第二十二話 成果発表

 運よく集落の村長であるゼン宅へとお邪魔し、大量の武器と衣服を手に入れたムギとシンジュペア。

 一方その頃、タクミクロカミサキトリオは集落の人たちに聞き込みを行っていた。


ーーーー


「やっぱ誰に聞いても魔物討伐が一番手っ取り早く儲かる方法だな」


 タクミは俄然やる気が出てきたのか、腕をブンブンとまわしはじめる。


「そうね。 タクミもやる気満々みたいだし、クロカ君もそれでいい?」


「僕は2人に任せるよ」


「じゃあ決まりだな! 最近全然戦ってねーからムラムラする〜」


 そうして3人は魔物を討伐するために、なんの当ても無く村から出た。

 しかしこれだけ広大な土地。

 魔物を探すだけでも大変であった。


「これ使ってみるか」


 そう言ってタクミはポケットから龍笛を取り出す。

 ホウゲン元団長からルナ店員を通して貰ったものだ。


 一度ホウゲンが使ったのを見ていたタクミは、見よう見まねで吹いてみる。


「本当にこれで来るのかしら」


 しばらく待っていると、見覚えのあるオオカミが3人の元にやってきた。


「うわっホントにきたっ」


「せ、拙者を呼んだのはおぬし達であるか?」


「しゃべった!?」


「我が名は犬神のタロウ。 おぬし達は確か……ホウゲン様と一緒にいた小僧達だな」


「俺の名はタクミ。 訳あって団長はもういないけど、ちょっと頼みたいことがあって呼んだんだ」


「頼みとは?」


「魔物を狩りまくりてぇんだ。 魔物がいるところに連れて行ってくれ」


「なるほど……事情は分からないがその頼み、引き受けよう」


 タロウはホウゲンが手懐けた魔物である。

 龍笛を吹くことによってすぐさま呼び寄せることができ、龍笛を持っている者を飼い主として認識するように調教されていた。


「今日は1匹できたの?」


「笛の吹き方が拙者だけを呼ぶ吹き方をしていた」


 どうやら笛を吹く長さによって、呼び寄せる犬神の数が変わるようだ。


「そうか。 じゃあお前ら2人は村に残っていてくれ。 魔物は俺1人でとっ捕まえてくる」


 タクミはそう言ってタロウに跨った。


「そう、じゃあ頼んだわ。 集合時間までには帰ってきてよ」


 ミサキは彼氏の言葉に納得し、クロカと一緒に村に残って情報を集めることにした。


「おう! 任せておけ! 大金を稼いでくる」


 そう言って、タクミは瞬く間にガメアの広大な土地の中に消えていった。


「タクミ君1人で大丈夫かな?」


「心配? タクミなら大丈夫よ。 強さだけならピカイチだから」


 クロカはタクミの実力を見たことがないので心配している様子だが、ミサキは彼の一番の理解者。

 遠ざかる彼氏を見る目は、彼なら大金を稼いで来てくれるという確信に満ちていた。


ーーーー


 集合時間になったので待ち合わせ場所に向かうと、すでにミサキとクロカがいた。


「あれ? タクミはどうしたんだ?」


「魔物を狩りにいってるわ。 一応時間までには帰ってこいとは言っておいたけど……」


 まじか。

 確かにあいつほどの実力があれば、魔物討伐で大金を稼ぐこともできるだろう。

 でも1人っていうのが心配だな。

 彼女であるミサキがいなければ、誰もあいつを止める人がいないからな。

 魔物を狩ることに夢中になって集合時間忘れてなければいいけど……


「やっぱり魔物討伐が一番手っ取り早い金稼ぎって聞いたのか?」


「ええ。 聞き込みしたんだけど、みんなそう言ってたわ。 そっちは何か収穫はあった?」


「大収穫があったわよ。 ムギ、見せてあげなさい」


 自信満々に答えたシンジュに唆されるように、武器と衣類が入った袋を広げる。


「じゃじゃーん!」


「!? 一体どうやって手に入れたの?」


 ミサキの驚いた顔を見るのはレアである。

 ついついお得意顔で、シンジュと一緒にこれまでの経緯を話す。

 

