第28話 ■ Welcome ■


 次の日の朝。

「お嬢様、昨日お帰りが遅かったので今になってしまいましたが、ヒース男爵家のブラウニー様からお手紙が届いております」

侍女さんがお手紙を届けてくれた!


 わ、わーい!ブラウニーから手紙だなんて。

 朝から元気でるうー。


『報』じゃなくてちゃんとした手紙を返してくれたんだね。

 この間、私が入学パーティの話を手紙に書いたからその返事かな。

 昨日会ったのに変な感じ。でも嬉しい。


 ずっと一緒だったから、こういう手紙ってブラウニーから貰うの初めて!

 ちゃんと封蝋がしてある。

 なんだろうこのマーク。蛇?竜?

 ヒース家の紋章かなんだろうか。まあいいや。

 手紙はあらたまってもいない、簡単な内容だった。


   『 プラムへ


    手紙ありがとう。

    入学パーティだが、一緒に行こう。

    楽しみにしてる。


               ブラウニー 』


 うん、私達はこういう手紙でいいよね。

 嬉しい。宝物にしよう。


 ……あ、そういえば入学パーティってドレスコードとかどうなるんだろう。

 あれ……ドレス作って下さいって言わないといけないのかな…。すっごく気が引ける。

 こないだ婚約式のドレス作ってもらったばかりなのに……。


 しかも昨日の事件でパーティ行きづらいなぁ。

 でもブラウニーと頑張るって約束したし、ちゃんと通わなきゃ。


「ん? 入学パーティに使えるドレスならもう何点か作っておいたはず! ごめんね!意見聞かなくて!!」


 学校へ行く馬車の中。

 リンデンお兄様に聞きました。したら秒で解決した。

 ホントはこういう場合、お父様かお母様に聞くべきなんだろうけど、どうしてもリンデンに聞いてしまう。

 話しやすいんだよね。

 ていうか何点か!? そんなにいらないよ!? お金もったいない!


「というかね、初日にも言った気がするんだけど。自分のお部屋のクローゼット確認した?

入学パーティのドレスコードは派手なものでなければ割りと自由だったと思うよ。

わからなかったら好きなもの幾つか選んで、侍女にも聞いてごらん?

侍女がその中からふさわしいの選んでくれるから」


 おお! 侍女さん! なんて頼もしい!!!

 クローゼットは見たんだけど、豪華すぎてなんていうか自分が使ってもいいのかしら的な思いがあったのよ。

 平民出身の理解を超えてたのよ! ビビっちゃったから今確認したのよ!


 クローゼットって簡単に言うけど、ちょっとしたブティックというか洋品店みたいな規模はあったよ!

 ブルボンスもおなじように豪華ではあったんだけど、ずっと気持ちが沈んでてどうでもいい気持ちだったからなんとも思ってなかったんだよね。

 あの時は本当に世界のすべてが灰色に見えてた。


「アクセサリーとかも相談するといいよ。ベテランさんだからね、皆」

「た、たよりになるぅ~」

「ふふ。でも良かった!」

「なにが?」

「昨日学校行かないって泣いてたじゃない」

「……あ、あはは。ブラウニーと約束したの。頑張って通うって」

「うん、やっぱりブラウニーの力なんだね!」

「えへへ、ブラウニーに頑張れって言われたら、私なんだって頑張るんだ!」

「プラムは大好きな人がいて幸せだね。お兄ちゃんはちょっと安心したよ」


 そんな事を話していたら、学院の近くに着いた。


「ここでいいんだよね? プラム。あ、ブラウニーおはよ!」

「うん」

「おはよ。リンデン。プラム……ほら」

 ブラウニーに腰を掴まれてひょい、と馬車から降ろしてもらってしまった。

 あ、嬉しい。

 朝から抱きつけて嬉しい。


「おはよう、ブラウニー」

「おは、プラム」


 私達は、校門の前での待ち合わせをやめた。

 馬車には学校の少し手前で降ろしてもらって、二人で歩いて登校することにしたのだ。

 だってそうしないと、おはようのキスとか見られちゃうじゃないの!!


 またジャスミンみたいに男爵令息といちゃついて!みたいな事言われたくないし。

 うるさいよ! いちゃつくよ! 他人の事はほっといてよね!


