第38話 ■ Akashic Records ■


「ほら、入れ」

 重たそうな両開きの扉を、片手で魔王が無造作に開いた。


「薄暗い部屋ですね。私、明るい部屋が好きなんですけど」

「……薄暗い? ……ああ。お前たちは明かりがないと周囲がよく見えないのだったな。いいだろう」


 パチン、と長い爪の指を鳴らした。

 部屋が少し明るくなった。


 部屋の中は趣味が良いとは言えない装飾品だらけ。

 また、美術館のように、ガラスの戸棚に様々な品物が並べられている。

 入り切らないものが床などに無造作に置かれている。

 包まれてはいるけど、ちゃんと陳列してから次のコレクションを入手されては!?


「ちょっと片付けたほうが良いんじゃないでしょうか? 断捨離オススメですよ? 私、掃除しましょうか? だから代わりにアドルフさん返してください」


「フン、残念ながら掃除は間に合っているな。あとアイツには聞きたい事があるからな、安心しろ。少なくとも、それを聞くまでは殺さない」


 聞きたいこと…さっきの賢者の石ってやつのことかな……だけども!


「結局殺す予定にしてるじゃない! 殺さないで!」


「そいつぁ、また取引だな。だが、まだ取引する時ではない……。さあ好きな所へ座れ」


 部屋には真っ黒なローソファーが置いてあった。

 薄暗かっただけじゃなくて、色々黒いわ、部屋の中。……気が滅入る。

 私はソファーに腰掛けた……。


「!?」


 もふぁーっとソファーに沈んだ。


「このソファーふっか!」

「ハハハ、いいだろう」

「上等かもしれないけど逆に座りにくいよ!?」


 そして魔王が横に座ってきた。


「わ!」


 もふぁー……っと、魔王のほうに倒れた。

 私は顔面から魔王の脇腹のあたりに突っ込んだ。


「もふぁっ!? 鼻が! ちょっと! 横に座ったらバランス崩すでしょ?」

「はっはっは! 威勢がいいな、チビっ娘。おいおい、地母神もこんなのになりつつあるのか?世界の明暗が暗しかないなァ」


 ……この、感覚。

 私は皇太子殿下を思い出した。

 遊ぼうとしてる! 私で遊ぼうとしている! こいつ!!

 その手には乗るものか。私は意を正した。


「んんっ! で、お茶するんでしょう。お茶だしなさいよ」

「ああ、そうだったな」


 魔王が手をパンパン、とすると、黒くてビラビラとレースのついたのミニスカート、ふりふりのエプロン姿の魔族のメイドがカラカラとワゴンを押して、お茶菓子を運んできた。


 侍女っていうかメイドって呼びたい。うん。


 てかね。私は唖然としたよ。

 そのスカート丈、インナーが見えそうですよ!!


「お待たせ致しました、ご主人様」

「お前も着るか?」

 魔王がメイドを指差す。

「いらない!!」


 そんな服を着たところ、ブラウニーに見られたらお嫁にいけない、もといお嫁に貰ってもらえなくなるわ!!


「で、話題はなんですか」

 メイドさんがグラスにプン、とアルコールの香りがする液体を注ぐ。


「そうだな、お前の話をまず聞かせろ」

「……それお茶じゃなくてお酒じゃないです?」

「お前も呑むか?」

「未成年ですので」

「つまんねぇガキだな。おい」


「初めて言われた!! 失礼な! ……私の事って何話せばいいんですか。神様の世界のことだったら、アカシアって詳しそうなのがいるのでそっちに聞いて下さい。どこにいるかは知らないけど」

「アカシアか。オレも知り合いだ。だいたい神の世界の話などくだらん、お前個人の話をしろ」


 私個人の話……?

 ブラウニーの事しか出てこないよ?


