第十二話 特訓開始

 5匹の猿猴えんこうを見事に25秒で倒した俺は、駆けつけた副団長のユウキさんに連れられて、元いた場所へと向かった。

 強烈な覇気を感じて、一体どんな魔物がいるんだ?と緊張が走ったが、正体は副団長だった。


 俺が戻った頃、すでにタクミは魔物を倒し終えた後らしく、タツマさんと談笑をしていた。


「お、ムギ。 遅かったな」


 俺の姿に気がついたタクミが、こっちを向いて手をあげる。


「また負けちまったよ」


「お前ならもっと早く帰ってくると思ってたのによ。 遊んでたのか?」


 皮肉たっぷりに聞いてくる。

 いや、タクミの事だから本当に遊んでたと思ってるのかも?


「いや、遊んでたっていうか……ちょっと試したい技があったから……それやってたらだいぶタイムロスしたわ」


 言い訳っぽくなってしまうけど、これは本当のことだ。


「ふーん……そうなのか? まっ何はともあれこの勝負、俺の勝ちだな」


 タクミはそう言って、白い歯を見せた。

 なんだかこの余裕そうなタクミを見ていると、俺がタクミに勝つという未来が想像できなくなってくる。

 まぁでも、敵はタクミじゃなくて魔物だからな。私情は一旦置いておこう。



 それから1分ほどで、残りの団員全員が帰ってきた。


「よし、無事に全員猿猴は倒したみたいだな。 これからはそれぞれの特性に沿って、団員とマンツーマンで特訓を行なってもらう」


 団長によると、さっき俺たちが散り散りになって猿猴と戦っている間、こっそりと俺たち一人一人の戦い方を観察していたらしい。


 特性か……


 タクミにはタツマさん、シンジュにはリュウタロウさん、ミサキにはハナさん、クロカにはツヨシマルさん、そして俺には副団長のユウキさんがそれぞれついた。

 

「よし、皆それぞれ団員の言うことはちゃんと聞くように。 陽が落ちる前に再びこの場所に集合な。ーー散」


 団長の掛け声と共に、俺たちはそれぞれ別の場所へと散る。


 俺がユウキさんに連れてこられた場所は、先ほどの場所から20分くらいの場所だった。

 先ほどの開けた場所とは違い、木々が生い茂る見通しの悪い場所だ。


「よし、とりあえずこの辺でいいな。 ムギ、魔物の気配は感じるか」


 ユウキさんにそう言われ、少し目を閉じて周囲を感知する。

 と言っても俺はこの感知タイプの呪力が得意なわけではない。


「いや、何も感じないっすね……」


「ふむ。 やはり感知は苦手か」


「そうですね……」


 やはりってことは苦手ってことがバレてるのか。


「ちゃんと感知出来ていれば、あんな表情でこっちを振り向くはずがないからな。 あの覇気が俺だってわかってなかったんだろ?」


 きっと猿猴を倒した後のことを言っているのだろう。

 確かに感知が得意なシンジュだったら、すぐにあれが魔物ではなくユウキさんだと気がついていたんだろう。

 それにしてもあんな表情って……そんな変な顔してたのか俺。


「まぁ、そう気を落とすな。 誰にだって苦手な分野はある。 大事なのは自分が得意な分野を伸ばすことだ。 そのためにお頭はお前の指導に俺を指名した」


 自分の得意な分野……一体なんだろうか?

 考えたこともなかった。

 

 甘々に育てられた俺である。

 

 なんでもできると言えばできるけど、これと言って誰にも負けない特技があるわけではない。


 100点は出せないけど、なんでも70〜80点くらいは出せる、いわゆる器用貧乏ってやつで、自分が得意なことがいまいち分からない。

 感知は苦手だし、肉弾戦もタクミほど筋肉があるわけじゃない。

 呪力の操作もクロカみたいに分身を作れるほど繊細な操作が出来ない。

 

「俺、特別みんなより優れてる分野ってないんですよね」


 自分で言ってて虚しくなるけど……


 俺の返答に、ユウキさんは腕を組んで黙り込んでしまった。

 気を使わせちゃったのならごめん。

 でもその通りなんだ。

 別に気にしてはないし、なんでもそつなくこなせるのいいことだ。


「さっきの猿猴との戦いを見させてもらったんだが……」


 ユウキさんは変に勿体ぶった口調で話す。

 さっきの俺の戦い方を見て、一体何を感じたんだろう?


