第十五話 解読完了
「それは本当か!」
いとも簡単に解読できると宣言したミサキに団長が食いついた。
ほら言ったでしょ?といった顔を一応団長に見せておく。
ミサキなら解読できると言ったのは俺なのだから。
ルナ店員によると、
一体何が書かれているというんだろう。
「その前に、この資料はどこで手に入れたんですか?」
確かに!
団長たちは一体どこでこれを手に入れたんだろう?
ミサキの質問に団員たちは少し顔を渋った。
なんだ?
そんな言いにくいことなのか?
「お頭、こいつらには言っても良いんじゃないですか?」
ユウキさんが言った。
「ふむ。 お前たちは優秀だ。 これから1年間の見習い期間の中で、脱落することはおそらくないだろう」
団長はそう言って、この資料を手に入れた経緯を話しはじめた。
どうやらこの資料は、数年前神獣である
「神獣が持っていたんですか?」
「あぁ、詳しく言えばトオルが隠れていた場所にあったんだがな」
「その場所はどこですか?」
「愛神山には、地下洞窟がある。 その中だ」
愛神山……地下洞窟……
テスト問題コピー作戦の日のことを思い出した。
この話を聞くまで、地下洞窟のことなんてさっぱり忘れてしまっていた。
そういえばそんなこともあったな。
確かシンジュが持ってきた話だったっけ?
団長の口から、地下洞窟という単語が出てきた瞬間、3人と目が合った。
暗黙の了解で、初めて聞いたというリアクションをとっておく。
知ってるのは変だしな。
クロカは初耳なので、良いリアクションをしている。
「で、一体なんて書いてあるんだ?」
「それは……」
次にミサキが言う言葉を、団員全員が固唾を飲んで聞き入った。
”我々ヨ・・人は、竜に戦いを挑んだが敗れた。そしてもはや我々の居場所は無くなった。いつか我々の・・文・を解読できる人種が現れることを切に願う。以下、・宙・の置き場所を記す。
地下深くに船を・・・。・・が自由になる時に使う。
宇・・の上に・獣、グリ・・ンに似た碑を建てた。
・・船を動かすには、4つの・・セ・・ーが必要である。
我々は神を・・・・ない。我々が・・ている・は、・学である。
我々の・・技・が未来を変えることを切に願っている”
「ところどころ消えてしまっていて、解読できないところがあるけれど、だいたいこのようなことが書いてあります」
そう言ってミサキは資料に書いてある記号を文字に書き起こした。
どうやらこの記号は
「ふむ。 よくわからんな」
団長がつぶやく。
解読出来たのはいいけど、なんのことなのかさっぱり分からない。
「お頭、これは俺たちだけではとても解決できそうな案件じゃありません。 もう一度、こいつを見つけた場所に行く必要があるのでは?」
「そのつもりだ。 しかしお前たちも3ヶ月の特訓で疲れてるだろう。 一度カオンに戻って休息をとろう」
団一の切れ者のリュウタロウの提案に乗った団長の一声で、3ヶ月ぶりにカオンへと帰る事になった。
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カオンに戻ると、1週間の休息が与えられた。
俺たち見習いは、家族のもとで過ごす人と、東軍の拠点で過ごす人に分かれた。
久しぶりに家に帰ると、モモエさんが抱きついてきた。
この様子を見るに、かなり心配していたらしい。
俺が帰ってくるなり、お腹が減ってるでしょ?ということで、大好きなオムライスを作ってくれた。
久しぶりにモモエさんの手料理を食べる。
もちろんハナさんの手料理も美味しかったけど、幼い頃から体に染み付いている味付けをした料理は別格に美味しい。
それに、大好物のオムライスともなると格別だ。
ご飯を食べながら、俺はこの3ヶ月のことをいろいろ話した。
東軍に入団したこと。
