第32話 ■ Unconditional Love ■
ブーさんの事を話しした後、リンデンお兄様の様子を見に行くことに。
ブラウニーとアドルフさんと一緒に、リンデンの部屋へ向かった。
ブラウニーと相談して、リンデンの様子を見て、場合によっては『絶対圏』を使って治そう、と二人で決めた。というか、ほぼ使うつもりだけど。
「……プラム! 大丈夫か? 髪が……」
部屋に入ると同時にギンコが声をかけてきた。
私の髪を見て心を痛めたような顔をした。
ギンコも心配してくれてたんだな。ありがとう。
「お前の治療もしたかったが、リンデン殿が余談を許さないと判断したからこちらへついていた。すまない」
「うん、ありがとう。私は自動回復があるから、平気。髪はなんだかさっぱりした!」
「そうか…」
ギンコは安心したような顔をした。
おそらく、生命の精霊とかの動き見て、私が大丈夫だって理解したんだと思う。
「……それでお兄様は…」
「良くない。……中丹田で何かが反発しあっているような……稀にみる症状ではあるんだが」
歯切れよくない。多分なんか違う気がしてるんだね。
「そう」
リンデンの方をみると、お医者様とフリージア様と、今アドルフさんが近寄って囲んでいる。
アドルフさんがなんかの機材を使って、リンデンの様子を伺っている。
「……んー。二属性持ちが起こす症状に似てねえか?」
アドルフさん、医者の真似もできるの?
そういえば教会で瘴気があふれた時も、ロベリオとかの状態見てくれたっけ。
まあ、専門ではないんだろうけれど、なんでも屋さんだな。
余談だけど、それを後日、本人に言ったら器用貧乏っていうんだよ、と言われた。
傍にいたお医者様が言う。
「確かにそうではあります。
ですが、リンデン様からは今まで水属性以外の反応は出たことはありませんから……」
アドルフさんがこめかみをクリクリしている。
「――ん、たしかに水属性しか検出はされないが。なにか違う属性が絡んでいる気がしない? これ……。
現在わかってる属性以外の新しい属性か?」
アドルフさん、神妙な顔してるけど、今ちょっとワクワクしたわねあなた。
「そんな事ありえませんよ。属性の種類はもう定められています。
私だって長年、リンデン様を見てきて属性だってきっちり毎回確認しているんですから。
また、皇太子殿下とライラック……様も、似たような動きを持っていると、そちらの専門医からお伺いしてます。
――彼らもまた、単一の属性所持者でいらっしゃいます。従兄弟同士でいらっしゃるうち、リンデン様の場合だけ不具合が出ておりますので。
確かに、もう一つの属性が存在している、ならスッキリはするのですけれどね」
「まあ、今までの研究結果的に、おまえさんみたいな職業だとそう結論付ける以外ないよな……」
ブラウニーがアドルフさんの機材を後ろから覗き込んで何か考えている。
「フリージア、そろそろ変わろう。」
ギンコがフリージア様に声をかける。
「いいえ、いいえ。わたくしはまだ頑張れます」
「だが……」
「……」
フリージア様は黙して祈りを続けた。
……愛だなぁ。片思いみたいだけど。
「アドルフさん、ちょっとそれ貸してくれ」
ブラウニーがアドルフさんに手を出す。
「ん?」
「ギンコ、ちょっと胸貸してくれ」
「……ん?」
ブラウニーが機材をアドルフさんから受け取って、ギンコに向ける。
「……あ」
アドルフさんがそれを覗いて声を上げる。
「なんだ?」
ギンコが怪訝そうな顔をする。
「……なるほど」
ブラウニーがアドルフさんの反応をみて確信した顔をする。
「どうしたの?」
「プラムちょっと来い」
アドルフさんに機材を返して、部屋の隅に私を連れて行くブラウニー。
「……なあ、リンデンを苦しめているのは『攻略対象の資格』に関するものじゃないか…?」
「はい…?」
「不明な属性が絡んでるのは確かだと思う。そう考えるしかない。
ギンコに試したらギンコにも同じ反応がある。
ただしギンコのは正常と思われる動きをしてる。だから多分」
「……なんでそんな簡単にわかるものが、お医者さんはスルーしてるんだろう」
「多分あの医者も思う所はあると思うけどな。
さっきアドルフさんも言ってただろ。
あの人達は、まずは常識と今までの研究結果から定められた事柄で判断しないといけないから。
属性の数は、昔から決まってるとされていて、今ある属性はほとんどの人が絶対だと思っている。
それだけ研究がしつくされてるものだ。
……だから、オレ達みたいな情報を持ってでもいなければ、口にするのには、二の足を踏む話しなんだろう」
「なんか……めんどくさいね…。
じゃあ『攻略対象の資格』があるとして……それって何か特別な力があるってことだったのかな」
「シンプルに考えるなら恐らくそうだろ。魔力保持者って事だけじゃないんだな」
「そういえばココリーネも魔力ないけど、一応攻略対象だっけ。ココリーネにもあるのかな」
「アレは放置で」
放置……!?
