第45話 ■ TRUE LOVE ■ ―Last Chapter―
ゲートの先はヒースの人工森だった。
時間は、私達がアカシアと戦った時間の少しあとにしたと、ダミアンは言っていた。
ちょうどいい時間帯チョイスしてくれたかも。
ちょっとした時間旅行だったなぁ。
ゲートは私達専用だ、とダミアンが鍵をくれた。
『絶対圏』を使いたい時などにどうぞ、と。
わかってるな、ダミアン。良い仕事する! それ超便利!!
私はジャスミンの事件を含めて、心身ともに疲労を感じて、しばらく学校を休ませてもらい、その間、ヒースで過ごした。
私がヒースにいる間、アドルフさんは魂の欠損を補い、本当の意味で、ブラウニーとは別人になった。
とはいえ、私達の優しいお父さんは何も変わらない。
アドルフさんはそれにより、『絶対圏』の接続は完全に行えなくなったけれど、人間としての寿命を得た。ブラウニーも、髪色が徐々に本来の色を取り戻していった。
なお、異界の事件以降、『絶対圏』を使用することはほぼなくなった。思っていた通り、私達はやっと普通の生活を手に入れたようだ。
壊した観測所の職員も、王宮でブラウニーを見た騎士たちも皇太子殿下も、全て記憶を失っていたため、お兄様に本当のことを話して、魔王がやったと噂を流してもらった……。
必要悪! 必要悪だよ!
役にたつね! 魔王! ありがと!!
リンデンは呆れた顔してたけれど、フリージア様の件でブラウニーに恩義を感じていたようで、言いたいことを飲み込んでいた。
「有り難いけどもう二度とこんなことはしないでよ!?」
「わかってるよ、義兄さん」
笑顔で答えるブラウニー。
それを見ていたアドルフさんが言う。
「それは信用できない笑顔だな……」
その後、学園生活が再び始まると……。
「皇太子殿下が……うざい」
皇太子殿下の神性を奪って以来、ブラウニーのほうが皇太子殿下に懐かれてしまい、将来の側近に誘われてはうんざりしていた。
最終的には生徒会に入れられて勉強に専念したいブラウニーには負担だったけれど、生徒会には将来的に会社の取引相手になるかもしれない将来の商売相手がいるかもしれないとの事で、渋々その仕事を請け負っていた。
でも、やり始めると楽しそうではあった。良かった。
そんな事もあって、殿下への私への興味は段々と薄れ、一年後くらいに外交で行った先で、エルフの女性と婚約された。
230歳差らしい。すごい年上女房だ。
次の世代の王位継承権はハーフエルフが入るのか……。
また、学院では相変わらず私へ求婚する人が多かったけれど、ブラウニーが皇太子殿下に気に入られたせいで舐められなくなったのか、私達のラブラブっぷりが認知されたのか、その数も徐々に減っていった。
まあ、うかうかしてると、婚約者が周りはどんどん決まっていっちゃうものね。
いつまでも私狙いはやってられないでしょう。
なお、チェスとオリビアが気がついたら婚約してた。
おめでとう☆
リンデンお兄様とフリージア……お姉様は、15歳になると同時にご結婚された。
すでに、お姉様が第一子を身ごもっていらっしゃり、私は若くして叔母さんになった。
法律違反だけど捕まらなかったね!お兄様!
まあ、王位継承権3位にそんなことで文句は世間も言えませんよね。
それにしても、レインツリーの教会でもたまに面倒見てたけど、やっぱり赤ちゃんは可愛い。
そしてママまで身ごもられて、なんと弟ができた。
キャー。血は繋がってないけど弟できたうーれしー!
しかしちょっと、理不尽だったのが。
「プラム……ちょっと聞きたいんだけど、就寝時間に範囲で回復を屋敷中にかけてる?」
「うん、みんなが次の日に疲れを残さないように、と思って!」
褒めてー! と思ってたら
「プラム……。ちょっとそれは……やめよう。せめて土日だけに」
とお兄様に苦情を言われた。
どうしてよ!!
「そうだな、ちょっと逆に寝不足になるというか」
ええ! パパまで!
「あ……寝不足になっちゃうなら…。わかりました……」
そうか、夜に元気になっちゃうと、夜更かししちゃうかもね。
逆効果だったかー。
ブラウニーにこの事を話したら。
「……将来、ヒースに帰ってきてもそれはやるなよ」
と言われた。
なんでよ!?
