第二十四話 忍び寄る影
タクミが討伐してきた魔物(閻魔3体、猿猴45体)をギルドに持っていくと、金貨11枚、銀貨1枚、銅貨5枚になった。
ギルドの受付のお姉ちゃんも、「こんな少年たちが……信じられない」といった感じで、開いた口が塞がらない様子だったのが印象的だった。
たった1日でこれだけ稼げるというのは、嬉しい誤算だ。
これだけあればしばらくはお金の心配はいらないだろう。
「ムギくん達が関係をもった村長のところに行きたいんだけど、案内してくれる?」
ミサキは村長に会いたがってるみたいだけど、一体何を企んでいるのだろうか?
「まぁ、案内できるけど何するつもり?」
「ちょっと聞いてみたいことがあってね」
ミサキはそういうと、1枚の紙切れを取り出した。
地下洞窟に行ったときに、リュウタロウさんが壁に書かれていた文字をメモした紙だ。
いつの間にミサキが持っていたんだろうか?
リュウタロウさんに託されたりしたんだろうか?
翌日、俺たちは再びゼン村長宅へと向かった。
ーーーー
「確かに、いかにも偉いぞって感じの家だな」
村長宅を前に、タクミは腕を組んで言い放つ。
昨日の今日来たばかりだからか、見張りも俺の顔を覚えているらしく、快く門を開けてくれた。
家の扉をノックすると、ジンさんが出迎えてくれた。
「おぉ、昨日の少年! ペコちゃんの件はありがとうな」
「村長さんと話したいことがあるんですけど……」
ジンさんは俺の後ろにいる4人に目を配ると、何かを察知したのかドアを閉めた。
ドアの向こう側からはジンさんがゼン村長を呼ぶ声が聞こえる。
しばらくして再びドアが開くと、今度はゼン村長が立っていた。
「昨日の呪力使いの少年か。 後ろの子達は……お仲間かの」
「初めまして村長さん。 ミサキといいます。 実は聞きたいことがありまして」
よほどあの文字が気になるのか、ミサキはいつにも増してグイグイといっている。
「この少年には恩がある。 わしが知っていることであればなんでも話そう。 さっ中へ」
とんとん拍子で話が進んでいく。
これもペコの助を連れ戻した賜物だ。
やはり人助けはやっておくべきだな。
部屋に案内されると、ゼン村長の方から長々と話し始めた。
「ムギくんとシンジュちゃんだったかの。 早速武器と服を使ってくれているようじゃの。 その刀はマサムネと言ってな……」
途中で口を挟むわけにもいかずに、ただただ延々と話を聞く。
どうやら俺たちのことをかなり気に入ってくれているっぽい。
話によると、この村は【チャンタルホーク村】と呼ばれるそうで、5千人ほどのロピ人が生活しているらしい。
この村では呪力を扱える人がいないので、火というものがとても重要視されている。
火があれば大概の魔物は寄ってこないし、火がなければここまでの規模にまで村を発展させる事ができなかったそうだ。
そうした背景もあり、
そういえば、あの酒場に初めて行ったときも、そんな話してたのを思い出した。
さらに話は続く。
ゼン村長の息子、初対面で石材構築のこの家を声だけで揺らしたあの
そうなるとジンさんもすごい人なのかと思ったら、ズンさん曰くただのバカ息子だということだった。
俺たちが連れ戻したペコの助はこの一家の守り神らしく、あのまま行方不明のままになってたら世話を任されていたジンさんの首が飛んでいたらしい。
あれだけ必死だったのも、自分の命がかかっていたと言うんのなら納得だ。
「で、一体聞きたいことというのは何かの?」
長話に満足したのか、ようやくこちらが質問をする番がやってきた。
「この文字に見覚えはありませんか?」
ミサキはゼン村長の前に例の紙を広げる。
村長は紙をじーっと見つめると、何かを思い出したかのように顔を上げた。
「これは……遥か遠くにある
「カオンの地下洞窟に同じ文字が書いてありました」
「ほう……それは興味深い」
村長は顎に手を当てて何かを考え始めた。