団員はいい人たちばかりで、続けることができそうなこと。
でも、大人気ない人たちなので、特訓は厳しいこと。
壁の外にはカオンとは比べられないほど、広大な土地が広がっていたこと。
今、剣術の特訓中だということ。
一応、地下洞窟に行くという話は内緒にしておいた。
モモエさんは俺の話をニコニコしながら聞いてくれた。
「そっか。 上手くいってるんだったら安心だわ。 きっとお姉ちゃんも喜んでると思う。 あなたは一族の誇りよ」
当時と変わらず、今でも俺は相当甘えられて育てられている。
何かあるたびに「あなたは天才よ!」「一族の誇りだわ」「きっと町一番の呪力使いになるわね」と、これでもかと持ち上げられる。
モモエさんの姉である俺の母ちゃんも、生きていたらきっとこうやって育ててくれたんだろうな。
とまぁ、そんな感じで育てられたもんだから、俺の鼻はかなり長く伸びていた。
それもあってか、タクミと初めて会った時にショックを受けた。
俺以上に天才がいたのだ。
伸びきっていた俺の鼻は簡単にへし折られた。
「いや、俺よりすごい奴なんてこの世界にはたくさんいるよ」
そうだ、世界は広い。
壁の外に出て、よりそれを実感した。
所詮俺は井の中の蛙。
この世界にはまだまだ俺が知らないことで満ち溢れてる。
「すごい人で言うと……そうそう! 西軍の人たちがこの前、神獣を1匹討伐して帰ってきたわよ。 団長は確か……ワカマルって人だったわ」
「へ?」
ワカマル?……西軍?……クロカが言ってた西部の団長。
「ちょうど一ヶ月前くらいだったかしら? すごいわよね! おかげでカオンは大盛り上がり。 これで神獣も残り5匹。 平和が訪れる日も近いわ」
この話はきっとクロカの元にも届いているだろう。
一体どんな気持ちで彼はこの話を聞くのだろうか。
あの話を聞いていなかったら、俺も素直に喜べただろう。
でも西部の内情を聞いた後では……
「どうしたのムギ? そんな考え事してるような顔をして」
あぁ、俺の悪い癖だ。
すぐ顔に出ちゃう。
「いや、なんでもないよ。 すごいね! そのワカマルって人。 俺もいつか神獣を討伐して平和に貢献できるように強くならなくちゃ」
「できるよ! だって天才だもん」
満面の笑みでモモエさんはそういうと、最後の一口を口に放り込んだ。
神獣か……
一体どんな奴らなんだろう?
神獣は基本的にSランクはあるらしい。
まだ、Dランクの猿猴としか戦ったことがない。
Sランクともなると、どれほどのもんだって言うんだ。
この1週間の休息が終われば、地下洞窟に行く事になる。
団長が言うには、討伐した神獣は地下洞窟に縛り付けているらしい。
なんで?とは思ったけど、どうやらそれなりの理由があるっぽい。
教えてくれなかったけど。
もし、縛りを解いて再び暴れ出したらどうしよう。
Sランク相手にちゃんと戦えるだろうか?
チビらないだろうか?
そう考えると、こうして呑気にオムライスなんて食べてる暇があるのだろうか?
いや、もっと強くならなくちゃ!
休んでる時間がもったいない。
「ごちそうさま!」
いてもたってもいられなくなって、ユウキ先生から貰った木刀を手に庭へと出た。
陽はすっかりと落ち、星が見える。
あの星の名前は確か……アルクトゥールスだったっけ?
そしてあれがスピカ。
もう一つはデネボラだったよな?
見てろよ父ちゃん、母ちゃん。
俺強くなるから!
幸いなことに、月明かりで少し明るい。
これなら呪力で作った分身も見えるだろう。
1ヶ月の特訓で、”
かなり人間の姿に近い。しかも意のままに操ることができる。
こうして休息として与えられていたはずの1週間は、俺と分身とによる特訓へと様変わりした。
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