第七話 西軍団長ワカマル

 ここはカオン西部。

 そこは団長ワカマル率いる、幻竜団げいりゅだん西軍の本拠地が建てられている場所である。


 自然に囲まれた東側とは打って変わって、西側には多くの建物が並び、たくさんの人たちが暮らす活気に満ちた地域であった。


 東部ではなかなか手に入らない衣類や、おいしく調理された料理、大所帯でも問題なく暮らせるほどの広さの家や、移動手段の幅広さなど、東部とは真反対の地域だ。


 そのためか、呪力を扱えない種族である”ロピ人”たちが、便利な暮らしをしたい!と、みな西部へと移り住んでいる。


 だがしかし、ここで1番の問題が魔物の存在である。

 魔物も馬鹿ではない。多くの人が集まる西部は、魔物にとっても格好の標的となっていた。


 だからこそ、西部に住むロピ人にとって呪力を扱える幻竜団のワカマルの存在は、魔物撃退の部分において居なくてはならない存在となっていた。


「今日も西部を魔物から守ってくださってありがとうございます」


 期首壁ビギニンウォールへと向かうワカマルに対して、深々と頭を下げるのは1人のロピ人とその家族である。


「これ、少ないですけど……今月の分です」


 そう言って男はワカマルへと金品を差し出す。

 それがきっかけであったかのように、大勢のロピ人が彼のもとへと集まり、金品を差し出していった。

 ワカマルは集まった金品を袋へと詰め、4人の団員がそれを拠点へと運んでいった。


 ワカマルはその姿を見届けると、期首壁ビギニンウォールへと足を進める。


 そんな彼の姿を道端から眺めるロピ人は、目の前を歩くワカマルがまるで実在する神であるかのように崇め、讃えていた。


 その証拠に西部の至る所に、ワカマルの似顔絵らしき旗が掲げられている。中には、毎日同じ時間に旗に向かってお祈りをしている人もいるほどだ。



 ワカマル率いる幻竜団西軍がいなければ、とっくの昔にこの地域は魔物が支配していたであろう。

 守ってくれる代わりに、ワカマルに金品を献上することが西部のルールである。


 そうして今日も、カオン西部の安全は保証されていた。



------



 我が軍こそが7匹の神獣を撃ち倒し、この世界に平和をもたらすものである。

 だが、そんなことは西軍団長ワカマルの野望を達成する為の手段の一つに過ぎない。


「おい、この世界のトップは誰が相応しいと思う?」


 ワカマルは団員の1人に尋ねる。


「もちろんワカマル様でございます」


 ワカマルに跪き、団員の男がそう答える。

 そう。ワカマルの狙いはただ一つ。幻竜団統括、セイメイの地位である。


 幻竜団統括こそ、世界の王。

 俺は王になりたい。

 その為に幻竜団に入った。

 西部の人たちからの信用はもう十分溜まったであろう。


 次はこの都市全域の信用を勝ち取らなければ。


 その為には己の実力をカオンの人々に示さなければならない。


 1番分かりやすく実力を示すには神獣の撃退が1番だろう。

 みなが神獣の存在を恐れているし、幻竜団の神獣撃退をいち早く望んでいる。

 

 どの軍にも、先を越される訳にはいかない。

 俺が奴らを仕留めて、名声を手に入れるのだ。


 フフフフフフ……


 自分が王になっている姿を想像したら笑みが溢れてきた。

 

 フードで顔を隠しておいてよかった。

 歩きながらニヤついているなんてことがバレたら気持ちが悪いだろう。


 俺は今後王になる男だ。王はいつだって威厳を見せておかないと。舐められたら困るのだ。


 


 先頭を歩くワカマルの後ろを、列をなして歩く団員たち。


 少数精鋭の東軍に対して、ワカマル率いる西軍は圧倒的規模の団員を誇っていた。

 

 期首壁ビギニンウォールの前でワカマルは団員へと振り返る。


「西軍のみな聞け! これから壁の外に出て、魔物討伐へと向かう。 どの軍にも先を越されるな」


「ワーカマル! ワーカマル!」


 団員達からのワカマルコールに応えるかのように持っている剣を天へと掲げ、男は不敵な笑みを浮かべた。


 いいぞいいぞ。これだけの数が俺の味方をしてくれているのであれば、俺が王になる日も近いな。

 おまけに西部のロピ人たちも、俺のことを神として崇め始めている。


 全ては計画通りだ。


 ただ、ワカマルには一つ懸念点があった。

 それは東軍団長ホウゲンの存在である。

 同時期に団長へと昇進した彼は、野望を達成するにあたって邪魔な存在である。


 若くして団長に昇格し、あまり認めたくはないけど実力も申し分ない。

 それに聞く分には少数精鋭でかなり優秀な団員を従えているらしい。

 つい先日も、優秀な新人を5人も東軍に取られた。


 どうにかしてホウゲンを引きずり落とす策はないだろうか。

 ワカマルは、歓声に沸く団員を眺めながらそんなことを考えていた。


 そんなワカマルの横に副団長であるヨウスケが駆け寄り、何やら耳打ちをした。

 ワカマルはヨウスケの言葉に少し微笑むと、男に何かを告げた。 

 ワカマルの言葉に軽く頷くと、ヨウスケはその場で姿を消した。


 ワカマルは改めて団員たちの方へと顔を上げると、深く被っていたマントのフードを下ろした。

 特徴的な長い金色の髪が風で靡く。女性団員たちの黄色い声援がより一層大きくなった。


「いざ出陣!」


 ワカマルの声に、団員たちの歓声がより大きくなり、地響きのようにそれはカオン西部全域へと伝わる。


 西軍が出陣する際は、西部全域では地震の観測がされるとかされないとかーー

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