「何か知りませんか?」
「知っていれば教えたいところなんじゃが、わしにも分からんな。 どうして辺境の古代文字がカオンの洞窟なんかに……」
「そのへデスっていう国は遠いんですか?」
「気が遠くなるほどにの。 行くつもりなのかい?」
ミサキは俺たちの顔を一通り見て、「はい」と答えた。
「やめておいた方がいい。 いくら呪力が使えるからと言っても、君たちみたいな少年が行けるほど世界は狭くない」
村長は反対しているようだけど、この話を聞いたシンジュが「はいそうですか」と、素直にいうわけが無い。
それに俺だって世界を見てまわるって決めたんだ。
反対されたからと言って諦めるのは嫌だ。
「村長。 俺たちの好奇心を舐めないでください」
「若者というのは、怖いもの知らずじゃな」
そうと決まれば、早速出発だ。
へデスに向かえば何かわかるだろう。
そう思って玄関のドアを開けると、強風に煽られた。
「うわっ、こんなに天気って悪かったっけ?」
すかさずドアを閉める。
「神獣がお怒りじゃ。 今日は荒れるぞ」
村長がそういうと雷が鳴り出し、瞬く間に外は雷雨と化した。
「神獣の仕業なのですか?」
「人間の手に負えない現象は、大方神獣の仕業じゃ」
「じゃあ神獣は近くにいるってことか!?」
神獣という言葉に、タクミがいの一番に反応を示す。
「近くにおるかは分からんが、何か良く無いことが起こったのじゃろう」
「そうか」
タクミはそういうと、龍笛を取り出して勢いよく吹いた。
しばらくして
「お、お呼びですかご主人様」
「今からこの村を出発して、近くにいるかもしれない神獣を探そうと思う。 お前ら元は魔物なんだろ? 何か心当たりはないか?」
タクミはタロウに聞く。
っていうか、さっき今から行くって言った?この嵐の中を?聞き間違いだよな?
「し、神獣がいるかは分からぬが、この大陸には魔物だけが住んでいる村がある」
「ホントか! じゃあそこに行こう! 今から!」
「いや、タクミ。 せめて天気が戻ってから行こう。 それに魔物だけが住んでる村って……行って大丈夫なのか?」
「ムギ、こういうのは行動の速さが大事なんだよ。 それに魔物の村なんていくしかないだろ。 やばかったら全滅させればいいし」
「全く……他のみんなはどうなんだ?」
みんなの顔を見てみると、もちろんシンジュは早く行きたそうな顔。ミサキは仕方ないというような顔。クロカはどっちでもいいような顔をしていた。
ついでに村長の顔を見てみたら、今目の前で起こっている事が信じられないといった感じで、ポカーンとしている。
それもそうだ。
敵のはずの魔物とタクミは仲良く話しているし、おそらく魔物だけが住んでいる村があるというのも初めて知ったのだろう。
「そんじゃあ行ってくる」
タクミはそういうと、タロウに跨った。
さっきまで雷雨だった天気は、いつの間にやら雪へと変わり、吐く息は白く残った。
この村に来たときの違和感。村人の服装の季節感の統一性の無さという疑問はこれで解決した。
これだけ急激に天気も気温も変わっていたら、無理もない。
タクミを先頭に残りの犬神に跨った俺たちは村を後にした。
ーーーー
少年たちが家を出てから10分ほど経った後、再び玄関のドアを叩く音が聞こえた。
流石にこの吹雪の中を、いくら犬神という魔物が味方をしてくれるとはいえ、少年たちだけで行くのは無謀すぎたと諦めて帰ってきたのかとゼンは思った。
ドアを開けると、見慣れない顔があった。
しかし、この赤黒いマントには見覚えがある。
これは幻竜団特有のマントだ。
「俺は幻竜団東軍団長ヨウスケだ」
「これはこれはヨウスケ様。 団長様がわざわざこの村に一体どういう用件で?」
「この村に、ミサキというメガネをかけた少女は来なかったか?」
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