第二十七話 三者三様

 ムギたちがベーセホリス村で魔物たちに歓迎されている頃、ヨウスケ率いる幻竜団げいりゅだん東軍はチャンタルホーク村での聞き込みを終えて、ガメア大陸を歩いていた。


 チャンタルホーク村での聞き込みの結果、ヨウスケはミサキたちは魔物と共に、とある村に向かったという情報を得ていた。


 ヨウスケは、ゼン村長から魔物の村の話を聞いて耳を疑った。


 (魔物が住んでいる村など聞いたことがない……)


 はじめは騙されているのかと思った。

 

 しかし村長も我々に嘘をつく理由がない。

 それにあの口振りを見る感じ、嘘をついているようには見えなかった。


 魔物だけの村があるというのはにわかには信じ難かったが、ガメア大陸はとてつもなく広い。

 我々が知らないことがあっても、なんら不思議ではない。


 でもこの話が本当だとすると、子供達ミサキたちは実は危ないんじゃないか。

 子供達ミサキたちは、魔物に騙されてその村に連れ去られた可能性がある。


 ヨウスケの頭の中に、そんな考えがよぎった。


 あの子たちがいくら元東軍だったとはいえまだ15歳。

 ヨウスケにとっては子供である。


 そんな子供達だけで魔物だけの村に向かうというのは、あまりにも危険すぎる。


 チャンタルホーク村での情報をワカマル様に報告をするために、ヨウスケは一度カオンに戻ることにした。


ーーーーーー


「魔物だけがいる村か……聞いたことがないな」


 ヨウスケから話を聞いたワカマルは少し考える。


「村長は確かにそう言っていたのか?」


「嘘をついているような雰囲気ではありませんでしたね」


 ヨウスケはワカマルにとって、最も信頼できる男の1人。

 おそらくこの話は本当なのだろう。

 ガメア大陸には、我々の知らない魔物の巣窟となっている村がある。 


「どうしますか?」


「当然その村の場所を突き止める。 その村を探し出すことができれば、当初の目的であるミサキを連れ出すこともでき、ついでに魔物も一網打尽にできる」


 魔物の巣窟となっているであろう村を壊滅させることができれば、魔物の脅威というのもだいぶ減るだろう。

 そうなればカオン内でのワカマルの評価もさらに鰻登りである。


 それに続いて、アカネさんの娘であるミサキを利用してのドウマンの団長陥落計画。

 ワカマルがのし上がるための計画は着実に進行していた。

 

 この時ワカマルの頭に中には、子供達ミサキたちを心配すると言う考えは微塵もなかった。


「まずはチャンタルホーク村だ。 あの村は確かホウゲンがよく行っていた村。 話を聞いてみるのもありかもな……あいつが今どこにいるか知っているか?」


「団長を剥奪されてからの彼の動向は全く分かりません……」


「……セイメイ様なら知っているかもな」


 ワカマルは早速セイメイの元へと向かった。


ーーーーーー


 政府機関太府たいふ、竜の塔最上階の部屋。

 松明の炎に照らされた薄暗い部屋の中、セイメイはカオンを監視するように窓の外を眺めていた。


「……ワカマルとヨウスケか。 2人揃って一体わしに何の用じゃ?」


 ワカマルたちの方を振り返るわけでもなく、相変わらずセイメイはカオンを監視している。


「セイメイ様。 ホウゲンは団長を剥奪された後、一体どこに向かったのかご存知ないでしょうか?」


 ワカマルの問いにセイメイはゆっくりと振り返ると、スタスタと部屋の中央にある椅子へと腰を下ろす。


「ホウゲンはもうただの一般市民。 わしの管轄外じゃよ。 しかしワカマル、おぬしはホウゲンを毛嫌いしておった。 てっきりホウゲンがいなくなって清清しておると思っておったが……ホウゲンに何か用があるのか?」


「はい。 実はチャンタルホーク村で興味深いおもしろい情報を得ました。 もしその情報が正しければ憎き魔物に大打撃を与えられる可能性があります」


「ほう。 それとホウゲンがどういった関係が?」


「チャンタルホーク村は、ホウゲンが団長だった頃によく行っていた村です。 何か詳しいことを知っている可能性が高いと見ています」


「左様か」


 セイメイはそれ以上ワカマルの話を深掘りすることはなかった。


 魔物の村を襲撃するのは、幻竜団にとって魔物を多数討伐する大きなチャンス。

 ここで魔物の村があることを話せば、きっとセイメイは全軍を用いてその村壊滅へと動く。

 ワカマルにとってそれでは意味がなかった。

 手柄は自分だけでいいのだ。


 今この情報を知っているのは、ワカマルと信用できるヨウスケだけ。

 魔物の村壊滅という手柄を自分たちだけのものにするために、ワカマルは自分たちだけで村を探し出すことを決意した。


ーーーーーー


 同刻


 ホウゲンは元東軍のメンバーを集めて、期首壁ビギニンウォールの前にいた。


(まさか再び幻竜団として活動できるチャンスが来るとはな)


 ガメア大陸に魔物が多数生息している村がある。

 そこの村を壊滅させることができれば、その功績を讃えてもう一度幻竜団として迎え入れよう。


 セイメイ様にそう言われたのは先日だ。


 すぐに元東軍のメンバーに声をかけた。

 

「お前たち、腕は鈍っていないだろうな」


「お頭、当たり前じゃないですか。 幻竜団を追放されたあの日から、一度もトレーニングを欠かした日はありませんよ」


 ユウキがそう答えると他の元団員も首を縦に振った。


 彼らは諦めていなかった。

 いつかもう一度幻竜団に戻るチャンスがあると信じていたのだ。


 期首壁ビギニンウォールの見張りの騎士は、すんなりとホウゲンたち通した。


 通行権である幻竜団特有のマントを着ていなかったが、この時、太府最上階の窓からセイメイに指示を出された見張りの騎士が門を開けたのだ。


 あの日以来久しぶりにカオンの外に出る。


 まず目指すのはチャンタルホーク村。ルナがいる店だ。

 武器も何もないので、そこで魔物を討伐して武器を揃えなければいけない。


 ここでホウゲンはあることに気がついた。

 龍笛がない。


 犬神タロウ達がいれば、村までは数十分。

 仕方なく村まで歩いて行くことにした。


 ホウゲンたちがチャンタルホーク村についたのは、門を出てから7時間後のことだった。

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