第30話 ■ DanceParty ■

 週末。

 入学パーティの日がやってきた。


 私はドレス選びとかは、もうぜーんぶ、侍女さんにお願いした。

 実は大人っぽいドレスとかあったら着てみたかったんだけど……。


 デザイナーさんが言うには、私の年齡や顔を考えると大人っぽいのはもう少し年齡を重ねてからがよろしいですって言われてしまった。




 侍女さん達が……

「いいわぁ……。こんなフリフリドレス、まず似合う令嬢いないわよ……ふふ」

「あらら駄目よう。学校の入学パーティよう……派手なのは駄目って言ってたでしょ……」

「でもでもでも、着せたぁい……。じゃあこっちは?」

「アクサリーだけでも」

 って言ってるのが聞こえてきた。


 ちょっと変な雰囲気は感じるけれど、一生懸命選んでくれてる。

 私なんてこの人達よりずっと底辺の身分出身なのに、敬意を払ってくれてる。

 ブルボンスの侍女たちには、そのあたりで地味にいじめられてた。

 ココリーネのお気に入り、ってことで酷い傷とかはつけられることはなかったけど。


「わ、綺麗」

 着せてもらったドレスは、全体的に淡いブルーから紺色へのグラデーションがかかっていて、スカート部分が星空のような装飾がなされていた。

 裾は足が見えるデザインで歩きやすい。

 首の後ろにリボンがついているラウンドネックっていうデザインで可愛い。


 あ、ちょっとオトナっぽいかも。

 私の意見聞いて考えてくれたんだなあ。


 私のできるせめてものお礼を今日もしよう。

 実はこっそり皆が寝静まったあと、屋敷全体に感謝をこめて回復かけてる。

 だってみんな優しいんだもの、元気でいてもらいたい。

 今日も絶対忘れず回復しよう。


 髪は結い上げてもらって、水色の薔薇で飾り付けしてくれた。

 パーティは日が落ちてからだから、ちょうどいいデザインかもね。


 色が合わないということと、入学パーティには重すぎるということで、ブラウンダイヤは今回おやすみ。

 かわりにブラウニーの瞳に似た違う宝石を使ったアクセサリーセットになった。

 うん、ブラウニー色を身につけられるならなんだっていいのよ、私。


 リンデンは、フリージア様を迎えに行かないといけない、とのことで今日は一人で馬車に乗ろうとしたら、スーツを来たブラウニーがマロで飛んできた。


「一緒に行こうと思って来た。……乗せてくれますか? 姫」

「もちろん」


 珍しくブラウニーがきざったらしい事を言って紳士な態度を取られたので、ドキドキしてしまったわ。

 鼻血でてしまうわ!


 ブラウニーは基本顔が良い方なので、こんな格好してたら本当に良いとこのお坊ちゃんにも見え……

 ん、あれ。

 いや、いまや一応男爵家だから良いとこの坊っちゃんなんだよ。

 孤児精神が抜けない。


「ブラウニーは、髪は、どこかお店で整えてもらってるの?」

髪とか綺麗に整えてる。こないだの婚約式でも思ったけど。


「お父さんの手腕だな」

「お父さん有能!? どれだけ色々できるのあの人!」

「お父さんは何気にすごい人だぞ。てか、お前。ほんとにドレスとか似合うな……というか綺麗で……心配だ」

「心配? ブラウニーしか見てないよ! 私は!」

「そうじゃなくて……他の男どもの視界に入れたくない」

頷き照れてそっぽ向く。可愛い。どうしよう。

「ブラウニー。今すぐ結婚して(真顔)」

「無茶を言うな、無茶を」

 チョップされた。むむむ。


「まあでもさあ。貴族の女の子、ホントに綺麗な子が多いから、流石に孤児の時と違って、私なんて埋没するよ。例がぶっとんじゃうけど、お母様なんてホント、物語から出てきたような……」

