第36話 ■ The Contents of the Box2 ■ ―Brownie―


「ククク、ヤツは四天王の中でもry」


 なんか言ってはいけない事を言いかけたヤツを殴り飛ばした。

 恐らくこいつは、何かを自称してる。


「顔が曲がった。よし。次。」


「よし、じゃないよ!? お前怖……」


 ドッペルがなんか言っている。

 これを良しとできないお前は本当にオレの分身(コピー)なのか?


「最後までセリフ言わせてやれよ……」

 ドッペルがドン引きしている。


「最後まで言わせちゃならないことだってある……」

「お前、顔怖! ほんとにオレお前の本体(オリジナル)なの!?」


「生まれたてのお前にオレの何がわかる……」

「オレ、ドッペルゲンガーだったって自信なくしそう」

「いらないだろ、そんな自信……」


 ……なんだろう、さっきからの、この既視感。


「ところで、生きたいっていうのはわかったが、何故すぐに俺を殺そうとしないんだ」


「ん? 言ったろ。オレは誰かの半分になりたかったって。 今すぐ一つになったら、つまらないし……ああこれは寂しいという感情か? お前の魂もらったからそうなんだとわかったが。 ……あと何故だか、お前に好感がある。」


「オレを寂しがり屋みたいに言うんじゃない。 というか、そういう思いが根底にあるならもとから魂持ってるんじゃないのか?」


「寂しいのはお前じゃなくてオレだ。 これは魂というより生態だなぁ。鏡は誰かが前に立ってくれなければ誰も映らないままだ。今までは動けない鏡だったが、付いて行ける鏡になったとでも思ってくれ。適当だが」

「…迷惑な!」


 しかし、魔族が寂しいとか。

 さっきのモリヤマといい、魔族というのは人間に近い感情を持っていたりもするのか?


 ……いや、人間にも様々なヤツがいる。

 魔族にも多様性はあるのだろう。

 だからといってこいつを認めるわけではないが。


「役にたつぜー?なんせ自分が二人だ!」

 一理ある。


「なあなあ、プラムって誰だ」

「お前は知らなくていい」

「彼女だな」

「お前そろそろ黙れ。本当にオレなのかよ」

「そうだぞー。ただ生まれたばかりだから知りたがりだ!」

  …一理ある。


「そうか、オレには彼女がいるのか」

「お前のじゃない!!」

 やはり殺さなければ。


 魔王の拠点は、要塞のような城だった。

 そして高い天井から木の根のようなものが生えていて、それに覆われていた。

 なんかあの樹の根に見覚えが……ああ、アカシアの生やしてた樹の根に似てるのか。

 除草剤作ってぶちまげたい。


 それにしても今みたいに、プラムと存在する時間軸が違うのに『絶対圏』には接続できるんだな。


 おそらくオレがプラムから接続できる権利(かぎ)を貰っていて、地母神が存在する時間軸ならば、勝手にいつでもどこでもアクセスできるようになってるんだろう。

 そしてドッペルはその鍵はコピーできたのか。

 まあ、オレの魂半分持ってる訳だし、それはつまりこいつも本物のオレとも言えるから、できてもおかしくない。


 プラムはこの状態をどう思うだろうか…。

 ……(思案)。


『ぶ、ブラウニーが二人いるううう幸せエエエ』


 ……ありえる。

 これはよくない。

 なんとか魂を取り戻さないと。


 心の眼で、要塞を視る。


 時計の中のような歯車がたくさん回っている部屋がある。

――そして、謁見の広間。

そこから奥へ伸びた長い廊下。

――暗い部屋で、酒を継いでいる、黒髪で角のある男。

――男がこっちを視た。


「……目が合った」

「合ったな」

「お前も視えたのか」

「おう」


 ブツッ


 視界を切られた。

 驚いた、こんな事ができるのか。


「場所は……あの辺か」

「そうだな、オレもそう思うぞ、オレ」


「…なあ」

 ドッペルが無邪気な顔でこっちを見る。

「なんだよ」

「オレ、なんかお前といるの楽しい」

 ほんわかとした笑顔を浮かべる。

「…なっ。馬鹿なこというな」


 ……これホントにオレか?