「寝静まった後ならいい」
そっか。じゃあそうするか……ちょっと理不尽だけど皆がそういう反応なら仕方ない。
そしてギンコはなんとヒースに居着いてしまった。
「住んでもいいだろうか」
と人工森に小さな小屋をたてた。
これは、アドルフさんに懐いたな、ギンコ……。
錬金術師嫌ってたのになぁ。
アドルフさんのダンジョン仕事なんかについていくようになって、アドルフさんも特に気にした様子もなく、じゃあ一緒に行くか~みたいなノリで、二人で出かけることが度々増えた。
会社を立ち上げてからも、その関係はかわらず、アドルフさんが忙しい時は一人でどこかへフラッと旅にでては、ヒースへ戻ってきていた。
ちなみにギンコの番(つがい)は見つかった。
すこし遠い未来だったけど。
ブラウニーとヴァレン(一番上の長男)が少し怖い顔になりましたが、私達の娘のアルメリア(長女)がそうだった。
なんてこと。
ギンコの番(つがい)だったアルメリアは髪が桃色で私にクリソツだった。
多分この子も分霊なんだろうなぁ。
え? 子供? 何人かは産みましたよ。
私ほら、自動回復あるから回転率いいもので……(照)
その中にはやはり、桃髪はいた。
分霊って増えるんだなぁ。
子供達はアドルフさんにめちゃくちゃ懐いていた。わかる。
アドルフさんの仕事部屋は一時期子供たちがたむろしていた。(ギンコ含む)
アドルフさんは特に気にした様子もなく、ねえねえ、遊んでよーとまとわりつかれながら、仕事する毎日だった。
そうそう。18歳になるころ、むかーし出した手紙の返信がココリーネから来た。
「攻略して改心させたからオレの下僕ざまあwwww」
って書いてあった。
ちなみにレターは少し涙の跡があった。
何があった。
焚き火にした。
それと余談。
役所にはユニコーンがVIP待遇で配属されました。
どこから連れてきたんだ。
そんなもの存在してたんですね! この世界!
なんでも、聖属性の女性が経験済みですって嘘つくことが増えたらしいので嘘発見器として国が契約したとか。
その後、聖女に関しては法律改正が行われ、聖属性の女性に対する自由が守られるようになった。けれど、このユニコーン配属は我が家にはとても迷惑な話しだった。
何故なら我が家にやたら入り浸るようになったからだ。
「この害獣が……」
ブラウニーやヴァレンがヤツが来るたびにストレスを抱えて顔が怖くなってました。
娘達にやたらすり寄ってくるけれど通報も出来ないため大変うざかったです、はい。
そのなか、アドルフさんだけは、ヤツの角狙いで目を輝かせてましたが。お父さん……!
そんなふうに、ハプニングはありつつも、普通の生活を送れたのだけれど。
……たまにふと思う。そういえば天空神は生まれなかったし、魔王もいなくなったようなものだし。
この世界は一体どういう方向に今舵をきっているのだろう、と。
アカシアはいなくなってしまったし、もうそれを教えてくれる人はいない。
私がいるだけで、地母神には世界の情報は送られてるって言ってたから、そのシステムは生きているのだろうけど。
ブラウニーにアカシアの話ししたら怒るかなーって思いつつも少し話ししたら、こう言われた。
「アカシアが主神になったんだろう。地母神の相手が主神なんだから」
と特に怒るでもなく。
普通に答えてくれた。
ブラウニーももう、アカシアのことは吹っ切っているんだね。
そして、遠い未来に。
ある日突然、大きな大樹が中心にはえた大陸が突如出現したとかいう事件があった。
その日から聖書に新たな章が書き加えられる作業が世界で始まった。
アカシア、……いつかは、私の幸せを祈ってくれてありがとう。
だから私もあなたの幸せを祈るね。
どうか、プランティア様とお幸せに。
私はヒースの空にそう、祈った。
※※※ ※※※
――遡って。
そんな幸せの日々が待っているとは想像していない15歳。
学院卒業パーティの日。
私はブラウニーとパーティを抜け出して、学院の噴水前のベンチに腰掛けていた。
もちろん、断罪イベントなどは起きなかった。
平和っていいわ!
