第二十三話 蠢く思惑
ムギ達がカオンの外で魔物を討伐してお金を稼いでいる頃、カオン内部ではまた新たな動きがあったようだ。
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「幻竜団も色々大変ね」
図書館司書であるアカネはペンを片手に仕事をしながら、ドウマンへと告げる。
「随分他人事ですね。 例の事件の当事者に娘さんが含まれてるっていうのに」
アカネの娘は1ヶ月前に禁忌事項を起こしてカオンを追放されたミサキである。
「そんなことにいちいち気が動転してたら、この仕事なんて務まらないわよ」
「心配ではないのですか?」
「あの子は昔から自分勝手なのよ。 仕事を継げば将来安泰だっていうのに、私の反対を押し切ってまで幻竜団なんかに……あ、ごめんなさい」
「全然いいですよ。 幻竜団は常に危険と隣り合わせですからね。 自分の子供が所属するとなると、反対するのは当然です」
ドウマンは借りていた本をアカネへと返すと、部屋を後にした。
アカネはドウマンが部屋を出たのを確認すると、棚から一冊の本を手に取る。
表紙には【オリープス大陸】と書かれている。
再びペンを手に持つと、取り出した本の内容を一言一句正確に紙へと書き写していく。
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西軍団長ワカマルは東軍団長ヨウスケと共に、幻竜団全軍統率への次なる作戦を考えていた。
次にワカマルが狙っているのは、北軍団長ドウマンの陥落だ。
「ドウマンは今日も図書館に出入りしていたのか」
「はい。 どうやらドウマンとアカネは親しい間柄なようで」
「ふーん。 確かこの前カオンを追放になったミサキっていうやつは、アカネの娘だったよな」
「そうですね。 でもどうやら親子の関係はあまり良くないという噂を聞いてます」
「そうなのか。 探りを入れてみるのもありかもな」
ワカマルはそう言って地下一階の図書館へと向かった。
「ドウマンは来ていないのか?」
ワカマルは図書館に入って早々、アカネへと尋ねる。
「これはワカマルさん、ここに来るのは珍しいですね。 ドウマンは先ほどまでいましたけどね。 すれ違わなかったですか?」
「いや、見ていないな。 ドウマンは一体何の用事で?」
「借りていた本を返しに来ただけですよ。 何もやましいことはありません」
「そうか」
ワカマルはアカネの前にある机に置いてある数冊の本を手に取った。
「返しに来た本というのはこれか?」
「はい」
「また随分と難しそうな本を読んでいるんだな」
本をパラパラとめくると、見慣れない文字が顔を覗かせた。
別にドウマンが読んでいた本に興味があるわけではない。
アカネとミサキの親子関係について知りたいのだ。
「カオンを追放になった娘とは連絡をとっていないのか?」
「今日は随分と娘について聞かれるわ。 カオンを追放になってから一体どこで何をしているのか見当もつかないわ」
「そうか。 随分と冷たいんだな。 ところで、東軍が犯した禁忌事項っていうのは一体なんなんだ? 何か知っていないか?」
「……さぁね。 神獣を逃したことって言われてるみたいですけど、あなた達の方が詳しいんじゃないかしら」
アカネはワカマルの問いかけに一瞬だけ手を止めたが、そう答えると再び作業に戻った。
果たして、あのホウゲンが神獣を逃すなんていうバカなことをするのだろうか?
ワカマルの脳裏にはそれだけが引っかかる。
神獣の解放は幻竜団の目的に反することだ。
それに今回逃亡した雷神
考えれば考えるほど、ホウゲンが考えていることがわからなくなる。
「そうか。 その噂が本当なんだとしたら困ったもんだな」
そう言ってワカマルは図書館を後にした。
部屋を出ると、ヨウスケが待っていた。
「ヨウスケ。 次の作戦だ。 ガメア大陸のどこかにいるアカネの娘を捕えるぞ。 口ではなんとでも言えるが、実際にその状況になってみないと分からない」
「承知しました」
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「全く、ホウゲンったら一体何をやらかしたというの」
夜市ナルミは娘を抱き抱えながら愚痴をこぼしていた。
夫であるホウゲンから連絡が途絶えたと思ったら、突然の団長剥奪のニュース。
見習いたちの訓練をしてくるからと、カオンを出てから一度も会っていない。
娘が生まれてから、「俺が育てる」とか言って、ずっと東軍の拠点にいたもんだから、母親のはずなのに育児なんて一度もさせてもらえなかった。
それがまさかこんな形でいきなり育児をすることになるなんて。
兄である夜市ナルザキと共に、カオンに住むナルミは初めての慣れない育児に苦戦していた。
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