 まあ、お互い自分だし、気が合うのは当然とも言えるが……。


 ……しかしこいつの人懐っこさといい、このまま関係が続いたら情が移ってしまいそうだ。

 今はそれよりもプラムとアドルフさんを探す手段を見つけないといけないのに、厄介な事情を抱えてしまった。


「オレ、なんかずっと魂半分のままでいいや。お前とずっといたい。寿命が来る頃に魂は返してやるよ。ほら、早く行こうぜ」

「お、おい」


 オレの手を引いて、ドッペルが魔王の部屋へとテレポートした。


 部屋は豪華だったが薄暗く、酒の臭いがした。

 先程の男が、ゆったりとソファに座り、ワイングラスにいれた酒をくゆらせている。

 部屋にはガラスケース棚が設置されており、見たこともないアイテムが飾られている。

 ドッペルが物珍しそうにあちこち見回す。


「神側の者が、何の用だ。まさかそんな卵状態の資格で我(オレ)を倒しに来たわけではあるまいな」

 長い黒髪に、真っ黒な瞳。大きな角が生え、ガウン姿だ。特殊な紅でも刺しているのか唇が黒い。


「お休みの所失礼。オレは神側の者でもないし、お前を倒しに来たわけでもない。迷子を回収して自分の時間軸に帰りたいから協力してくれ。以上だ」

「オレからも以上だ」

 ……お前は喋るな。


「……は、何故、我(オレ)がそのような事に協力せねばならない?」

「素直に助けて欲しいだけだ。アカシアってヤツにここへ送られてな」


 自分で飛び込んだんだが、アイツが原因だしな。

 そういえば結局あいつはなんなんだ。話を聞いてるに地母神の従僕って感じするが。


「…アカシアだと?」

 ん?反応した。


「…あいつと何があったんだ?」

 魔王が口端を釣り上げた。


 追い出されるか、もしくは戦闘になるかと思ったが……興味を引いた?

 ……そしてアカシアを知っている。


「あいつの大事なものをオレが取ったらしい。で、ずっと粘着して嫌がらせされる。そしてつい先程、ヤツとガチンコしたところだ」

「……ククッ。なんだ。面白そうな話じゃないか。気が変わった。退屈しのぎに聞いてやる。アカシアの大事なものか。神の愛娘にでも手を出したか?」


「そうとも言える」

「…なに?」

 少し顔が歪んだ。なんなんだよ。


「正確にはその分霊とオレが恋仲か」

「? ……分霊はまだ……ああ、そうか。お前赤土荒野で迷って未来から来たな。なんだそこのお前にそっくりなやつ……ああ?おまえ、ドッペルゲンガーにひっかかったのか……? 嘘だろう?」


魔王は爆笑した。何がそんなにおかしい。


「こんなドッペルゲンガーにひっかかるヤツになんで神の資格があるんだか。運命仕事しろよ。ああ、おかしい」

「オレはただの一般人だからな。神の資格とやらは恐らく皇太子から盗んだもんだ。ちなみに神なんぞなる気はない」

「おいおい、お前面白すぎるだろ……」

「たしかに(うんうん頷き)」

 黙れドッペル。


「しかし…そういうことはお前が地母神の夫になるのか? それは聞き捨てならんなァ……。……まあいい。さて、我に頼み事があったそうだが? ……取引する、というなら聞いてやらんでもない」


 こいつ、地母神に何か思う所があるようだな……だが、今はそれを聞き出している場合ではない。


「迷子を探して一緒に元の時間帯へ戻りたい、だ。取引とは?」

「……ちなみにアカシアにダメージは与えたか?」

「脇腹にショートソードは刺してやった」

「そうか。一撃は与えたのか。褒めてやろう」


 こいつ、アカシアのこと嫌ってるな。


「そうか、じゃあ褒美をくれよ」

「勿論だ。我と取引する権利(ほうび)を与えてやる」


 なんだそれ。

 魔王はオレをじっとみた。


「ふん、これは……20年先か。そうだな……眼球一つで飛ばしてやる。己の血肉を我(オレ)に捧げよ。」

「今は20年も前なのかよ。は? 眼球? んなことできるわけないだろ」


「取引するのに、まさか人間の通貨で払おうとでも思ったのか? 対価を払わないのならこの話はここまでだが、気が変わって支払うというのなら――視た所、お前の探しものはこの時間帯にいない。だからお前が生きていた時間帯のそのドッペルが生まれた館に飛ばして、そこに同時間帯の人間界へのゲートを開いておいてやろう」


「それじゃ駄目だ。迷子回収は絶対だ。そいつらがいる所へ行きたい」

「時間軸を諦めるならそれは叶えてやろう」

「……迷子回収したらまたその時間軸のお前に頼む。代価はその時に」


 プラムとアドルフさんさえ……いるならオレはどんな時間軸へ行ったって構わないしな。


「……まあいいだろう。その時に我の機嫌がよかったらな」


「話は終わったか?じゃあ、オレの眼球やるよ。」

 はーいって感じで軽く手を上げるドッペル。


「は?お前正気か?」

「みっみっ……」

 なにやらマロまで心配している。


 ……マロ、どうしてあいつにそんなに懐いてるんだ。

 オレと似てるからか?……ん?

