一念発起(いちねんほっき) (1)

「あ、あのさ、出してきたよ、書類」

 

 次の日の放課後、猫丸が剣道場を開けると、そこには道着と袴の姿の三人がいた。

 先輩二人が竹刀を構え、その正面に熱田がいる。どうやら熱田が二人の剣道を確認しているようだ。そんな剣道部なら当たり前の光景に、猫丸は少し微笑んだ。


「お、伏見ちゃんーありがとうね! 申請は通ったのかな?」

 加藤が野上の後ろから顔を出しながら聞いている。今日も相変わらず全身に活気がみなぎっている。

「はい、といってもこれから書類を出して貰う感じなので、正式にはもう数日後ですけどね」




「先生、これ、あの―――改訂版の創部届です」

 終礼後、猫丸は昨日皆で再度書き直した創部届を浪川に提出していた。

「こういう書類に改訂版て言い方中々しませんが―――まあはい、ありがとうございます。

 ―――お、名簿が変わっている、ということはあの問題は解決したんですね」

 浪川は名簿欄を見て小さく口角を上げた。


「はい、彼らも一緒に剣道部を興してくれるってことになりました。いい先輩でした、本当に」

 

 猫丸がそう言うと、浪川は「そうですか、良かったですね」と呟いた。そんな浪川はどこか満足げにみえた。


「そういえば―――」猫丸が口を開くと、浪川は書類から猫丸の方へと視線を移した。


「先生は元々彼らも剣道部に入れてやってほしい、って考えてたんですよね。なんで直に紹介しなかったんですか。しかもやばい人達がいる、みたいな話までして」

 気付くと口が思っていたことを勝手に声に出していた。


 浪川は不意打ちを食らったように目を瞬かせた。


「ああ、そのことですか。彼らに聞いたんですね、私のこと。

 それは単純な話、彼らが一年先輩だからですよ。私が紹介する、ということは彼らは君たちが作り上げた部活に後から入る、ということになります。まあこんなことを気にするような子たちではないと思ってますが―――念のためにね。ほら、先輩としての立場がどうのこうの、とかあるじゃないですか。


 ですが事実、彼らは無断で剣道場やら部室やらを使ってましたしね、やばいといえばやばいですよ。でも何度か彼らに会っている身からすると、なんとなく彼らに会えばそのイメージもすぐに変わるだろう、という確信があったんです。

 ほら、実際そうだったでしょう?」


 浪川はずっと不敵な笑みを浮かべている。

 ここまでの流れを全て予想していたことをふまえると、猫丸はこの教師のことを多少不気味に感じていた。


「ま、後は"ちゃんと剣道をする剣道部員"をもう一人集められたらいいですね。彼らと君たちで合計四人。剣道の団体戦は三人から出場可能なので、この状態でも試合に出ることはできますが―――足りない分は負けたことになってしまいますから、不利は不利ですよね。


 とはいえ、そんな簡単に剣道部志望が見つかれば、去年彼らがあんなことにならなくて済んだわけですし、中々難しいとは思いますけども」


 浪川の目はどこまでも透き通っており、猫丸は心の中まで見透かされているような感覚だった。


「やっぱりバレてました―――? この人数合わせ」

「ははは、まあ、健闘を祈ってますよ」

 作られているのか、それとも本当に心から出たものなのか分からないような笑い声が教室に響き、猫丸がまたもや不気味さを感じていると、いつの間にか目の前から彼の姿は消えていた。