「挨拶はもう全部終わったから帰ってもいいよね」
「そうだな」
「ヒース寄っていくね。そのつもりで馬車は帰ってもらったから」
「みっ」
マロが出番? って感じでブラウニーの肩に乗っかる。
私は指先でマロの頭をなでた。
「うん、お願いね」
ちなみに卒業パーティといっても、15歳で卒業する人もいるけど、18歳まで学院に残る人たちもいる。
リンデンお兄様は18歳までは通うらしい。
私はとうとう、リーブス家の養子契約が今年いっぱいで終わる。
学校もちゃんと勉強して卒業となったし、やっと。
やっとヒースに帰れる。
私は明日からヒースに帰る準備をはじめる。
甥っ子や弟が可愛くて離れるのが辛いけど。
そしてブラウニーは、アドルフさんといよいよ会社を立ち上げる段階に入る。
私ももちろん、会社を手伝う。忙しくなりそう。
ブラウニーは15歳になって、アドルフさんには少し届かないけれどずいぶん背が高くなった。
彼も私も、あの日……時を進めたあの日とほぼ同じように成長した。
ブラウニーはアドルフさんを見るに、もう少し背は伸びるかもしれない。
私はまあ、背はあまり伸びなかった。
まあ、チビってわけじゃないからいいか。
髪は伸ばしておくことにした。
なんとなく、ブラウニーが長いほうが好きそうだったし、なんだかんだ公爵令嬢なので長い髪が必要だった。
月明かりの下、ブラウニーが私の手を取った。
「プラム、言う事があるんだ」
「なに?」
手の甲にキスをして。
「――オレと、結婚してほしい」
………。
今更だけど、私はカーッと赤面した。
その言葉も然り、月の逆光を浴びた彼が素敵すぎて心臓が早くなった。
「うん、うん?……うん、もちろん!」
「微妙な返事だな? まあ、嫌だと言っても結婚するけどな」
「それも大概な言い方だよ!?」
ブラウニーは笑った。
「はは、台無しだな」
「ホントに。……でも、嬉しい、ありがとう。本当だよ。
最近では当たり前に一緒にいられるようになってたから、こういった節目が来るのがなんだかとっても不思議に感じられて、嬉しいんだけど、現実なのかなって」
「まあ、それはわかる」
「でも、またブラウニーがさっきより好きになった。いつか結婚式の日が来たら、きっともっと好きになると思う」
私は微笑んだ。
「……」
「ブラウニー?」
ブラウニーが照れて、目を逸した。
最近ではあまり照れる事も減ってたから、珍しい。
ブラウニー、多分緊張してたんだなってなんとなく感じた。
「やだ、ブラウニー。こっち見てよ」
私は彼の頬にキスした。
「む……、ごめん。そうだ、これ」
そういうとブラウニーは小さな箱を取り出した。
「これ、オレの手作りであまり上手にできてないかもしれないけど」
婚約指輪はしてるから、なんだろ??
ーー箱を開けて見ると。
「なつかしい……」
それは、11歳の頃にもらった四葉のクローバーの髪留めとほぼ同じものだった。
少しデザインが大人向けになっている。
前にもらったものはずっと付けていたら壊れてしまって、宝物入れに入れてある。
「嬉しい、ありがとう。これね……今までもらったプレゼントの中で一番好きなの。一番思い出が詰まってて……。
今も持ってるんだよ、ちゃんと。壊れて持ち歩けなくなっちゃったけど。……やだな、私なにも用意してないよ」
「そんなのいいんだよ。……喜んでもらえたよかった」
「最近ブラウニー、とても忙しいのにちゃんと私の事を考えてくれていたんだね。私はそれがとても嬉しい」
私はそっとブラウニーに寄り添った。
「いや、最近本当に時間が取れなくて……。学院でも結局、生徒会とで忙しくなってしまって、バタバタした学院生活で、お前を一人にさせることあってごめん。それなのに、またしばらく、会社の立ち上げでまた忙しくなるから、あまりゆっくりした生活はできないかもしれないけど。よければ傍で一緒に……今度こそ一緒に暮らしたい」
皇太子殿下に気に入られてから、大変だったもんね。私は苦笑した。
現在進行系で懐かれ中だ。
ブラウニーにしてみたら、私から離れるなら自分が執着されるほうがマシ、と我慢してるようだ。
「なんか可笑しいか?」
そういって優しく笑うと、ぎゅっと肩を抱いてくれる。
「ううん、なんでもないよ」
安心する。
やっぱりブラウニーの傍が一番いい。
「ブラウニー、私ね、とても嬉しい。ずっと一緒にいるっていう……私達が望んでた生活がやっとできるんだね。……短いようで、とても長かった憧れていた未来に今いるんだね」
私はブラウニーの手を取った。
「……ずっと、一緒にいてくれてありがとう。何があっても一緒にいるって、ブラウニーはずっと約束を守ってくれてた。これからも勿論いてくれるんだろうけど。
この節目に、一度お礼を言わせてほしいの。……ありがとう」
私は、まっすぐブラウニーを見つめて微笑んだ。
ブラウニーは少し照れたけど、ほほえみ返してくれた。
「……オレ、頑張っただろ?」
「うん、とっても」
「オレは攻略対象ではないし、そんな資格は必要ないって思ってたけれど、お前を思う気持ちだけは絶対に曲げないし、誰にも譲らないって、それだけはずっと……強く思ってた。お前はよく、オレのことを優秀だと褒めてくれるけれど、オレは……本当にその意志だけで生きてた」
「うん」
「でもそれは、お前がオレのことをずっと好きでいてくれたからだ。
だからオレも頑張れる。それはこれからも変わらない」
――プラム、ずっと愛してる。
月明かりの中。
私達は人間という短い生の中で。――永久の約束をする。
いつかお互いがいなくなる日が来ても。
誰も私達を憶えていなくなっても。
全ての世界の記録が消えたとしても。
いま、この瞬間の約束が存在した事は、失くならない事実。
それはきっと永遠で――真実の愛と言えるのではないだろうか。
いつまでも愛してる。ブラウニー。
『 そのヒロインが選んだのはモブでした。』 ■ FIN ■
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