「レインツリーってとこで教会に捨てられて。

そこで一緒に育った彼とラブラブです。

もうすぐ結婚します。終わり」


「……3行とは恐れ入った。少し人生を簡略化しすぎではないのか」

 3行ってなんだ。前に誰かと似たような会話した気するけど。


「私の人生イコール彼なので。……私の人生は単純明快、ブラウニーに始まりブラウニーに終わるのよ」

「そうか。あれだけ必死に守ろうとしていたさっきのアドルフという男はその人生の3行に入っておらんようだが。じゃあ殺しても構わないな?」


 ああっ!?


「いや! アドルフさんもとっても大事!! 殺さないで!!」

「ふん、お前はもう少し賢くなれ。地母神に影響がでる」


 人を馬鹿にして!! ……ん?地母神に影響?


「はい?」

「お前の行動や経験を経て得た考え方は、地母神の性格の形成や神が完成した後の世界の行く末に影響を与える。分霊もこの先増えるかもしれんが、今はお前一人だ。責任重大だぞ」


えっ。

分霊の役割ってそういうのもあるの?

攻略対象選ぶだけじゃないんだ、へー。

じゃあつまり!


「それってそのうち世界がブラウニーで溢れるってことですか。良いでしょう、私の人生間違ってなかった。このまま突っ走ります」


「オレは地母神を殺したい衝動を持っているが、お前がそれでは全世界からオレが正当化されてしまうだろう。その考えは改めろ」


「魔王を肯定して、ブラウニーを否定する世界など滅びればいい」

「……これでは、オレは世界を救ってしまうな。やはり堕落させるか」


 眉間に皺を寄せて、ハア、とため息を突かれた。


 何が悪い……。


 しかし、地上にブラウニーが溢れたら、私が抱えきれないブラウニーを、誰かにブラウニーを盗られてしまうな……。

 ブラウニーは一人も欠片も渡したくない。

 それはよくない、やはりもう少し控えめにしなくては。


「ところで地母神が堕落したらどうなるの」

「世界は残るが朽ちるだろうな。そして異界と人間界が混ざり合う世界だ……そして人間は滅ぶだろう。楽しみだ」

「堕落って具体的にはどうなるの?」


 働かないで寝てるだけとかそういう……?


「知りたいか……?」

 魔王がソファーに手をついて私の方に身を乗り出し、私を倒してソファーに埋めた。あ、これ駄目なやつ。ペケ方面だ!


「未成年なんで冗談でもやめてください。第一、そんな世界にするくらいならこの世界を私とブラウニーの愛の巣にしてやる……」

 どうやればそうなるのかは知らんけど。


「呆れたガキだ、本気で言ってるな……。せめて、もう少しおしとやかにしろ。オレはお転婆は嫌いじゃないが趣味じゃない」


 そういうと、魔王は私の短くなった髪に触れて魔力を流した。

 その瞬間、私の髪がザッ!と一気に伸びた。


 ぎゃーー!?


「髪が!!」

「短すぎる髪も好きじゃない。お前の髪の時を少し進めた。ははは、なかなか綺麗な髪じゃないか。伸ばしとけ」


 おまえはココリーネか!


「大体、これ長すぎるでしょ! 何年分伸ばしたのよ! ハサミ頂戴ハサミ!」

 魔王を押しのけて立ってみると背丈より長い。せめて前髪だけでも切らないと前も見えにくい。


 ブラウニーなんて、髪が長くても短くても、どっちでも良いって言ってくれるのに!

 ん?でもあれ?

 どっちでも良い、て言うけど、本当はどっちが好きなんだろう……気になる。

 魔王はメイドを呼んで耳打ちした。


「かしこまりました」

 メイドがワゴンに行って何かを準備している。

「美味いものを食わせてやる」

「はあ」


 しばらくすると、お皿に盛り付けられたクレープとフルーツの盛り合わせが出てきた。 む……正直美味しそうではある。


「まあ、食え。腹が減ってるだろう」

「先程、お腹に穴は空きましたが、こんな状況でお腹は空きませんね。

……ん?なんですこのトッピングの赤い実」

 髪を束ねたい。食べにくい。


「ポムグラネイトという実だ。地上では味わえない旨さだぞ」

「ふーん。辛くない?」

「甘い」

 そっか。赤いと辛そうとか思ってしまうけど。ホントに甘いのかー? これ……。

 さっきから私をからかって遊ぼうとしている所がこの魔王にはある。

 ……いや? そんな稚拙な悪戯するかな?