 つかみ所がない中にどうしようもなく不可解な何かが眠っているような、そんな浪川に猫丸は面食らっていた。

 僕がいつかこの先生のことを理解できるときはくるのだろうか。そんなことを思いながら猫丸はとぼとぼと部室の方へと向かった。




「ほえーなるほどね! なんかよく分からんけどとりあえず剣道部はできたって訳だ」


 加藤は横にいる野上に「やったな」と微笑んだ。その先輩の横で熱田は「な―――!? バレていたのか、何者だアイツ―――」と呟いていた。


「ああ、本当にありがとうな。お前ら二人」

「いえ、俺は剣道やりたかったんでどちらにせよ部活作ってました。でも、ちゃんと俺以外に剣道したいって人が三人もいて良かったっす。こちらこそありがとうございました」


 しみじみと礼を言う野上に熱田は頭を下げた。その様子を見て猫丸はなんだか自然と笑みがこぼれる。加藤と野上も「へへ」と照れ笑いを浮かべていた。


「先輩方、ちょっと休んでてください」

 そんな先輩たちを横目に、熱田は猫丸の方へと歩いて行った。


「ごくろうさん、ありがとな、書類」

「全然いいよ、うちの担任だし。で、どう? そっちの様子は」

「ああ、一通り素振りから防具を着けてない状態の打ち方までみたけどな―――ありゃ初心者のレベルじゃないぞ」熱田は二人を見ながら目を見張っていた。


「まだ本格的な稽古はできてねえし、面打ちやら小手打ちも俺がその高さに竹刀を構えてそれを打って貰ってるだけだからなんともいえねえけど、それでもあれは基本がきちんとできてる奴の動きだ。始めてからたったの一年とは思えねえぞ」


 剣道も他のスポーツと同様、基礎が非常に大事とされている。


 まずすり足と足さばき。大体の場合は竹刀も何も持たずに脚の動きを自分の身体にすり込む所から始まる。すり足とは地面に少し擦るようにして足を移動させる方法で、剣道では基本的にこの方法で動き回る。


 そして剣道は常に右足が前、左足が後ろにあるという特殊な立ち方をしており、右足は足の裏が全部地面に着いているのに対して、左足はかかとだけすこし地面から浮かす、というこれまた初心者からしたら慣れるまで時間がかかる姿勢をしている。


 目標は普通に立っている状態から、地面と自分の足を見ることなく一瞬でこの立ち方ができるようになることであり、それに加えてどれだけすり足や足さばきをしても、毎回この立ち方に戻ることができるのが望ましい。勿論姿勢は常にまっすぐしていなければならず、足に集中して前屈みになってしまうようなことがないようにしなくてはならない。

 

 そしてこれは序盤も序盤の話であり、これができるようになってようやく竹刀を持つことができる。

 竹刀を持ち始めれば次は持ち方から、振り方から、インパクトの方法から、習得しなくてはならない基礎が無限に溢れている。


 竹刀を持つ、と言われると一見両手で持っているようにみえるが、剣道を始めると必ずいわれることがある。それは"左手で持ち、左手で振れ"ということである。

 それはなぜか。理由は右手主体で振ると竹刀がまっすぐ振れないからに尽きる。竹刀を振っている姿を真正面からみたとき、竹刀の軌道が一直線になっていることが理想とされるが、右手で振るとこれが大きくぶれてしまうのだ。


 しかし利き手が右手の人が多かったり、右手の方が前で持っているので竹刀を少し軽く感じて振りやすかったり、色々な理由で皆右手で振りたくなってしまう。これをなんとか矯正しなくてはならないのだ。


 ここまででも頭が回りそうなる基礎の数々だが、実際はこれ以上に注意する点は沢山ある。

 更に最終的には先ほどの脚さばきと竹刀の扱いを動じに行わなくてはならず、その上相手に勝てるように工夫もしなくてはならない。


 こんなものを一年で形にする、というのは文字通り至難の業だった。

 そして熱田曰く彼ら二人は、そんな基礎が経験者並みに染みついているというのだ。あれだけ驚く気持ちも、猫丸にはよく分かった。


 猫丸と熱田は再び二人の元へと向かった。二人はいまだにじゃれあっている。


「先輩方、去年はどういう練習してたんすか」

 熱田が真剣に尋ねる。加藤は首をかしげていた。

「え? 昨日話さなかったっけ? 野上が。ほら、全国でも強いっていわれてるような学校の練習を調べて、自分にできそうなのから取り入れていったって」

「ああ、でもちょっとしか話してなかったな」

 野上が竹刀を肩に担ぎながら話し始めた。


「俺らってホントに初心者だったからさ、最初は強豪校の動画とか見てもさっぱりだったんだよ。だから初めはそいつらの練習は基礎練だけ参考にして、本当の基礎はまた違う動画とかDVDとかで見まくって、いろいろ試してーみたいなのの繰り返しだったかな。