 ブラウニーがため息をついた。

「……それでも、なんだよ。とにかく今日は皇太子殿下には見つからないようにしないとな」

「うん……」


 私とブラウニーはこそこそと人の流れに身をまかせて入場した。

 学院長の有り難いお話と、生徒会長である皇太子殿下からの改めての祝辞。

 その辺のお硬い挨拶が終わったら、あとはダンスパーティだ。

 食事してもいいし。


 皇太子殿下は祝辞が終わったら会場を後にされたようだ。

 ヒソヒソ話が聞こえたけど、いつもダンスパーティには参加しないらしい。


 ココリーネがまだ学院にいなかったせいらしい。

 さらにココリーネの事件の話しが続き、ココリーネの悪口がいっぱい聞こえてくる。

 ……まあ、仕方ないんだけど、気分良くないなぁ。

 楽しい話すればいいのに。


 私とブラウニーは、というと、色気より食い気です。

 踊るよりもぐもぐタイムだ。

 レインツリーの祭りでも振る舞われる食事とかのほうに孤児たちは殺到するもんです。

 食える時に食っておかなくては、というやはり孤児精神が抜けない。

 もうこれは習性です。


「これ、美味しいと思うんだ~」

 ブラウニーの皿に盛る。

「これ食ってみ」

 ブラウニーが私の皿に盛る。

「ちょっと、盛りすぎだよ」

「まだいける」

「ちょっとちょっと多すぎる。お行儀悪いよ~」

「ははは。食えなかったらオレが食うし、心配するな」

 こういう時って食べるよりも食べさせたいってお互いなってしまう。


 しばらくそんな事をしていたら、

「ああ~こんばんわ~プラム様~~」

 とても綺麗な白茶髪の令嬢に話しかけられた。

 あれ……?? この喋り方はこの髪は……でも??


「ああ~メガネないからわからないですかね~。私ですよ~副委員長のオリビアです~」

「わ! 全然気が付かなかった! こんばんは、オリビア! ……あ、こっち婚約者のブラウニーだよ」

「まあ~こんばんわ~。プラム様にお世話になっております~」

ブラウニーに挨拶するオリビア。


「こんばんは。プラムがお世話になっております、フラグラント伯爵令嬢」

 ブラウニーがオリビアの手の甲にキスを落とした。

 えっ。

 なにそれどこで学んだの。てかなんでオリビアの名前知ってるの?


「まあまあ。お世話になっているのは私のほうでして~。ヒース男爵令息~」

 オリビアもなんでブラウニーの名前知ってるの!?

 ピン、ときた感じのブラウニーに言われる。

「プラム……おまえ。入学式でもらった生徒の名鑑はちゃんと見たのか……?」

 じと目だ。

「……!!」

 そ、そんなものが! あった気がする!


「あははー」

 むぅ、しかしオリビア、くっそかわいいな!

 私が男なら結婚したい!


「そういえばメガネなくて平気なの?」

「ああ~あれはおしゃれで伊達でして~」

 ほわ。

「チェスもメガネだよね? チェスも伊達なの?」

「ああ、彼は生まれつき目が弱いそうで~」

 ほわほわ。


「オリビアかわいい……結婚して」

 思わず声でた。

「まあ~。光栄です~。でも、背後のブラウニーさんのお顔が大変なことになってますよ~」

 ……ひっ。


「お前、さっきオレにも結婚してって言ったよな。誰にでも言っているのか……?」

 お、女の子どうしのたわいないジョークですよ……後ろでどんな顔してるのか怖くて振り返れませんけど!!


「イウワケナイ! オリビアトクベツ!」

「なんでどこかの秘境にいそうな喋り方なんだよ……。冗談だよ」

「あはは~」

 わきあいあい。


 そこへ

「オリビア! どこへ行った!!!」

 声を荒らげた令息がオリビアを探しに来た。


「あ~はい~こちらです~。ブッドレア様~」

「まったく!! 勝手にあっちこっちへと!! お前は僕の婚約者としての自覚があるのか!」

 ブッドレアと呼ばれた黒髪の少年は、いきなりオリビアの手首をガッ!! と強く締め上げるように掴んだ。


「……っ」

 オリビアが苦痛に顔を歪めた。

「……ちょっと!! やめて! その手を離しなさいよ!」

「あ?」

 そのブッドレアは私を見た。


「……あ、これは失礼…どちらのご令嬢でしょうか…」

 なんか私を見て赤面してしおらしくなった。

 態度が違う!!!


