第十九話 初めての依頼
ここはガメア大陸のとある集落。
呪力を扱えないロピ人が多く暮らすこの地域では、魔物から人々を守るために甲冑に身を包んだ騎士団が町を囲むように配備されている。
そんな集落に呪力を扱える人種が来ることは珍しいことであった。
ーーーー
「まずはお金稼ぎだよな〜」
酒場の下の宿で一泊した俺たちは、集落をぶらぶらと歩く。
昨日の話し合いでこれからの方向性は決まったけど、なんせ俺たちにはお金がない。
ルナ店員はなんでも無料でサービスしてくれる雰囲気だったけど、いつまでも甘えるわけにはいかないだろう。
それに
新しい武器と服を買うにもお金が必要だ。
「二手に分かれて、働き口を探すとするか」
ってなわけで、早速じゃんけんをして二手に分かれる。
チーム分けは、タクミミサキクロカ。シンジュ俺になった。
「じゃあ日が暮れる前にあの酒場の下に集合で」
そう言ってタクミチームは歩き出した。
「じゃあ俺たちも行くか!ってあれ?」
隣にシンジュの姿がない。
少し先を見てみると、走っている彼女の姿が見えた。
おいおい、そんなに急ぐ必要はないだろ。
まだ昼前だぞ。日が落ちるまでまだまだ時間はある。
でもなんかこいつのことだからそんな気がしてた。
知らない町にテンションが上がっているんだろう。
「ちょい、待てって」
咄嗟に地面の砂を呪力で操って走っているシンジュの足首を掴む。
「イッターい! ちょっと何すんのよ」
ずいぶんと派手に転かしてしまった。
効果音をつけるとしたら、”ズデーン!!”だろう。
周りにも結構な人がいるので、かなり恥ずかしかったに違いない。
わざとじゃないんだ。ごめん。
「すまん。 ついつい反射的に」
シンジュは、も〜って言いながら砂を払うと、俺の方へと走って駆け寄り、俺の隣を歩き始めた。
そんなに焦る必要はない。
全然知らない土地だ。ゆっくりと見てまわろうじゃないか。
「ちょっと兄ちゃん、兄ちゃん」
改めてこの集落を見てみると、疑問に思うことがあった。
まず、ここの住人だ。
服装がおかしい。
半袖で薄着な人もいれば、毛皮に身を包んでいる人もいる。
まるで季節感がないな。
どうなってるんだ?
「兄ちゃん! 兄ちゃんってば」
そんなことを考えながら歩いていると、1人の細身で猫背の男が小走りで目の前に現れた。
ん?さっきから兄ちゃんって呼ぶ声が聞こえてたけど、俺のこと?
「あんた、呪力使いなのか!?」
目の前で立ち止まった男はギラギラと目を輝かせて、そう聞いてきた。
さっきの呪力を見ていたのかな?
それにしても、めっちゃ興奮してるな。
どうしたっていうんだ。
「はい。 まぁ使えますけど」
「うわぁ! まさかこんな日に! これは運命だ」
めちゃめちゃでかい声を出された。
それに運命だって。なんて大袈裟な。
おかげで、周辺の人たちが何事かと視線をこちらに向ける。
「すいません。 僕たち急いでいるんで。 シンジュ行こう」
ふと、シンジュの方を見てみると、子供達に囲まれて腕を組んでいた。
「お姉ちゃんたち呪力使いなの?」
「そうよ! 私たちは呪力が使えるの! すごいでしょ!」
どうやらいい気になっている様子だ。
「お姉ちゃんすごい! 見せて見せてっ」
「いいわよっ」
すっかり得意げな表情のシンジュは俺の方を見た。
一体何する気?っておい!
考える暇もなく、足元の砂が俺の左足首を掴んだと同時に思いっきり引っ張られた。
「うわっ」
シンジュのやつ、いつの間にこんなことができるようになってたんだ?
