第二十一話 ジンとズンとゼン

 無事に、ジンのペット”ペコの助”を魔物から取り返すことに成功したムギとシンジュ。

 2人は報酬をもらうため、ペットペコの助を連れて、集落へと帰る。


ーーーー


「本当にありがとう! 2人には感謝してもしきれぬ!」


 ジンさんはそういうと、黒猫ペコの助へと抱きついた。

 黒猫ペコの助はそんなジンさんが愛おしいのか、さっきまで俺たちに向けていた敵意などは見る影もない。


 一体このペットをジンさんはどうやって手懐けたというのだ。

 その秘技があるのなら是非とも教えてほしい。


「いえいえ。 困った人を助けるのは当然のことです。 ジンさんの言った通り、ペットは魔物に連れ去られていました」


「あぁ、やはりそうだったか……無事で何より。 ところでその魔物は討伐してきたのか?」


 頬を擦り寄せているペコの助を宥めながら、ジンさんは聞いてきた。


「うんっ! もちろんよ! 魔物はこのムギが一撃でのしたわっ! ねっ!」


「あ、あぁ」


 なぜかシンジュは俺よりも誇らしげだ。


「まだ小さいってのに……噂には聞いてたが、呪力の力ってのは大したもんだ。 ところでその魔物はどんなやつだった?」


「閻魔と呼ばれる魔物です。 世界に広く生息してる猿猴の群れを占めている、いわばボス猿みたいなやつです」


「なんと! 騎士団でも3人がかりで討伐に向かうというあの閻魔を一撃でのしたというのか!」


「はい。 大したことなかったです」


「まさかこんな逸材が幻竜団げいりゅだんに所属していないとは……」


 どうやら俺たちが幻竜団東軍の見習いだったというのは知られていないらしい。

 まぁ知られたとして、どんな禁忌を犯したんだ?とか、根掘り葉掘り聞かれるのも面倒だ。

 このままにしておこう。

 それに、何が禁忌に触れたのかも俺たち自身よくわかってないし。


「やはり今日君たちに出会えたのは運命だ。 ペコちゃんを連れ戻してくれた礼をする。 ついて来てくれ」


 ジンさんはそう言うと、ペコの助を連れて歩き出した。

 どうやらこいつも一緒に行動するらしい。

 目立って仕方がないけど、報酬をもらうためだから仕方がない。



 連れてこられた場所は、集落の中でも一際異彩を放っている建物だった。

 まず、木造建築が並ぶこの集落の中でも珍しく、壁を石で固められている石材建築だ。

 カオンに立ち並んでいたものと同じ特徴をしている。

 さらに、建物には門がついていて、甲冑を着た見張りが2人立っている。


 パッと見ただけでわかる。

 絶対お金持ちの家だ。

 もしかしてジンさんってお金持ちの息子だったりする!?


 これは俄然報酬に期待が持てる。


「さぁ入ってくれ」


 ジンさんが門を開けると、見張りが敬礼をした。

 特に俺たちを引き留めて来る様子はない。

 

「ジンさんって一体何者なんですか?」


「特に何者でもないさ。 俺のおじいちゃんがこの集落の長ってだけ」


 今なんて?

 おじいちゃんが集落の長だって?

 

 ジンさんに出会ったのは運命だったのかもしれない。

 どうやらかなりの権力者の息子だったらしい。


「じいちゃんただいまー」


 勢いよく扉を開けると、そこには屈強な1人の男が立っていた。


「ひっ親父! なんで」


「どこを出歩いてたんだぁジン」


 この人はジンさんのお父さんだろうか?

 それにしてもジンさんがすごく怯えているように見えるのは気のせいだろうか?


「ぺ、ペコちゃんがま、魔物に連れ去られてて……」


「言い訳は……せんでよぉぉぉぉい!!!!」


 石材建築の家が揺れた。

 比喩ではなく、実際にこのお父さんの馬鹿でかい声によって揺れた。

 鼓膜が破れるかと思った。


「ズンよ。 そんなに大きい声を出すでない」


 馬鹿でかい声に耳を塞いでいると、奥から1人のおじいちゃんが現れた。


「ゼン様。 申し訳ありません。 しかしジンが嘘を……」


 ゼン様と呼ばれるこの人が、集落の長だろうか。


「おやおや、来客かの?」


 俺たちに気がついたらしく、目が合った。

 軽く頭を下げておく。


「じいちゃん! この2人がペコちゃんを連れ戻してくれたんだ」


「なっ、また嘘を! あの怪物猫が魔物に連れ去られるわけがない」


 いや、本当に連れ去られたんだけどね。

 確かにあんな怪物猫が連れ去られるなんて、馬鹿馬鹿しい嘘だと思うかもだけど。


 ジンさんが俺たちの方に振り返った。

 その目は助けを求めている。


「ジンさんの言う通りです。 ペコの助は、閻魔という魔物に連れ去られていました」

 

