第六話 おもてなし
団長に案内してもらった建物は、木材でできた大きな建物だった。
「先に言っておくが、東軍は少数精鋭だからな。 まぁその分1人1人の実力は申し分ない」
団長はそれだけ言って扉を開けた。
中に入ると、5人の団員が鍋を囲って一杯ひっかけている。
そのうちの1人、長髪の男が俺たちに気がついた。
「お頭、もうお先に一杯やっちゃってますよ。 あ、君たちが新入りか? ほら、こっちに座れ」
男に言われた通りに座る。
クロカはまだ寝ているので、その辺にそっと寝かせておくことに。
それにしても少数精鋭だからって団員少なすぎないか?大丈夫かこれ?
「お頭、今年の合格生は5人ですかい」
「あぁ、なかなか豊作だろ? 1人ずつ紹介してやろう」
団長は俺たちを団員たちに紹介し始めた。
団員たちは随分と酒が入っているらしく、1人紹介するたびに、大きな拍手と歓声が湧き起こる。
中には指笛を吹いている団員もいる。
想像していた
かなり愉快な軍に所属することになった。
「お頭、 そこで寝てるやつは?」
「そいつはクロカだ。 入団テストで呪力を使いすぎたらしくてな。 気絶してずっと寝てる。 張り切ってちょっと無理したんかなぁ」
「またまたぁ、お頭が厳しくし過ぎたんじゃないですか〜?」
「黙らんかい! それよりお前は早よ髪切れっ」
団員とイチャイチャしている団長は、タイマン張ってた時の印象とは180度違う。
こう見るとただの近所の若い兄ちゃんだ。
タイマンの時に見せた圧倒的な覇気は微塵も感じられない。
メリハリがちゃんとしている感じ、タクミと団長ってかなり似てる気がする。
「じゃあ次は東軍の団員の紹介をする」
そう言って団員の紹介を始めた。
まず1人目、団長とイチャイチャしていた長髪の男はユウキというらしい。この軍で副団長をしていて、ヘラヘラしているけれどかなりの実力者。団長の右腕として頑張ってるっぽい。
2人目、ふっくらした体型の男、ツヨシマル。見た目通りかなりの大食いらしく、酒もめっちゃ飲むらしい。軍のマスコットキャラクターとしてみんなに可愛がられている。ツヨシマルの腹を撫でるのが、この軍のゲン担ぎになっているらしく、出撃する前はみんなで腹を撫でるみたいだ。
3人目、筋骨隆々の男、タツマ。肉弾戦を得意としていて、東軍イチの怪力の持ち主。四六時中筋トレをしているらしい。言われてみれば、いち早く飯を食べ終えて腕立て伏せをしている。
4人目、唯一の女性、ハナ。サポート系の呪力に精通しているらしく、戦いでは目立ちはしないがいないと困る、縁の下の力持ちらしい。かなりの美人だ。妖艶な雰囲気を醸し出している。シンジュやミサキにはない色気があり、大人の女性といった感じだ。
5人目、メガネの男、リュウタロウ。かなりの切れ者らしく、軍の頭脳と呼ばれている。クールな性格で、感情を表に出さないらしい。団員でもいまだに何を考えているのかわからないと言っていた。
団員全員の紹介が終わったところで、俺たちもご飯を食べることになった。机の上には鍋が置かれている。
「今日は疲れただろう。 今日は入団祝いだからたらふく食べてくれ」
団長はそう言っているが、目の前の鍋の中身はほとんどカラと言っても過言ではない。ツヨシマルがほとんど食べてしまってるっぽい。
「いや……全然食べ物残ってないけど……」
これに黙っていないのがタクミだ。
まだ新人だから遠慮するという考えなんて微塵もないらしく、鍋の中身がほぼカラということを指摘した。
いいぞタクミ。俺たちは腹が減っている。
団長は少しきょとんとした顔を見せた後、鍋の中を確認する。
「あぁすまんな。 ハナ、まだ鍋の具材は残ってるか? こいつらのために追加で作ってやってくれ」
ハナさんは団長のお願いに軽く会釈をすると、キッチンに立った。
大丈夫か?初日からなかなかのグダグダ具合だが……
それにしても……長く伸びた髪の毛を1つにまとめてキッチンに立ってる女性の後ろ姿……いい!
鼻の下を伸ばしていると、横からものすごい視線を感じた。
えっと……俺の横に座ってるのはシンジュだったよな?
なんでこんな殺気立ってんの?
新しい鍋は15分ほどで出来上がった。
美味しそうな匂いに湯気。
それに加えて女性が作ってくれたという事実が上乗せされ、さらに食欲をそそる。
鍋は食べ盛りの俺たちによって一瞬のうちに無くなった。
ハナさんも、俺たちを気遣ってかなりの量を作ってくれてたみたいだけど……
タクミはまだ全然食べ足りないらしく、どこから持ってきたのか、でかい肉をツヨシマルと一緒に仲良く食べている。
シンジュとミサキはハナさんと一緒に女子会を開いていた。
今まで女性1人だったハナさんは、女子が2人も入ってきたのが嬉しいのか、かなり笑顔だ。
無邪気に笑う姿も良いな……可愛い!
クロカは相変わらずスヤスヤと眠っている。もう鍋は無いけど、気絶するのが悪い。
話したこともないし、どんなやつかイマイチ分かってないけど、気絶するのが悪い。
もう食べるものは残ってない。
そう全部クロカが悪いのだ。
クロカの分を残していなかった俺たちは何も悪くない。
張り切りすぎて気絶するのが悪いのだ。
腹を満たした後、特にやることがなかったので、部屋の中を散策することにした。
みんなで鍋を囲んだ部屋の他に4つの部屋がある。
そのうち一部屋だけ、明かりが微かに漏れている部屋があった。
俺たち以外にも誰かいるのか?
近づいてみると、中から微かに声が聞こえてきた。
好奇心に負けて、耳を扉に当てて中の声を聞いてみる。
「パパが居なくてもいい子にちてまちたか〜? 相変わらず可愛いでちゅね〜。 ほら、ねんねしようね」
中を見なくても、声を聞いただけで誰だか分かった。
それと同時に全身に鳥肌が立つ。
そういえば、飯の途中から姿を見ていなかった。
なんだか聞いてはいけないものを聞いてしまった気がする。
ってか、あの感じで子供にデレデレなんですか……団長!!
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