考えたくもないのね、ココリーネの事。わかる。
「えっと、じゃあ、それを抜き取ったりしたら」
「アカシアのお気に入りからは外れるんじゃねえか。地球からの呪いはともかくとして」
そんな事ができるなら、殿下のを一番に抜き取りたい!!
「……てか抜き取って大丈夫なものなの? 逆に死なない?」
「わからん」
「お前ら何こそこそ話してるの……? お父さんおいてきぼり?」
アドルフさんがにゅ、と割り込んできた。なんか可愛い。
「ち、ちがうよ~」
「私にも話せ」(にゅ)
なんかギンコ可愛いな!
てか、二人共背が高いな!
ブラウニーと話した事を二人にも話した。
「よし、『絶対圏』を使って抜き取れるなら私で試してみろ」
ギンコ……!?
「いや、だってどうなるかわからないよ?属性いじるんだから!」
「なら、なおさらリンデン殿から抜き取るわけにはいくまい……!」
この清廉な人格者!!
尊敬できますがそれはよくないよ!!
「それに、私がもしまたココリーネの時のようにプラムに不埒な思いを抱いたらどうする。なら抜き取ってしまったほうが良いだろう」
不埒!? 余程ココリーネが黒歴史ですね!!
「殺す。よし、引っこ抜こう」
ブラウニー!!! 人参か芋みたいに言わないで!?
「わかった、やるといい」
ギンコおおおお!!!
「お前らやめなさい!?」
アドルフさんが止めた。ブラウニーにはげんこつした。ありがとう!!
「ギンコ、お前自己犠牲が過ぎるぞ!生真面目も度を超えてるぞ!」
アドルフさんがギンコ叱ってる!!!
「すまない……」
ギンコの耳が垂れた!? かわいい!! ってそんな場合ではないのだ。
そんな事を話していたら、薄暗い部屋に、まばゆい光が浮かび始めた。
「なにこれ綺麗」
……いや、これは聖属性の……
私はハッとしてフリージア様を見た。
「――」
フリージア様が光り輝いている。
「なんだ……?」
ブラウニーが呟く。
「えっ…なんです?」
お医者さんがビクついてる。
「リンデン様は絶対にわたくしが助けます……ああ、視えます。視えました……」
フリージアがリンデンの胸元に手を翳す。
「ここに苦しみの種が……こんなもの……」
「こんなものおおおおおおおおっ!!」
フリージアがリンデンの胸から引き上げるように、銀光の塊を持ち上げる。
「うおっ! なんだあれ!」
「……プラム、この感じ…」
「――あれは…」
「フリージア…! なにを!」
「な! なんですかあああ」
フリージア様は、それを自身の身体の中に埋め込むように引き入れた!
「あ、あああああああ!! こんなものは、失くなってしまえばいいの!!」
フリージア様が死んじゃう!?
私は駆け寄ろうとしたが後ろからブラウニーに抱きすくめられた。
「プラム、あれは……聖属性なのか?」
「え……?いや、これは聖属性では…」
たしかに…これは聖属性、というより……なにか違う…。
「――う!?」
帯状のまばゆい光がフリージアから天と地に向けて輝き、突き抜けていった。
光が放出され、次第に収まっていき――
フリージア様がいた場所には――美しい少女が倒れていた。……えっ?
「誰……だよ…この女…」
「フリージア様、痩せてる――!?」
「うっそだろ…」
「確かに衣服と生命の精霊の状態からしてフリージアだな」
「どういうことなの…」
「あの光の塊――あれを……消失させるために自身の全エネルギーを使用して……」
「……痩せた?」
「Oh,No……」
「見た目だけではないな。大いなる力を感じる」
「え……?」
「んー?」
アドルフさんが測定器をごそごそ取り出した。
そこまで話した所でフリージアがうめいた。
「んん……」
「フリージア様、大丈夫?」
私は近寄って回復をかけた。
痩せたから服がブカブカになってる。なんかちょっと萌えます。
てか、痩せたらすんごい綺麗だよ!! フリージア様!!