3ヶ月の特訓で出来るようになったのか。
学生の頃は”
「さっきのお返しっ!」
シンジュは舌を出して俺をおちょくった。
さっきのシンジュみたいに派手にこけた俺を見て、子供たちは笑っている。
まんまとしてやられた。
でも別に嫌な気はしない。
着実にみんな成長してるんだな。そう思って少し嬉しくなる。
「ちょっと、何笑ってんのよ」
仰向けで倒れた俺を見下すような形でシンジュ言う。
「いやぁ、お前もこんなことが出来るようになったから嬉しいんだよ。 でも……」
足首を掴んでいる砂を簡単に払い除ける。
まだまだシンジュと俺には差があるみたいだ。
「俺に勝つのはまだ早いよ」
「ふんっ! 分かってるわ。 ちょっとお返ししてみただけ」
まぁ、シンジュ転かせてしまったのはわざとじゃないにしても俺が悪い。
やり返されて当然だ。
腕を組んで仁王立ちをしているのは、彼女なりの強がりだろう。
まぁ、子供達が見てる前だしな。
「お姉ちゃんかっこいい!」
子供達に褒められて、かなり誇らしげな顔をしている。
そう思っていると、さっきのやりとりが喧嘩だと思われたのか、野次馬たちがさらに続々と集まってきていた。
これじゃあ移動も大変だ。
それにこれだけ人が集まってしまったら、ゆっくり探索もできそうにない。
「はやく行こう」
「あ、うん」
「お姉ちゃんたちバイバイ」
「うんバイバイ」
さっきの子供達に手を振って別れを告げて、人混みの中を走り抜ける。
しばらく走って、狭い路地に出た。さっきの野次馬たちもここまではついてきてないっぽい。
呪力を少し見せただけでこの騒ぎだ。
この集落ではそんなに珍しいものなのか?
変な人たちに絡まれたらめんどくさいことになりそうだし、逃げて正解だったな。
「兄ちゃん兄ちゃん!」
一息ついていると、さっきの細身の男性が追いかけてきた。
「はぁはぁ、ちょっと待ってくれ」
膝に手をついて肩で息をしている男性の呼吸が整うのを待つ。
「俺の名前はジン。 呪力使いのあんたらに頼みがあるんだ」
どうやらこの男性はジンという名前らしい。
せっかくここまで逃げてきたのに……
俺たちに頼みってなんだろうか?一応聞いてみるか。
「どうしたんですか?」
「実は、俺が飼っていたペットが魔物に連れ去られて……あんたらに連れ戻してきて欲しいんだ」
どうやら話を聞いてみると、今朝起きたらペットがいなくなっていたらしい。
ペットを探して集落を駆け回っている時に偶然俺の呪力を見かけて、「これは運命だ!」と思ったっぽい。
「魔物が連れ去ったとは限らないんじゃないですか? ただ単に逃げ出しただけかも……」
「そんなはずはない! あの子とはもう10年の付き合い。 逃げ出すなんて考えられん。 お願いだ、連れ戻してくれ」
ジンはそういうとその場で泣き崩れてしまった。
お金稼ぎしにきたんだけど、困っている人を見捨てるのも心が痛む。
でもこのジンという男には、失礼だけどパッと見た感じ金銭は期待できないだろう。
「お礼はなんでもするから……」
すがりつくジンの言葉を俺は聞き逃さなかった。
今、なんでもするって言ったな?
「俺たちは今とにかくお金が欲しいんです。 どうにかできますか?」
「……あぁ、無事に連れ戻してくれたら、なんとかしてみせる」
じゃあ交渉成立だな。
「わかりました。 連れ戻してきます。 どんなペットですか?」
どうやらペットは猫らしい。名前はペコの助。
真っ黒な黒猫で凶暴。
それを聞いて少し嫌な予感がしたけど、お金のためだから仕方がない。
それにシンジュがいれば、ペット1匹なんて簡単に見つけ出すことが出来るだろう。
なんとも意外な形で仕事が転がり込んできた。
日が暮れるまでにサクッと見つけ出してしまおう。
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