像できますか? 私にはできませんでした。それもあって、貴方にとって良い環境なのではないか、と思ったんです」
露峰は口をつぐんで、首をこくんと縦に傾けた。背筋が曲がっているからか、深呼吸しても上手く酸素が頭に巡らない気がする。
浪川の提案は、間違っていないように感じる。しかし―――やっぱり、怖いものは怖い。嫌なものは嫌だ。
これでもし、もう一度前のようなことがあったら―――そう考えるだけで、一歩踏み出すことができなくなる。
そのとき、口を開いたのは校長だった。
「今の剣道部は、そんなに良い人材が揃っているんだね。すごいことだ」
突然のことに、二人は面食らっていた。露峰も頭を下げたまま校長の声に耳を傾けていた。
「ええ、そうなんです。今度見学に行ってあげてください。きっと彼らも喜びます」
「うんうん、そうさせてもらうよ。しかし、本当にすごいことだねぇ」
校長は言葉尻を柔らかくしながら、どこか露峰に語りかけるように話した。
「強い学校。強い道場。こんなのは全国にありふれている。しかし、人が良い環境というのは、中々ない。それが、少数精鋭で成り立っているというのは、とても珍しいことだと思うなぁ」
校長の言葉は、確かに露峰に届いていた。
「だからといって、人を信じる、というのはとても難しいことだろう。信じなければ裏切られないし、頼らなければ自分が傷つかないというのも、間違いではないね。
怖いものは怖い、僕だってこんな年齢になっても怖いと感じることあるよ」
そして、この言葉に心を殴られていたのは浪川も同じことだった。
「だからこそ、それでも人を信じる者に―――神は祝福を与えるんだろうね」
再びお茶を啜る校長を前に、二人は何も言えなくなっていた。
『うちの剣道部来たら、剣道やりたくなっちゃうかもだから』
露峰の背中を押したのは、猫丸の言葉だった。露峰の剣道熱に再び火を灯したのは、熱田の剣道だった。
彼らが、特殊な剣士なのは同意する。俺も、動かされた。それも認める。
でも―――やっぱり―――
露峰の閉じた瞼の裏に、あの嫌な光景が映る。心ない陰口が、耳元で囁きかけた、その時。
「やろうよ! 僕らとさ!」
その声に大きく反応したのは、露峰だけではなかった。
浪川も校長も目を大きく見開き、ド派手に扉を開けた男を凝視していた。
「伏見―――?」
「ごめん、遠くから早歩きしてる浪川先生が見えて、もしかしたらと思って―――ついてきちゃった。
ってそんなことはどうでも良くてさ、露峰君」
猫丸は露峰の座っているソファーの肘起きに両手を押し当て、露峰の眼前に自身の顔を近づけた。
露峰はその圧と目力に、少し日和った。
「もう一回、もう一回だけだ。教えて、露峰君―――」
露峰はなんとなく、なにを聞かれるかが分かった気がした。
その問いを、露峰は無言で受け止める。
「剣道は、好き?」
「―――そんなの、俺は―――」
分からない、これが答えだった。それでもその中にある小さな炎を、露峰は無視できずにいた。
露峰の本心を見透かすかのように露峰から離れた猫丸は、冷静な目で彼を見下げた。
「僕らのことを度外視にして、それでも嫌いなら―――僕はもう誘わない。熱田君だって、僕が責任とって全力で止める。彼はそういう事情とか関係なく誘うだろうからさ―――」
そういうと猫丸は困っちゃうよね、とでも言いたげな笑顔を浮かべながら頭を搔いた。
露峰は熱田から目を離し、大きく息を吐いた。それはため息とも取れるようなもので、浪川と猫丸はその空気感を前にして、少し諦めの色を含ませていた。
だから一層、露峰の言葉に自分の耳を疑うのだった。
「―――そこまで言うなら、やってみるのも、いいかもしれないね」
「え―――?」浪川は目を見開いた。入り口に立っていた猫丸も、同じ表情だった。
「怖いものは怖いですけど、まあ―――やるだけやってみるのも、いいかなって。だから」
露峰は顔を上げた。そこに張り付いていたのは未だに無表情だったが、その目には確かに光が燃えていたように見えた。
「信じて、頑張ってみます。だから―――浪川先生。これから―――いっぱい迷惑はかけるだろうけど。よろしくお願いします」露峰はそう言うと、大きく頭を下げた。
「―――もちろんですよ、互いに頑張りましょう」
そうして力強く交わされた握手を、校長は菩薩のような笑顔で見つめていた。
「あと、伏見も」
「―――うん!」
そこに握手はなくても、猫丸は大満足だった。
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