 何かが頭に引っかかった。


「おう。だが、あとでもし治せるなら治してくれ」

 ……ああそうか。『絶対圏』なら治せるだろう。だが……。


「ところで眼球以外……何か他のことではだめなのか。例えばアカシアを殺してくるとか。後払いになるが」


「それはそれで魅力的だがな。それを代償にするならオレはもっとでかい願いを聞いてやらんといけなくなるな」

 それ悪くないな。だがとりあえず……仕方ない、他に手がない。


「しょうがないな……わかった。オレの好きな方の目玉をもってけ」

「おい、オレがやるって……」

「そうか」


 正直、語りたくないので詳しい描写は語らないが、オレは目玉を奪われた。


 その直後。


「あああ! 痛いいい! 目が! 目があああ!」

 ドッペルが異様にうるさい。痛いのはお前じゃなくてオレだ。


「馬鹿か! お前ばかかああああ! なんでそんな平然と……!」

 喚いて泣いてる。


「お前、オレに殺意ある癖になんでそんな号泣してるんだよ」

 正直痛いと思うが、痛みをあまり感じないように少し前に調整したからな。

 さほど痛くない。


「もう殺さないって言っただろ!! それにオレはお前だって言ってるだろ! オレはオレが痛いのは嫌だぞ!! おりゃあああ!」

「お……おい、やめろ!?」


 そう言って、ドッペルは躊躇うことなく自分の右目を自ら引きずり出し、オレのぽっかり開いた右目部位にはめ込んだ!


「おま、なにやっ…うわ!? さすがに、痛え!?」

「治れえええええ!」


ドッペルは『絶対圏』を使って、自分の目を触媒にしてオレの目を治した。


「……何をやってるんだお前らは」

 魔王が呆れた。まったくだ。


「まったくだよ! 馬鹿か! オレのくせに! こんな事しなくても治せ……」

 ドッペルが片目でボロボロ泣き始める。


「だって……オレが可哀想だった……痛え~!」

 なんで泣いてるんだこいつ。


 ……生まれたばかりだから『絶対圏』でできることの想像力が足りないんだな……くそ。

 プラムも使い方が下手だからなんとなくわかった。

 ……ああ! もう! 情が移る! やめろ!!


「ははは、可哀想か。そうか……!優しいドッペルだなァ、お前」

そう言うと、魔王はドッペルの頭を掴むと、その頭に――恐らく魔属性の衝撃を与えた。


「うっ!?」

ドッペルは一瞬にして気を失った。


「は!? 何をしてんだよ!」


 オレの言葉は無視して、ドッペルの足元に暗闇と星空の広がる空間をねじ開けて、そこへ意識を失ったドッペルを落とした。

「おい……!!」

 オレはドッペルを捕まえようと身を乗り出したが――


「待て待て。お前はダメだ」

 魔王に腕を掴まれて止められる。


 ――いかん、回復だけでも――と思った時、落ちていくドッペルの片目が髪で隠れた。


 え……アドルフさん…!?


 いや、そんな馬鹿な。

 けれど、そういえば、さっきから感じていた既視感……。


 ゲートが閉じた。


「貴様……!!」

 オレは腕を振り払おうとした。だが、力負けしている!


「おとなしくしろって……。説明するとだな。せっかく代価を支払っては貰ったが、お前が何も失わないのは面白くない。 ――魂半分。これを代価にさせたもらう」


 魔王はニヤリと笑って別のゲートを部屋に開いた。


「詐欺だろ! 失わないとしても眼球は差し出しただろう!」

「だから、それじゃつまらない、と言っている。……安心しろ?そんなに遠い時間帯にアイツは送ってない。さあ、お前はこっちだ。約束通りの場所へ送ってやる。運が良ければ会えるさ。そら!!」


 ――そう言うと、魔王はオレをドッペルを落としたのとは違うゲートを開いて投げ込んだ。


 この野郎……!

 用が終わったら殺してやる……!!



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