「何かいけない戦い方でもしてましたかね?」


 恐る恐る聞いてみる。


「ムギ、お前には剣術の才能がある」


「え? 剣術ですか」


「ああ。 お頭がお前の指導に俺を指名したのだから間違いはない。 なんせ俺はこの国でも随一の剣術使いだからな」


 解散する前の団長の言葉を思い出した。


ーー「これからはそれぞれの特性に沿って、団員とマンツーマンで訓練を行う」ーー


 なるほど、俺の特性は剣術を扱うこと。

 剣術使いのユウキさんが俺の指導にあたるわけか。

 俺以外の新人の特性を聞いてみると、それぞれ次のようだった。


 タクミは肉体強化系呪力に特化。体に呪力を纏うことによって爆発的に身体能力を上げることができる。


 クロカは援護系呪力に特化。5人の中で最も繊細な呪力操作ができ、周辺の物体を変幻自在に操作することができる。


 シンジュは感知系呪力に特化。敵の数や位置情報を感知することに長けている。


 ミサキは医療系呪力に特化。味方の回復や治療を行うことができる。


「お前らの特性はざっとこんな感じだな。 詳しくはマンツーマンの訓練が終わってから個別に聞けばいい。 ほれっ」

 

 ユウキさんはそう言って木刀を渡してきた。


「ってなわけで、今日からお前に剣術を教える」


「はい!」

 

 ユウキさんによると、剣術には大きく分けて神陰流、神道流、念流の3つの流派があるらしい。

 

「猿猴との戦いを見させてもらったわけなんだが、お前には神陰流があってるみたいだな」

 

 神陰流は心技において構えをなくし、攻めと守りを一つにした無形むけいくらいを極意とする流派らしい。

 型に嵌め込まれた剣技ではなく、自由な戦闘スタイルが特徴で、俺の性格的にもあっている。

 確かに猿猴と戦う時、剣をぶん投げたりしてたからな。

 型に嵌め込まれるのは嫌いなのだ。

 

 俺の流派が分かったところで、早速ユウキ先生による特訓が始まった。

 と言っても剣術だけをひたすらやるわけではない。

 サイコキシネスを基礎とした呪力操作の底上げ、タクミと比べるとまだまだ貧相な体を鍛える為の筋トレも行う。


 剣術:6

 呪力:3

 筋トレ:1

  

 この配分で特訓を行うことになった。



 早速剣術の特訓だが、先生自らが対戦相手となった。


「剣術の特訓だから、呪力を使うのは無しな」


「はい」


 木刀を握る手に力を込め、先生へと挑んだ。



 結果から言うと、片手で弄ばれた。

 国随一の剣術使いと言ってはいたけれど、これだけの差があるのか。

 振り抜いた剣はことごとくかわされ、振り抜かれた剣はことごとく俺の体にアザを作った。


「少しは手加減してくださいよ」


「お頭に手は抜くなと言われているからな。 もう気がついてると思うが、俺たち東軍は大人気ない」


「……確かに」


 脳裏に団長とはじめに会った時のことが浮かんだ。

 あの時も、団長ともあろう人が候補生をボコボコにしてたっけな。



 剣術の次は呪力強化の特訓が行われた。


 物体を自由自在に動かすサイコキシネスから、木刀に呪力を纏わせることを主に行なった。


 呪力を纏わせる際、その呪力の練度によって色が変わる。


 呪力は目には見えない。これが普通だ。

 なので愛神山学校まなかみやまがっこうにいた頃は、ほとんどの人が呪力が纏っているのか分からなかった。

 

 しかし呪力強化を行なっていくと、次第に目に見えるようになっていく。

 俺を含めて6人だったっけな?

 そして呪力の練度によってその色は変わる。


 緑→青→黄色→紫→赤・・・


 一応最上級が赤色だと言われているが、そこから更に練度が上がるにつれて黒っぽくなっていくと言われている。

 ちなみに俺は青色だ。

 タクミはいつの間にか紫になっていた。

 負けてたまるか。


 

 最後に筋トレ。

 剣を振るって体力を使い、呪力を扱って体力を失った後の筋トレはかなりキツい。

 だけどこれも強くなるためだ。

 この貧相な体をなんとかしなければ。




 初日の特訓が終わりへとへとになって集合場所へと戻ると、疲れ切ったみんなの顔があった。

 どうやらどのペアもかなりハードな特訓をそれぞれ受けているらしい。

 

 ガメアの集落に戻り、宿に泊まることになった。

 団長によると、3ヶ月間今日のような特訓を行うので、その間カオンには戻らないということだった。

 まじかよ!とも思ったが、強くなるためだから仕方がない。


 体を大きくするためには、まずは何よりも飯が大事だからな!とタクミの先生であるタツマさんに言われたが、筋肉痛でご飯を食べるのにも一苦労だった。


 そんなこんなで特訓初日を終えた。

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