「それを食べるなら、アドルフとかいう、あの男との面会時間を用意してやる」

「……う。わかったよ、食べればいいんでしょ」

 それを言われてしまうと、食べない訳にはいかない。

 たとえハバネロであろうと私はひるまない! アドルフさん、待っててね!

 私がスプーンに赤い実をのっけて口に運ぼうとした時、


 ドゴッ!!!


 ――床から樹の根が魔王の部屋の床を貫いて、テーブルをひっくり返し、更に私の手をはたいてスプーンを遠くまで飛ばした。

 カラン、とスプーンが転がる。


「アカシア!!!」


 魔王が樹の根を握って、黒い炎で焼いた。

 樹の根は消し炭になった。


え?


「アカシア?!」

「チッ、アイツ視てやがったな。この部屋に根っこは生えないようにしてやったはずだったが……」


「え、アカシアにしてもなんで、こんな事……」

「さあな」

 アカシアがここを視ている?


「ところで生えるって何? 今燃えた樹の根ってアカシアの力で生えてるの?」

「……何だお前、アカシアのことをそんな他人のように。そういえばさっきの3行にも入ってなかったな」

「えっ。……ああ、そういえばアカシアもそんな事言ってたような、僕のこと憶えてない、みたいな」


「嗚呼! ……クッククククク!! そういえばそうだったナァ! 分霊として人間界に生まれ変わる際にお前は全て記憶を封印されるんだった」

「え、何がです? 保護者だったとかは聞いたけど。あの人ってなんなんです?」

「ああ、そうさ。あいつはお前の保護者気取りさ。 ――本来はただの記録されるだけの存在の癖にな」

「……??」


「いいか、アイツはこの世界の中心で、1本の大樹だ。

人間の目には見えないだろうがな。世界中にその根をおろし、枝を伸ばし、神の世界から世界中を視ている。この異界もあいつにとっては例外ではない。その存在の全てにこの世界の出来事が記録されている。この世界のあらゆる物語の集合体。そしてその若葉にはあらゆる運命の予測が描かれている。

そんなアイツは地母神からお前を預かって、時が来るまで、そしておまえが人間として生まれる事ができるまで育んだ」


「ええ……」


 ブラウニーが戦ってた時に見えた葉の記憶はそういう事なのか。

 なるほど、すでに私の思考の限界を超えているけど、とりあえずアカシアは魔王ではなかったし魔族でもなく。

 簡単に言うと、全世界中の全事柄を過去未来問わず知ってる存在ってことか。

 そしてその本来の姿は大樹であると。


「お前もずいぶんとアカシアを慕っていたのはオレも視ていた。

そしてアカシアはあろうことかお前に絆された。魔性の女だなぁ、おい」


「人聞きの悪いこと言わないでくれます? ……そもそもなんで天空神になる可能性の人が何人もいるんです? 中にはろくでもない人もいましたけど。あなたも含めて」


「それはあれだ。今後どういう世界になるかは資格者たちの個性に関わるからな。どういう世界として完成させるか、感じ、選び取るんだよ。お前を通して地母神が。ちなみに我(オレ)は選ばれても天空神にはならん」


「え、じゃあ地母神はブラウニーが良いってこと!? 渡さないわよ!! 地母神にだってブラウニーは!」

「気にする所がそこか。普通ここは我がなんなのか聞く所ではないだろうか?」


「なんかそれよく言われる……でも聞いた所で私はあなた選ばないから意味がないかなって」

「情報収集しようとする姿勢が皆無だな……。判断材料に対する取捨選択がクールすぎるぞお前」

「頭の中ブラウニーだけで良いなって思ってるし……」


「……ブラウニーはそれは逆に嘆くのではないか?」

「えっ」

 なん…だ…と…!?