「何? 閻魔だと? ジンの話が本当だとするのなら、君たちが閻魔から怪物猫を奪い返したというのか?」


「はい」


「ふんっバカバカしい。 よくいるのだよ。 ゼン様に近づきたくてジンを利用するやつ。 こいつは純粋で単純だからな」


 少し話しただけでわかった。

 この人は話が通じないタイプだ。

 本当のことしか言ってないのに、全部を嘘の作り話だと思い込んでしまっている。

 

「親父。 全部ほんとの話なんだ! この2人は呪力が使えるんだ」


 呪力という言葉に、2人の体が一瞬ビクっとしたのが見えた。

 どうやらこの集落では呪力が扱えるというのはかなり珍しいことらしい。


「ふんっ。 またそんな分かりきった嘘を……呪力を使えるというのなら、なぜ幻竜団に所属していないのだ」


 いやぁそれには深い理由ワケがありまして……できることなら俺も辞めたくなかったよ。


「是非とも呪力とやらを見せてもらいたいものだな! はっはっはっ」


 ズンと呼ばれる、多分ジンさんのお父さんはそういうと高笑いを始めた。


 これはかなりバカにされてるな。

 仕方ない。ちょっとおちょくってみるか。


ーーバンッーー


 開けっぱなしだった扉を呪力で勢いよく閉めてみる。


「ん?なんだ?」


 まだこんなんじゃ足りないか。


 次にズンさんが腰につけている刀に意識を集中。

 鞘から一気に引き抜いた。


「うわっ、一体どうなってる」


「これで信じてもらえましたか?」


「君がやったというのか?」


「はい、これくらいなら朝飯前です」


 ついでといってはなんだが、呪力を全身から発してみた。

 青色の呪力が全身から湧き出る。


「ど、どうやら呪力使いというのは本当らしいな」


 あっさりと信じてもらえた。

 最初からこうすれば良かったのかも。

 鞘から抜かれた刀をそっと元に戻してあげる。


「これは驚いた。 さぁ中に入ってくれたまえ」


 一連の流れを見ていたゼン様が中へと案内してくれた。


「ジンよ。 疑ってすまなかったな」


「分かってもらえたらいいんです」


 どうやら父と息子も仲直りしたらしい。

 嫌な人だと思ったけど、自分の非を認めて素直に謝れるのは、そう簡単にできることじゃない。

 いい人じゃないか。


 広さは15畳ほどの部屋へと案内された。


「ペコの助を連れ戻してくれてありがとう。 あの猫は我々一族の守り神じゃ。 礼をしよう。 何なりと申せ」


「俺たちは今お金が欲しいんです」


「ほう、いくらじゃ?」


 うーん、いくらって言われてもな……相場が分からないし、武器と衣類を揃えるのにいくらくらい必要なんだろう。


「実は俺たち武器も衣類もないんです。 できればそれを揃えたいんですが……」


「そんなものいくらでも用意してあげよう。 ズン。 持ってきてくれ」


「はっ!」


 ゼン様の指示に、ズンさんは隣の部屋へと向かった。

 戻ってきたときには大きな袋を持っていた。


「さぁ、好きなものを選んでくれたまえ」


 袋の中には大量の武器と衣服が入っていた。


「あの……これ全部貰ってもいいですかね?」


「ん? あ、あぁもちろんじゃ。 ズン、いいじゃろ?」


「も、もちろんだ!」


 まさか全部貰うとは思ってなかったんだろう。あからさまに動揺してる。

 遠慮もクソもないとは思うけど、こういうのは強気でいかなくちゃ。


「ありがとうございます。 一つ質問していいですか?」


「なんじゃ?」


「この村で1番効率よくお金を稼ぐにはどうすればいいですかね?」


「うーむ……効率が良いのかどうかは分からんが、1番大金を稼ぎやすいのは、魔物討伐じゃろう。 討伐した魔物をギルドに持っていくと、その強さに応じて報酬をもらうことができる。 君たちが討伐した閻魔だと、大体金貨3枚程度じゃ」


 なるほど、確かに運良く閻魔クラスの魔物と遭遇することができれば、1日で大金を稼ぐこともできるだろう。


 それに魔物を討伐すれば村での評価も高まるし、同時に実力をつけることもできる。


 一石三鳥くらいあるな。


「ありがとうございました」


 初仕事で大量の武器と衣類、それから有力な情報と村の村長とのコネを作ることができた。


 これ以上ないくらいの好スタートだ。

 タクミたちはどうだろう?

 うまいことやってくれているだろうか?


 そうして、集合場所へと向かった。

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夢幻星〜最強の相方に恵まれた俺は、神に授けられた力を駆使して世界に蔓延る魔物をサクッと討伐。ヒーローとして崇められることにした〜 @tetora0112

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