「ブッドレア様~その方はリーブス公爵令嬢ですよ~いたた」

「なっ……これは、失礼しました」

「大丈夫? オリビア!」

 私はオリビアの手を取って掴まれた所をみた。赤くなってる。

 ううん、癒やして上げたい。


「……プラム、回復魔法なら校則違反にひっかからない。大丈夫だ」

 ブラウニーが囁いてくれた。

 え、そうなんだ。

「ありがと、ブラウニー」

 私は軽く回復魔法をかけた。


「……プラム様、あ、ありがとうございます~」

「うおお、聖魔法……。すばらしいですね……」

 ブッドレアが私の手をとってキスしようとした。

 その手をブラウニーが拒否るように、奪い取る。


「プラム、踊りに行く時間だ。申し訳ないが失礼する」

 顔が怖くなってる!!

 挨拶の手の甲キスだめなの!?

 自分はオリビアにしたのに!!

 まあ、こいつにはされたくないけど!!


 ブラウニーに引っ張られるが、オリビアが心配だ……。


「お、オリビア、またね」

「はい~ありがとうございました~」

 ん? そのオリビアの背後に近づくチェスが見えた。

 チェス~頼んだよ~。


「クズの遭遇率が高い…」

「何ブツブツいってるの!?」

 イートコーナーを離れると、私に踊りの誘いが次々来た。

 パートナーがいるのにも関わらずどっかの令息が私を誘う→ 私の背後のブラウニーの顔がめちゃくちゃ怖い→ 怯えて去るの繰り返しになった。


 そうでない時はブラウニーと私のクラスメイトと次々と挨拶大会だった。


「……どっかバルコニーでも陣取るか?」

 さては怖い顔で、顔が疲れたな……。


「んー、そうだね。あ、リンデンお兄様がフリージア様と踊ってる」

「じゃあ、リンデンところに行くか。オレと踊って、その次リンデンと踊ってこいよ。リンデンと踊ったことないんじゃないか?」

「よし。せっかくだもんね。踊ろうか」

「お手をどうぞ」

 私はえへへ、とブラウニーの手を取った。


 踊りながらじわじわとリンデンお兄様のとこへ近づく。

 フリージア様の顔が乙女だ。めっちゃ乙女だ。

 お兄様は……微笑んでるけど内心はわからん。

 ポーカーフェイスのプロだからな。


 リンデンがこっちに気がついて微笑んだ。

 うん、お兄様、すっごく王子様だね。金髪碧眼なんて物語の王子様の定番だものね。


 曲が終わって、ブラウニ-に挨拶。

 楽しかった。


 お兄様におどろーって手を伸ばそうとした時、その手をふいに誰かに取られた。


「一曲お願いします、レディ?」


 ………。

 こ う た い し で ん か が あ ら わ れ た !


 Gyaaaaa! 出たあああ!

 断れないやつううううう!!


 ブラウニーがチッて舌打ちしそうな顔してる。これブラウニーでも回避できないやつ!!

 というか、帰ったんじゃなかったのか!


「ルーカス……」

 リンデンがその名をぼそっと呟いた。

 そのあと駄目だって……って言うのが聞こえたけど、そのままホールの中央に強引に連れて行かれた。


 うあああああ! 助けて!

 踊るなんて言ってないよぉ! 断れないけど!!!


「フフ、君の彼の顔ったら。面白いカップルだね」

「ぶ、ブラウニーをおもちゃにしないでくれますか!!」


 こいつ! ブラウニーまでおもちゃに!!


「そんな事言うなんて悪い子だね。ほら、曲が始まるよ?挨拶して?」


 どっちが悪い子だよー!

 こんな強引な人なの!? 聞いてないよ?

 その優しく甘いマスクは偽りかぁー!? 偽りだ!!


 曲が始まって、踊り始める。

 うわ、悔しいけどめっちゃ踊りやすい!!

 いや、でも困る!!


 周りに人垣ができる。え、なんでみんな踊らないの……?


 そうか! 皇太子殿下が踊るのが見たいのか!

 ココリーネのせいでめったに踊る所が見られないレアもの!

 さらに美しいものな!! 頂点の男だものな!

 プラチナブロンドキラッキラの、翠眼で背が高くて、スタイル良くて、非の打ち所のない王子様だものな!


 令嬢方がなんかヒソヒソやってるのが聞こえる!