「ブラウニーは何故お前のような……馬鹿が好きなんだ?」


「!!!(がーーーん)」


「一度、ヤツとは話はしたが、あいつのほうは馬鹿には見えなかった。むしろ人間にしては賢(さか)しいほうに感じたが? そんな人間が何故おまえのような……相手をするんだ? 脳の釣り合いが取れないのでないか?」


「!!!(がああああああああん!!)」

 私は震えた。……く、さすが魔王。人を追い詰める事に長けている!!


「……哀れみを感じる、この我が? この魔王が謝罪したくなるだと……? ……すまなかったな。気を確かにしてくれ」


 魔王に! 謝られて! 気を使われた!!

 さすがにプライドがズタズタだよ!!!


「……ブフッ」

今度は笑いやがった!!


「何故笑う!!」

「からかいがいがあった。褒めてつかわす」

 からかってたんかーい!!


「話は戻すが、ブラウニーは天空神にはなれないだろう。天空神になれる人間というのは、その器(にくたい)からして作りが違う。一般人が神の資格である神性を手に入れた所で、器の強度が足りない。天空神に至る過程で死ぬだろうな。『絶対圏』への接続もそのうち身体にしっぺ返しがくるぞ。」


「なんですって。じゃあ、早く取り出さないと! ブラウニーに会いに行かせて!!」

 そういえばアカシアも言っていた。ブラウニーじゃ耐えられないって。

 やっぱり使わせちゃいけないんだ……『絶対圏』。


 ……あれ、それじゃアドルフさんも使わせちゃいけなくない?

 私が強くなるしかないのだろうけれど、戦闘(そっち)はもうホントに才能がないって思う。

 八方塞がりじゃないの。


「許可できんな。……オレはあいつが別に死んでも構わないし、あいつが天空神になったら、どっちみちオレが殺す」

「この人でなし!」

「その通りだ。オレはそうでなくてはならん……さて。ポムグラネイトを馳走できなかったのは残念だが。部屋を用意してやる。メイドをつけてやるから、髪を整え、しばしそこで休むといい」


 ……お茶会は終わりか。


「また明日お茶しよう。じゃあな」

「……」

 私はメイドに連れられて、魔王の部屋を出た。



※※※

「こちらです」

 魔族のメイドに連れられて、私は用意された部屋に入った。


 うわ!


 なんか……なんていうか、これは…きれいなお化け屋敷……とでも言えばいいのか!

 物語の吸血鬼? とかの屋敷内部っぽい!色合いとか!

 それが女の子が好きそうな仕様に改変されているというか、なんというか!


「魔王様がお洋服がボロボロで見ていられないとのことで、こちらお着替え下さい」


 そういって渡された服は可愛いけど、なんか人間界の服とは違うなーってデザインで。

 え? なにこれ。ヘアバンド?  猫耳? ん? スカートに尻尾?


 そして突如、

「優しくします」

 メイドがそうのたまった。


「なにを!?」

「脱衣を」

「優しい脱衣って何!?」

 シャキーン!


 メイドのツメがいきなり鋭利に長く伸び、それで私の服を切り裂いた!


「いやああああああああああ!?」


 ブルボンス家でもこんな事されたことない!!

 さっきまで来てた服がビリビリのバラバラになって散らばる。

 全裸だ!?


 私はその場にうずくまった。

 か、髪の毛が伸びててよかった…。


 だがしかし!

「優しいとか優しくないとかの問題じゃなくない!?」

「傷ひとつ付けずに脱がせました。成功です」

 メイドから満足げな鼻息がでた。どこか誇らしげだ!?


「失敗あるの!?」

「髪をついでに整えます」

「まさか、そのツメで!?」


 シャキーン!!


「きゃあああ!」

 問答無用で切られた。

 前髪はちょうど良い長さに、髪は腰くらいの長さになった。


「優しくしました」

「怖かったよ!?」


「次は入浴を」

「あ、そういえば結構血だらけだった」

「優しくします」

「また!? いいよ! 自分で入るから…っていやああ!」


 メイドは私を抱えあげ、浴室まで運び、バスタブに漬け込んだ。

 くっ……! ちょうどいい温度だ! 悔しい!!