 まあその基礎練すら、剣道の基本を身体に覚えさせるまではできなかったんだけどな、だってあいつら基礎練のレベル高すぎるんだもんよ。


 ま、そんなこんなで、ある程度剣道の基本が分かったら、そいつらの動画の中でできるものから毎日やるようにしたんだよ。素振りのメニューとか基本打ちとかな」


「ってことは、実質全部独学っすか」熱田は素直に感心していた。

「まあ、そうなるかな。後はほら、あの眼鏡イケメン先生が時々こそっと教えてくれてたくらいか。ほんとにたまにだったけど」

「それ―――凄いことですよ。剣道の基礎を自分たちで固めちゃうなんて、普通に考えたら信じられないことです」


 猫丸がそう言うと先輩たちは照れくさそうに「えーそうかなあ」と笑っていた。本人達はこれが普通だと思っているみたいだが、それだけ継続できていることも凄いことだ。


「っていうか先輩、さっき練習はほぼ毎日って言ってましたよね」

「おう、隙あらば毎日ここで練習してたぜ。走り込みは外だけど。でも怒られた次の日とかはやめたりしてたかな、どうだっけ」

「覚えてなーい、まあ眼鏡イケメン以外の教師が来たら逃げてたのは確かだなあ」

 加藤は適当に答えていたが、野上はまあまあ真剣に答えている。


「それが本当なら、剣道場とか部室とかで教師に見つかってた二人組って全部先輩方のことなんじゃ―――」

 伏見がそう言うと、先輩らは二人して不思議そうな顔をして、加藤があっけらかんと答えた。

「―――? よく分からんけど多分ここは俺らしか使ってないぞ」


 猫丸と熱田は目を見合わせた。ここは彼らしか使っていなかったということは、お怒りの報告も全部彼らだったということで―――一体この人たち何回怒られたんだ? 二人は心の中で呟いた。


「ま、まあそれはわかりました。一個謎が解決したので、浪川先生も喜ぶと思います」そう言う猫丸の肩を、何も分かっていないだろう加藤が「そうか、よかったな!」と叩いた。


「じゃあ一応色々片付いたところで、先輩方、伏見。稽古しましょう。それでなんですけど」

 熱田が手を叩き、注目を集める。

「今日は初稽古ですし、とりあえず先輩方がやってたメニューで進めましょう。準備運動から、一通り全部。いいですか?」


「おう、俺らも勉強しながら進めてきたつもりだけど、なんかダメなところあったら言ってくれよ。全然気とか使わなくていいから―――って熱田はそういうタイプじゃないか」

 そういう野上に対して熱田は「もちろんす」とすました顔で答えていた。




「黙想の合図は、俺でいいかな」


 四人は準備運動と素振りを終え、全員道着と袴に着替えていた。胴と垂れも付け終わっている状態で、正座で一列に並んでいる。隣には竹刀、前には面と小手、手ぬぐいが綺麗に置いてあった。


 野上の問いに、他の三人が静かに頷いた。

 結局、この部活の部長は先輩ということもあって、満場一致で野上ということになっており、座り順も上座から野上、加藤、熱田、伏見の順に並んでいた。


 黙想とは、剣道の稽古が始まる前後で行う短時間の瞑想のことをいう。

 これを行う理由、というのは諸説あるが、基本的には稽古のメリハリをつけるためのものだと言われている。黙想から黙想の間は剣道に集中する時間。その為のスイッチのようなものだと。


 猫丸は大体そんな風に教わっていたが、熱田は"勝ちたい、負けたくない、などの雑念を取り払い、刹那の勝負に判断が鈍らないようにするため"と教わっていたらしいので、本当に人それぞれなのだろう。