 まっ、ほとんど偶然なんだけどね。

 声をかけてくれたジンさんには感謝だ。

 最初はちょっと迷惑って思ったけど、人助けはしてみるもんだ。


「そんな偶然があるなんて。 そのコネを使えば色々できることも増えそうね」


 ミサキはそう言ってメガネをクイっとあげた。


 あ、なんだかミサキが悪い顔してる。

 頭が切れるから、俺たちの話を聞いて何か名案を思いついたんだろう。

 トラブルにならなければいいけど……


「わぁ! すごいや2人とも。 武器がたくさん」


 クロカはキラキラ輝いた目で早速武器を選んでいた。

 選ばれたのは双剣でした。


 ちなみに俺は、ユウキ先生から貰った剣に似ているものを選んだ。

 

 身幅は広めだけど、重ねが薄くて軽い。

 ゴリゴリマッチョじゃない俺でも扱えるだろう。

 周りの景色を鏡のように映すほどに刀身は輝いており、乱れ刃で美しい。

 それに、鞘は赤黒くて俺たちの赭亜シャアのイメージにピッタリだ。


「どう? 俺の剣? 似合ってる?」


 選んだ剣を腰に装備して、シンジュの前に立つ。


「おぉいいじゃん! かっこいい! ちなみにだけど、それは剣じゃなくて刀ね」


 え?そうなの?

 こういう形の武器は全部剣だと思っていた。


 どうやら、刀身の両側に刃がついてるものを剣。片刃のものを刀っていうらしい。

 

 シンジュのやつ、いつの間にそんな知識を。

 

「そ、そんなことより、タクミはどれを選ぶかな? やっぱ一際でかいこいつかな?」


 言い間違いから話題を逸らすように、一番でかいを手に持つ。


 お、重い。これはタクミじゃないと扱えないな。


「いや、タクミはこっちじゃない?」


 ミサキがそう言って指さしたのは棍棒だ。


「あ〜確かに」


 3人の声が揃った。


 さすが彼女である。

 タクミが棍棒を振り回している姿が容易に想像ができる。


「あ、噂をしてたら帰ってきたみたい」


 ミサキの声に視線を上げると、遠くからツノが生えたオオカミがこちらに向かって走ってくるのが見えた。


 あのオオカミは確か……犬神のタロウだったっけ?

 

 タロウの背中にはタクミが乗っているが、何か大荷物を牽引している様子。


「ふぅ。 ギリギリセーフ」


「いや、ギリギリアウトよ。 それより大金は稼いできたの?」


「あぁもちろんだミサキ。 閻魔3体に、猿猴45体だ」


 タクミはそう言って、牽引していた荷物を指差した。


 まじ?

 そんなに討伐してきたのか。

 十分過ぎるほどの成果に開いた口が塞がらない。


「なっ! タロウ」


「……」


 タクミに相槌を求められたタロウだったけど、返答はない。


「どうしたんだよ」


 そんなタロウが気になるのか、タクミはもう一度タロウを叩く。


「せ、拙者、人見知りゆえ、ご、5人以上は苦手でござる」


 どうやらタロウは緊張している様子だった。

 そういえば、ホウゲンさんが人見知りだって言ってたっけ?

 こんな厳つい見た目してるのに、すごいギャップだな。


「なんだよ全く。 可愛いやつだな〜」


 タクミはそう言って、まるでペットでもあやすかのようにタロウの頭をわしゃわしゃと撫でた。


 いつの間にやらすっかりと2人は打ち解けているらしい。

 というよりも、タクミが一方的に可愛がっていると言った方が正しいか。


「随分暴れ回ってきた様子ね。 それよりタクミはどの武器が好み?」


 ミサキの言葉に、タクミは目の前に広がる武器に一瞬だけ視線を落とす。


「武器? 俺にそんなもんは必要ねーよ。 この拳が一番の武器さ」


 どうやら俺たち3人の予想は外れたみたい。

 確かに棍棒なんかより、素手で魔物を殴り飛ばしてる姿が一番似合うかも。


ーーーー


 それぞれの役割を終えた俺たちは、タクミが討伐してきた魔物たちをギルドへと運んだ。

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