 そして風呂上がり。

「着せます」

「いやああああ!!!」

 ほぼ負けの格闘をしながら、私は、与えられた服を着せられた……。

 ふ……ふつうの服はないのか!!


「スカートが短い!!」

「お可愛いです」

「お願いだから何か下ばきを頂戴!! お願いだから!!」

 メイドはムスっとしたが、ひらっひらのフリルのついたパニエを持ってきた。

 ……とりあえずは良しとしよう。


 私は鏡を見た。


「……なんで、これ、猫耳は…なんの、ために…」

「お可愛いです」

「これ、魔王の趣味なの?」

「……」


 何故答えない!!


「この尻尾は」

「お可愛いです」

「魔王のしゅ」

「こちらにお飲み物を色々御用意してあります、ご自由にお飲みください」


 答えてよ!?


「髪を結い忘れました」

 話題を変えられた。


「あ、それはお願い。邪魔だから。短くしてくれてもいいよ」

「ツインテール可愛いです」

 OKわかった、会話通じない。もういいです……。

 私は諦めた。


 そうだ、こいつらは文化も話し方も違うのだ。

 いちいち疲れていては身が持たない。

 平常心平常心……。


「ぴっくぴっくにしてあげる♪」

「なんの歌!?」


 悔しい! 諦めたばかりなのに反応してしまった!

 しかも無表情で歌っている! 今更だけど怖い!

 髪にリボンとか付けられて、彼女的に完成したのか、満足そうにため息をついた。


「フゥ……」

 ふう、はこっちだよ!!


「そういえば魔王って名前あるの?」

「……私の真名で良ければお教えできますが」

「いや、あなたの事は聞いてない!」

「私と契約して魔法少女に」

「契約しない!! てか魔法少女ってなに!? 魔法を使える女の子っていう意味なら既にもうそうですけど!?」

「魔法のステッキもマスコットキャラもないのに魔法少女を名乗るなど笑止です」

「別に名乗るつもりはありませんが!? そろそろまともに会話してくれません!?」


「フゥ。さて。では、失礼致します。御用の際は、こちらのベルをお鳴らし下さい。なお、勝手にお部屋の外には出られませんよう」

 完全にスルー!!


「……」


 メイドさん変えてもらえないかな……。マジでチェンジ希望。

 メイドさんは出ていった。


「つ……疲れた…」

 私はベッドに腰掛けた。


 しかしどうしよう……。


 とにかく一番はアドルフさんを助けたい。

 でも……。彼を助けて記憶を戻して、アドルフさんが『絶対圏』を使える事に賭けたかったけど、アドルフさんは寿命がもう来ているとかって怖い話をしてたはず。

 だめだ、絶対使わせられない!


 あ、そうだ。

 さっきのクレープ食べなかったから、面会すらさせてもらえない!

 面会さえできれば、記憶をもどす機会が得られるかもしれないのに…。


 ああ、お願いだから無事でいて、アドルフさん……。



「……」


 ……ブラウニーどうしてるかな。

 怒ってたよね。

 さらにあんな戦いの中に飛び込んで怪我したからまた怒られるかもしれない。


 正直、ブラウニーを諦めるという選択肢は彼を愛しているなら、有りだとは思う。


 愛しているからこそ、相手を思うからこそ、相手の無事を願うからこそ手放す愛。

 世の中にはそんな愛情もあるんだろう。

 けれど、それは私達には当てはまらないと思…う。


 私達はそれを選ば…ない。

 選びたくもない…けど。


 実は、自信がなくなってきた。

 例えば、もしも私が彼を諦めることによって、彼が安泰な人生を送れるなら……。

 そして他の誰かと。


 ブラウニーならすぐに素敵な子が見つかるだろう。

 考えただけで吐き気がする。そんなの。でも。……いやだ、いやだけど。

 ブラウニーはそれを言ったら怒ると思うけど……。


 ブラウニーがその怒りを経ても、幸せになれるなら……と

 頭の片隅にそんな事が浮かんでしまうのだった。


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