「姿勢正して―――黙想ーーーーッ」


 野上のかけ声で全員目を閉じ、へその前に両手で黙想の形をとる。

 その瞬間、全員の耳には風の音、校舎で誰かが話しているような声、外の部活動らによる喧噪、それらを全て感知していた。それでいて自分の心の中は無色透明で動き一つない水面のようだった。明鏡止水、まさにそのものだった。


 猫丸は、この瞬間が好きだった。自分が心の底から落ち着いている感覚。乱れが一切ないような感覚。人と話すとき、何かに挑戦するとき。至る所で動じやすい自分にはこの時間が至福のひとときだった。


「やめ、礼」


 再び野上の口から告げられたかけ声で、全員目を開ける。そして正面に礼をし、「正面、礼」の合図で剣道場の正面にそれぞれお辞儀をした。全員の視界に"一意専心"の文字がよぎる。


「面付け、始め」


 その合図で皆一斉に手ぬぐいを頭に巻き、面を被る。

 猫丸は面を被った瞬間、目を閉じた。鼻を駆け抜ける面特有の匂い。それだけで頭の中に山のような量の記憶が巡る。


 戻ってきたんだ、ここに。猫丸はその事実を再び噛みしめて面紐を手に取った。


 全員慣れた手つきで防具を身につけており、それは先輩二人も例外ではなかった。一番早く着け終わって立ち上がった熱田が二人を確認していたが、どうやら問題ないらしく、すぐに竹刀を振り始めた。


「じゃ、まずは切り返しから」


 全員面と小手をつけ終わったことを確認して野上が声をかける。最初は野上と熱田、加藤と猫丸が相手として始まった。これは先輩二人が上座になるようにした結果だった。


「「「「お願いします」」」」

 四人は互いに挨拶を交わし、蹲踞そんきょ※をしたのち互いに竹刀を構えた。


※日本の身体文化の一つ、「蹲踞」は、 身体を最も低くすることで、相手にかしこまった形を示す敬礼であり、 重心を下げ、カラダの軸を整えるものである。実際には竹刀を構えた状態で姿勢を落とした状態のことを指し、稽古の始めの挨拶の時や、試合などの正式な場で行う形式的な挨拶のことをいう。


 切り返し、それは稽古の始めに行う基本の打ち稽古だ。

 打つ側、下座から打つのでこの場合は熱田と猫丸がまず、面を打って相手と体当たりをする。その後で、打つ側は面の左右、正確には面の右上、左上辺りを狙って交互に打ち続ける。それを受ける側は竹刀で受ける。四本は前に進んで打ち、五本は下がりながら打つ。最後に面を打って抜ける。


 この稽古は全国で行われており、必ずといっていいほど始めに行われる稽古となっていた。

 しかし振るスピード、下がったり進んだりするスピード、打ちの強さなどは教わる場によって変わるため、熱田と猫丸でも全く姿の異なる切り返しになっていた。


 熱田と猫丸は真新しい環境で慣れないのと同時に、心の底からワクワクしていた。竹刀を握る手が、腹から出す声が、心地よく震えているのが分かった。




「面取れ」


 四人が一斉に面を外していく。道場内では面紐がするすると外れていく音がしていた。


 切り返しから面、小手、胴、突きの四カ所を重点的に打つ基本打ちをし、その後でかかり稽古を行った後で、四人は一度振り返りをするために面を外して休憩に入ることにした。


 猫丸は面を外すと一直線に水を飲みに行き、久々の剣道によるブランクを癒やしていた。特にかかり稽古、あれはいきなり全力でやるものではなかった、と少し後悔していた程だった。


 かかり稽古、というのは"受け手が開けた部位に素早く打ち込む稽古"であり、所謂追い込みのような稽古だった。

 俊敏な足さばきに、早くてもきちんと打突ができる筋力と技術、なによりそれらを続けられる体力が求められる稽古であり、人によっては稽古の中で一番しんどいともいわれているものだった。

 

「ほれ、これ」いつの間にか隣にいた野上が塩飴を手渡した。

「ありがとうございます―――これを毎日って凄いですね、素振りの回数もしっかり沢山あったし、切り返しとかかかり稽古とかも普通にしんどかったです」

「これでも動画で見る強豪校の練習には全然届いてないけどなー、まあ俺たち二人が一年間でもがいた成果って訳よ。でもお前に関しては久しぶりなんだろ? それであれだけ動けたら凄いと思うがなあ、初心者からしたらだけど」