「ああ、プラム様、ありがとうございます……リンデン様は…」
あ、そうだお兄様。
お兄様を覗き込んで、頬を撫でるフリージア様。
「リンデン様……大丈夫ですか…? わたくしがわかりますか……?」
いや、わからんと思う。
お兄様が目を開けた。
「……う…君は?」
フリージア様がそのまま、お兄様に回復魔法をかける。
「わかりませんか……? どうしましょう、視覚に何か問題が…? わたくし、フリージアなのですけれど…」
いえ、視覚は問題ありません。
見ている一同が後ろで首横に振ってる。
「え…? フリージア…? ……綺麗だ」
「まあ……いやですわ。わたくしが綺麗だなんて……。
まだお寝ぼけになってるのですね。まだごゆっくりお休み下さい」
キラキラと輝く美しいフリージア様に、リンデンお兄様は身体も万全ではないはずなのに、見とれてぼーっとしている。
……こ、これは。
「……この二人うまくいくのでは?」
ブラウニーが言った。
「お、おおう。良い感じだよね!」
しかし、大人二人はそれに微妙な反応だった。
「それは…どうかな」
計器を器用にクルクル回しながら、アドルフさんが言った。
「……」
ギンコは無言だ。
「え、何?」
私とブラウニーは不思議に思って二人を見た。
「……そこのお嬢さんは、たった今なっちまったんだよ、『聖女』にな」
難しそうな顔をしたアドルフさんは、そう呟いた。
「……はい!?」
※※※※
「ああああ、聖女! 聖女の誕生ですううう」
医者うるさい!!
「寝ててください!」
私は問答無用で医者を寝かせた!
スリープの魔法を久しぶりに使った!!
「……どういうこと」
リンデンお兄様が起き上がった。
「そこのお嬢さんは、リンデン坊っちゃんを治そうとずっと傍についていた。
そしてその思いの強さから、聖属性としての枠を突破した。――それはつまり、聖女だ。
……そこの医者がもってた計測値も、オレの計測値も、同じ結果だ。
それに多分、今のはちゃんと観測所に観測されただろう」
アドルフさんが、伏し目がちに言った。
「え、それじゃ……フリージア様は……」
二人はこれからなのに。
フリージア様がそっと……いいのです、と言った。
「昔から、リンデン様のご病気を治すには聖女の力が必要と存じ上げておりました。
そしてそれができるのはわたくしだけ……と。
それがやっと叶いました。ああ、嬉しゅうございます。やっとリンデン様を治す事ができました」
潤んだ瞳でニコリと笑った。
「……フリージア、君は僕のためにそこまで……僕は、今まで君を疎んで、避けて……」
「いいえ。幼い頃、あなたは私を助けてくださいました。
あの日からわたくしは、そのご恩に報いること……貴方のお役に立つことだけを考えて参りました。
例え貴方が、わたくしをどう思おうとです。
それほどわたくしはあの時……嬉しかったのです」
うわ……これは本物だ。
本物の聖女だ……! なんて聖人!!
「本当に同一人物なのか……」
ギンコ!? 今ここでそれ言う!?
「でも……それも本日この時を持って終わりです。
わたくしは聖女となりました。
これからは国のために勤めて行かなくてはなりません。
ダンスパーティで一緒に踊れて夢のようでした。わたくしはもうあの思い出だけで満足にございます。
今まで本当に、ありがとうございました……リンデン様」
微笑み続けるフリージア様。
でも、それはどこか諦めたような微笑みだ。
なんだか……かなわないな、と思った。
国に連れて行かれてでもリンデンを治す方を優先されたフリージア様。
こういうのを無償の愛、っていうのだろうか。
私なんて、ずっと国に連れて行かれる事を怖がって、隠すことばかり考えてる。
「ブラウニー…私が『絶対圏』をさっさと使っていれば、フリージア様は国に連れて行かれること……」
「プラム。それは違う。確かにそうは考えたくはなる。だいたいオレだって『絶対圏』を使えるし、もともとそのつもりもあったはずだろ。フリージア様が先に治療してしまったんだ。仕方のないことだ。
だから、それは考えるな」
リンデンが大きな声を出した。
「……いやだ! 僕は嫌だよフリージア!! 君とこれから、話したいことがいっぱいある!!」
「リンデン様、嬉しいことを仰ってくださいますね。では、聖女になってもたまにはお会いして頂けますか? 面会することなら叶いましょう、あなたにそう言って頂けて……わたくしは……」
フリージア様の精一杯の仮面が崩れそうだ……。
どうしよう、どうしたらこの二人を救えるの?