 "まあ、殿下がダンスをされるなんて"

 "そういえばブルボンス令嬢とは婚約解消…"

 "私も踊っていただきたいわ"

 "あのお相手はどちら?"

 "リーブス公爵令嬢ですわね…元孤児の…"

 "ひょっとして次の婚約者は…"


 やめて! 私、この人とはなんでもありませんのよー!

 胃が痛い、助けて!!

 リンデンに助けを求める視線を送る。

 リンデンは頭に手を当てて眉間に皺を寄せてる。


 オニイサマアアアアア!!


 ブラウニーは、顔が怖い。めちゃくちゃ怖い。何かを我慢してる顔だ。


 OK、とりあえずミスなく終わらせる。

 ミスとか何かとっかかりを与えると、この殿下はそこに何かしらアクション突っ込んでくるってもうわかってるからな!!

 だから、ブラウニー。間違っても『絶対圏』発動しちゃダメヨー?

 わかってると思うけど!!


「……面白い顔…」

 吹き出すの我慢してる、我慢してるよこの人!


「誰のせいですか! 踊りながら吹き出すのやめてくれません!? っていうか酷いですよ!! リンデンお兄様と踊ろうとしてたのに!!」

「こうしないと踊ってくれないかなって。婚約者とは一度踊ったからいいでしょ?」

「殿下の申し出断れるわけないでしょ!?」

「手紙では断った癖に」

「パートナーがもういますので! 割込はご遠慮ください!」

「そう言われると僕が卑怯者みたいだな。……うーん、そうだな。罰を一日減らしてあげる。それならどう?」

「なん…だ…と…」

「釣れた! ………っ。やっば、おっかし…」


 今にもお腹抑えて笑いそうになるのやめて!?

 踊ってるんでしょあなた!? 笑うか踊るかどっちかにしなさいよ!?


 "まあ……皇太子殿下、あんなに優しく微笑まれて"

 "うらやましいわ、あんな風に私も……"

 騙されてまーす! あなた達騙されてまーす!!

 この人、笑い上戸抑えてるだけでーす!!


 そして私にとっては屈辱のダンスが終わった。

 大拍手。

 ありがとうございまーす……。


「……プラム、ごめんね」

 殿下は唐突に謝ってきた。


「……でも、君と踊りたかったんだ」


 すこし力が抜けたように殿下は微笑まれた。

「じゃ、また月曜日にね」

 殿下は私の手の甲にキスすると去っていった……。


 私はその場でギギギ、と首をブラウニーとリンデンお兄様の方へ向けた。

 ブラウニーが人垣を分けてやってきて、私を抱きしめた。

 私は気がついたら震えていた。


「……がんばったな」

「プラム、大丈夫かい?」

 遅れてやってきたリンデンお兄様が頭を撫でてくれた。


「……もう絶対学院のパーティなんて参加しない」

「わかった、そうしよう。オレもそうしたい。」

「うん……いいよ。そうしよう」


 近くでフリージア様がオロオロしてた。

 彼女にとっては皇太子殿下と踊るなんて光栄なことにうつるだろうから、私のこの態度は不思議にしか思えないだろう。


 あ、そうだ……フリージア様にとっては、せっかくリンデンお兄様といられるパーティだ。

 邪魔しちゃいけない。


「ブラウニー、帰ろう」

「ああ、そうしよう。送っていく」


 ヒースに行きたかったけれど、ドレスやら髪やらは侍女さんにお願いしないと自分で処理できそうにないからリーブスへ帰るしかない。


「お兄様、先に帰るね。フリージア様、ごきげんよう」

 にっこりした微笑をお兄様とフリージア様に向けたあと、ブラウニーに手を引かれて会場を出た。


 会場をでた後、ブラウニーと何を語るでもなく、何度もキスをした。

 ブラウニーも何も言わなかった。

 ただ、キスがいつもより強引な感じだった。

 でもそれが今は心地よかった。

 ブラウニーは帰るまで何かを考えるように口数が少なかった。


 アカシアが言うように、どうしても邪魔が入る。

 これが運命の強制力ってヤツなんだろうか。

 なんど否定してもアイツのいうように、私とブラウニーの間に邪魔が入ってくる気がする。


 ブラウニーの髪に触れる。月光の下、彼の銀髪部分がやんわり輝く。

 これも、心配。

 今のところ彼に異常は他になさそうだ。

 これもアカシアの言う通り、ブラウニーが良くない方向へ向かう兆しなんだろうか。


 だめだめ!