 

 野上は猫丸の背中をトンと叩いた。そういう野上も、十分なほどに汗をかいており、顔にはきちんと疲れがみえていた。


「で、どうだったよ、稽古はさ。地稽古※以外のメニューはこれで全部だぜ」


※「地稽古」は別名互角稽古とも呼ばれ、現在では基本的に二人で"試合形式"のように立ち会い、その時間でそれぞれが試したい技を試したり自分の構えをふり返ったりして、研鑽を積む稽古


 面を取った後もその場に正座し続けている熱田の前で、あぐらをかいて加藤が尋ねた。熱田は汗はかいているものの、そこまで息は切らしていなかった。

 ただ、ひたすらに何か考え込んでいるように地面を眺めている。


「うん、いいと思います。やらなきゃいけないことはきちんとやれてましたし。ただ、改善点もいっぱいあるように思いました。なあ、伏見」


 突然後ろを振り向き呼ばれた猫丸は、飲んでいた水を噴き出しそうになっていた。


「な、なにびっくりした。改善点?」

「そうだよ、先輩達の剣道見て、思ったこととかあるだろ」

「―――まあ、なくはないけど」


 加藤と野上は猫丸に注目した。熱田も「言ってみてくれねえか」と後押ししている。


「先輩達って、多分素振りとか基本的な動作はあの鏡を見ながらやってたんですよね」

「おーう、そうだなあ。最初とか特にずっとにらめっこだったぜ、あれと」

 加藤が鏡を見つめてそう言った。

「だからですかね、竹刀の振りも姿勢も凄い良かったです。特に素振りの時とか、ね、熱田君」


 熱田は「ああ」とだけ答えていた。彼が賛同してくれたことで自信をつけ、猫丸は「ただ」と続けた。


「稽古が始まってからが、崩れがちなようにみえました。特にかかり稽古とかは、せっかくの綺麗な打ち方が色々とバラバラになっていたように思います」

「え! マジかよ」加藤はあからさまにショックを受けていた。

「先輩達は悪くないっす、これに関しては今まで二人だけでやってきたことによる弊害すよ。仕方ないっす」


 熱田は説明を加えた。


「本来、剣道ってのは指導者がいるもんです。俺たちはその人に『竹刀の振りが曲がってる』とか『竹刀の位置が下がってる』とか教えて貰って、ようやくそれを矯正できるんすよ。それは中々対峙してる相手だけでは分からない部分が大きいっす。

 だからきっと二人は"鏡を見ながらできない稽古"で崩れがちだったんじゃねえかなって」


 二人は「なるほどな―――」と顎に手を当てたり「盲点だったー!」とひっくり返ったりしていた。


「でもこれは俺たちが来たことで解決します。どんなときでもお互いを見て矯正しあえるんで。明日からはお互いの打ち方とかを一つ一つ確認しながら稽古していきましょう。ビデオとかで撮るのもありかもしれませんね。勿論、先輩方も俺ら二人の稽古見てくださいね」

「えー、俺らになんか分かるかなあ」

「自分以外の意見ってだけで価値あるんすよ、お願いします」

 自信なさげな野上に対して、熱田は強気にお願いしていた。


「じゃ、後は―――お前だな」

 猫丸は目線を猫丸に移した。


「お前、剣道初めて何年だ」

「小学校三年とかからだから七、八年かな」

「俺と二、三年しか変わらねえな」

 

 そう言うと熱田は立ち上がり、猫丸に対して少しお辞儀した。


「それじゃ―――一つ地稽古、お願いします」

 

 そう言った熱田は少し口角が上がっていたようにみえた。先輩らは驚きながらも目線は猫丸に向けていた。

 同時に、猫丸はやっぱりそうなるか、とどこかで達観していた。

 

 これは自分に対する手合わせの申し出であり、自分の実力が試されているのだ、と猫丸は自覚した。


 



 

 

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