その時ブラウニーが
「リンデン、ちょっと」
リンデンのベッドに腰掛け、リンデンに何かを耳打ちした。
リンデンが、えって顔した。
「……」
「……わかった、ありがとう」
リンデンの顔がキリっとした。
?
一瞬、ギンコが耳をピン、とはねた気がした。……聞こえたの?何?
「プラム、行くぞ。二人にしてやれ。あ、出ていく前にリンデンにありったけ回復かけてやれ」
ブラウニーは医者をずるずるとひこずると、外へ出ていこうとする。
「へっ?」
「そっちの大人共も、ほら」
大人二人にも促す。
「ん? おう」
ああ、確かにって感じでアドルフさんが続く。
「……ブラウニー、おまえ……いや、しかし……うむ……」
ギンコがブラウニーに何か言いながらでていく。
「お兄様、じゃあまたあとで。雨降らせてくれてありがとう!」
「ああ、プラム、またあとでね」
私はブラウニーに言われた通り、リンデンに思い切り回復をかけて、部屋をでた。
部屋を出る時に、リンデンお兄様の声が聞こえた。
「ねえ、フリージア。僕のお嫁さんになる気はある……?」
え、プロポーズ??
※※※
その後、私とブラウニーは、私の部屋のバルコニーでお茶してた。
リンデンの部屋から帰ると、改めてブラウニーは不機嫌になった。
リンデンの話をしようとしたら、リンデンはもう大丈夫だ。フリージア含めて、とあっさり言われた。
一体どういう事なのか聞こうとしたけど、あまりにも不機嫌だったから……私は言葉を飲み込んだ。
これは後で怒るって決めて我慢してたのね……。
「すいません、本当にすいません……」
「絶対に許さない」
「ゆ、許さないってどうなるの」
「……それはもう少し大人になったら教えてやる」
「時限式断罪……!?」
「なんだよ! それは!?」
困ったな、今回はとても怒ってる。不機嫌だ。
ブラウニーがこんなに不機嫌続くのって珍しい。
よく見るとまだ目が腫れてるし……って……あ。
私は手をブラウニーの顔にかざして、回復した。
「サンキュ。だけど……ごまかされないからな」
はう。そんなつもりは……。
「……死ぬ所だったじゃないか」
「うん」
「オレがどんな気持ちだったかわかるか……?」
ブラウニーの瞳にまたじわりと涙が浮かぶ。
「……うん」
「言っただろ、お前がいなくなったら、オレは生きてる意味がないって。
しかも……おまえ、オレのいない所であんな……あんな目にあって……。」
「うん……」
ブラウニーの言葉が痛く突き刺さる。
ブラウニーはあちこち焼け焦げた私を見てしまったのだから。
相当ショックだったろう。
「私ね、ブラウニーの髪がこんなになって、ずっと気にしてたの。
だから、『絶対圏』使いたくなくて……。
ブラウニーが生きる意味がなくなるとか、知ってても。
私だってブラウニーが死んだら生きてけないんだもの……」
「だからって……いや、堂々めぐりだな、これ……」
ブラウニーはため息をついて夜空を眺めた。
お互いを大事にしたいだけなのに。
うまく擦り合わない。
「……悪かった。怖い思いしたのはお前なのにな」
「ううん。言いたいだけ言って。悪くなんかない。
それだけ、私を大切にしてくれてるってことだから。
……ありがとう、ブラウニー」
……抱きついてもいいのかな。今日は少し迷う。
そんな風に悩んでたら、ブラウニーが私の手を引っ張って、膝にのせた。
とりあえず……許してはくれたのかな。
ブラウニーの顔を見る。
ブラウニーは辛そうにこっちを見たあと、ぎゅっと抱きしめた。
ごめん、こんな顔させて、本当にごめん。
彼の気持ちを今癒せるのが私ではなく、時間だけ……というのが口惜しい。
「トラブルだらけで、疲れるよね」
「ああ、とくに今日みたいなのは絶対ごめんだ」
「私だって思ってるよ、いつになったら……昔見たいに。小さな子供の頃みたいに……ブラウニーと楽しく生きられるのかって。ずっと思ってる」
「プラム……」
そしてその後、ブラウニーは何かを考えるかのように、しばらく空中を見据えていた。
私は彼の何かが、いつもと違う気がして、聞いた。
「ブラウニー、どうかした?」
「いや、なんでもない」
どうしたんだろう……?
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