 弱気になっちゃ駄目。

 ……それでも。それでも、負けるもんか!と思わなきゃ。


 ううう、絶対にブラウニーと幸せになってやるんだから!!!



※※※※※


 ――月曜日。

 後一週間。殿下とダンスして一日減ったから。今週の木曜日までた。

 殿下のプライベートルームに向かうのは。

 よし、頑張っていこう!


 ……あれ?

「え、なんでブラウニー。付いてくるの?」

 気がつけば後ろからブラウニーが付いて来てた。


「……オレも行く」

「えっ、怒られない?」

「知るか。行くったら行く」

 ブラウニー…。


 そして案の定、咎(とが)められた。


「……ヒース男爵令息、君をこの部屋に招待した覚えはないんだけどな?」

「私はプラムの婚約者ですし、殿下が不在なことが多い、とお伺いしましたので。私が勉強教えます。

そのほうが殿下のお手間を取らせないと思います」

「別に手間じゃないんだけどね」


 殿下は笑顔を浮かべているけれど、目が笑っていないのがわかった。


「義兄が。……リンデンが、生徒会の仕事が溜まって来ていると嘆いてました。私が言うのもおこがましいですが、義兄を助けてやってはくれませんか?

 プラムの罰なんて……そんなお忙しい殿下がなさらなくても、私が承ります。甘い処置もしたりしません。

 お部屋の招待がない、ということでしたら、ワークだけもってリーブス公爵家のルームに参ります。この部屋で行わなければならない、という事はありませんよね? 雑務と最初はお伺いしましたが――どうやら勉強ばかりのようですので」


 そう言って、ブラウニーはデスクの上のワークを全て抱えこんだ。

 ブラウニー…。私は涙が出てきた。


「プラム、行こう。オレは厳しいぞ」

 そういうとブラウニーは殿下の前で、私の頬にキスした。

「おっと…。いけない、失礼しました。つい癖で」

 殿下を横目で見ながら謝る。


 不敬きまわりない…! けど、かっこいいブラウニー!

 私はブラウニーがかっこよすぎてぽーっと彼に見惚れてしまった。


「――」

 殿下は目を見開いた。


 失礼な奴だ、非常識な奴だ、そんな風に思われたかもしれない。

 殿下がなにを思おうが、最早、私はもうどうでもよかった。

 ブラウニーが素敵すぎて。

 わーん、世界一だよ、唯一無二だよ!ブラウニー!!


「私の婚約者のことは全て、私が承ります。プラムの罰は私の罰です。共に受けます」

 ブラウニーの覚悟が感じられる。

 愛されているのを感じる。

 ああ、大好き……!


 ブラウニーと私は、殿下に一礼してその部屋を出た。

「ブラウニー…ブラウニー…大丈夫?」

「……内心ちょっと怖かったけどな」

 その言葉が嘘に感じられるほど、しっかりした瞳で私を見た。


「でも、もうこれ以上はお前に干渉することを放っておくことはできない。たとえ殿下でもだ」

「お前はオレの一番大事なものだ。お前がいなくなったり、誰かに奪われたらオレは生きてる意味がない……そういうことだ」

 そう言ってキスしてくれた。

「わたしも……わたしもだよ…」

 ああもう、こんなの勉強できないよー!


「安心しろ。リンデンに頼んで、生徒会の殿下の仕事を増量してやった。殿下、しばらくはかなり忙しいぞ。リンデンにもお礼言っとけよ」

 ブラウニーが悪戯っぽく笑った。

 私はその言葉にクスッと笑った。


「笑ったな。よし、それじゃあ勉強だ」

 ブラウニーが私の頭にワークを乗っけた。

「ぎゃー! 重い!」

「はは、たくさん勉強できるな」

 私は軽く悲鳴をあげた。でも。

 ブラウニーと勉強ならいくらでもするー!


 そして、ブラウニーに手を引かれて、私はリーブスのプライベートルームへ向かうのだった。


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