第四話 守るものたち

 ここはカオン中央に位置する政府機関、「太府たいふ


 竜の塔、蛇の塔、獣の塔の3つの塔からなる建物で、真ん中に位置する竜の塔は高さは172.5メートルにもなる。

 地下一階には図書館が広がっており、国家機密事項が厳重に警備されている。


 太府の構造材は石。 

 外壁には炎を模った壁画が描かれており、竜の塔の頂には、絶えず炎が燃えている。


 今年の「幻竜団げいりゅだん」候補生を選別する筆記テストが行われた日の夜、東軍団長ホウゲン、西軍団長ワカマル、北軍団長ドウマンら、各団長たちが、竜の塔の最上階の部屋に集まっていた。


 部屋の中は四隅の松明の炎によって灯され、真ん中の円形の机を囲むように4つの椅子が置かれている。

 壁には竜の彫刻が彫られており、入り口の正面には幻竜団の象徴とも言える赤い掛け軸3つに、それぞれ竜、蛇、獣の絵が描かれている。


「今年の候補生の出来はどうだった? 目を引くような出来の生徒はいたかね?」


 幻竜団全軍団長セイメイが、自慢の長く伸ばした真っ白な顎鬚を触りながら、ホウゲンに問いかけた。


「そうですねぇ……筆記テストで満点を叩き出している生徒が2人いますよセイメイ様」


 ホウゲンは手に持っていた生徒の資料をセイメイの前に置いた。


「ほう。 それは楽しみじゃの。 最近魔物の動きも活発化してきておる。 優秀な候補生がいるのは朗報じゃ」


 セイメイはホウゲンからの報告にご満悦そうな顔をみせ、資料を手に取った。

 それを両脇からワカマル、ドウマンが覗き込むように見る。


「獅子タクミ、尾星ミサキか。 セイメイ様、こいつらの指導はこの俺様に任せてくれませんかね?」


 そう言ったのはワカマルである。

 ホウゲンと同時期に団長に昇進した彼は、ホウゲンに対して異常なほどのライバル心を持つ。


「ふむ。 意気込みはいいが、今のところ東軍の団に所属させようと思っておる。 ホウゲンええか?」


「かしこまりました」


「ちっ。 なんでこんなやつに……」


 セイメイの意見に納得いっていないのか、ワカマルはずいぶん面白くなさそうである。


「ん? この尾星ミサキって、図書館司書のアカネさんの娘さんじゃありませんか? へぇ、親の仕事を継がずに幻竜団げいりゅだんに入るんですね」


 ワカマルの横で資料をじっと見ていたドウマンが、特徴的な緑色のメガネの真ん中を、人差し指でクイクイ上げながら言った。


「なるほどアカネさんの娘さんか。 それなら満点なのも納得じゃの。 じゃあこのタクミって何者じゃ? ナルザキは何か言っておったのか?」


「いやこのタクミって生徒、実技テストは好成績で有名だったんですけど、筆記の方は絶望的って聞いてたんですけどね」


 カオンでもタクミはある程度噂になっていた。

 今年の候補生の中にとんでもなく呪力の扱いが上手い生徒がいる。

 そいつが幻竜団に所属すればカオンもしばらく安泰だな。

 そう言った期待の声が町の人たちの中で話題になっていたのは、ホウゲンも知っていた。

 それと同時に筆記授業担当のナルザキからは、今年の候補生の中にめちゃくちゃ馬鹿がいるとも聞いていた。

 もちろんタクミのことだ。


 筆記テストの試験官になっていたホウゲンは、テスト中タクミの様子を随時見ていたのだが、最初から最後まで寝ていた印象しかなかった。

 なのでタクミの答案用紙を見て驚いた。


 まさか、満点とは……


 まぁあれだけ期待されていた生徒なので、無事に合格してくれたのは、我々にとっても一安心といったところか。


「まぁええ。 呪力の歴史と禁止事項を知ることは、幻竜団になるにあたって最も大事なことじゃ。 もちろんこのカオン……いや、世界にとってもな」


 セイメイは満足そうにそういうと、資料を机に戻し、コーヒーを一口すすった。


「このタクミとミサキ以外で、優秀そうな生徒はいないのですかね?」


 ドウマンが尋ねてきたので、ホウゲンは資料を手に取った。


「さっきの2人が候補生の中でも頭一つ抜けていますが、その他にも数名見込みがありそうな生徒がいますよ」


 まず1人目が星崎ムギである。

 実技テスト筆記テスト共に匠に次ぐ高得点を叩き出しており、バランスがいい。

 例年であれば間違いなくぶっちぎりの成績だっただろう。

 欠点らしい欠点がなく隙がない。

 懸念点があるとすれば、これといった得意分野がないところだろうか。


 2人目が村星シンジュだ。

 筆記テストは平均並みであったが、「絶対空間エンペラールーム」の呪力テストでタクミを抑えて学年トップの成績を残している。

 幻竜団にとってはこの、「絶対空間エンペラールーム」の呪力は非常に重宝する力なので、将来有望な生徒の1人だ。

 それより何より、この女子生徒は可愛い。そこも点数は高い。


 と、まぁ目を見張る生徒はこの4人だが、他にも夜月やづきクロカや、薬師寺マコトなどといった優秀な生徒はいた。


 今年の候補生は例年に比べてかなり豊作であった。


「いくら実力があっても所詮はまだ外に出たことがない子供。 実践経験がなければと同じじゃ。 最低でも1年は君たち3人が指導することになる」


 実際に魔物と戦ったことがない新人は、最低1年間は団長3人に指導を受けることになるのが通例であった。


「今年の合格生は30人じゃから、1人10人の新人を教育してもらうことになる。 軍分けはわしがしておく」


 セイメイはそう言って椅子から立ち上がり、部屋にあった4つの松明の炎を消して姿を消した。

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