「じゃあ、また学院でね。先行ってるよ!」

 リンデンは馬車で先に行った。


 私達はこれから少しの距離だけど登校デートなのだ。ふふふ。


「クローゼットまだ見てないんだけど、ドレスは何選んでいいかわからないから、侍女さんに選んでもらうんだ~」

「そんなに用意されてんのか……。公爵令嬢って大変だな」


 雑談しながら歩く。楽しい。もう学校に着かなくてもいいんじゃないだろうか。

 このままバックレ……ん、げふん。


「あ、そうだ」

 私はブラウニーにリンデンから注意されたことを伝えた。


「使う時は使わなきゃしょうがないけどな。……気をつける。確かにこの間の接続はちょっと短気過ぎたと反省してた。改めて……約束破って勝手に力使ってごめんな」

 私はニコッと笑ってそれを返事とした。


「それにしてもリンデンはそんなに身体が悪かったのか」

「うん。私達の力が使えたら多分あっという間に治せると思うんだけど、リンデンお兄様がそれはするなって」

「オレもそれ一瞬でできると思うんだが……。観測所に観測されなければいいんだよな……壊すか観測所」

「ブラウニー!?」

「はは、冗談だ」

 その笑顔、嘘くさい……!!

「駄目だからね」

 悪戯っぽい顔で額をつん、とされた。何をするのだー。

 好きだから許す。


 そんな事しつつ、門をくぐる。

 結局イチャイチャしながら登校してしまった!

 校門手前からはイチャイチャやめようって約束してたのに! すみません!!

 そしてブラウニーは、今日だけだぞ、と普通科の教室の前まで送ってくれた。


「よし、がんばってこい」

「お、おーう!」

「わかった、じゃあオレはオレの教室に行く。また昼休みにな」

「うん」


 私はブラウニーを、手を振って見送ったあと、よし、と教室に入った。

 平気平気。とりあえず足を進めて、自分の席へ。


 チラチラ見られている……。

 気にしない気にしない。

 教科書広げて勉強してるフリ。

 ……友達は諦めた。授業だけ、授業だけしっかり受ければ……やっぱり寂しいなぁ!!


 ふと顔を上げると、前の席の男の子が後ろを振り返ってこっちを見ていた。

 すごく分厚いレンズの大きなメガネ。髪は赤い。

 メガネの奥の瞳はパッチリして大きい。

 イケメンさんですね。

 立ったら背も高そう。……あ、この人が前だと黒板が見えないかもしれない。


「なにか?」

「珍しい髪色だな」

「……」

 え、何。私は首を傾げた。


「ああ、すみません。発言してもよろしいでしょうか、リーブス公爵令嬢」

「あ、いえ。普通に喋ってください。プラムでいいです」


 話しかけられた、ドキドキする。私こんなに小心者だったかしら。

 何を言われるんだろう……。


「では失礼して。ジャスミンの事だが。教室の皆は、あんたが悪いなんて思ってないぜ。びっくりはしたけどな。強いなプラム様」

 ニッと微笑まれた。


「――つ、つよ!?」

 初めて言われた気がする!!


「自己紹介。昨日クラス委員長に任命されたチェスナン=グラスランドだ。よろしく。チェスでいいよ。ちなみにくじ引きで負けたのが任命された理由だ」

「くじ引き!?」

 侯爵家って確か公爵家の下だよね。身分が高いから委員長になったのかと思ったよ!


「文句ある?」

「え、いや、文句なんて。チェスさん、委員長を引き受けてくださってありがとうございます」

「喋り方、まだ硬いな。クラスメイトだぞ。あと、さんはつけなくていい。オレだけじゃなくて、クラス全員な。」

 ……あー。気を使われてるのだ。用は。

 なんかめんどくさくなってきたな。普通に喋ろ。貴族ぶるのは私には無理だ。


「……えっと。ありがとう、チェス」

「何がだよ。ところであんた、ニュース載ってただろ」

「あー。うん。ブルボンス公爵家のことね」


「びっくりしたわ。ブルボンス公爵令嬢があんな事するなんてな。オレも交流がなかったわけじゃないから、未だに信じられないんだよ。実際のところなんで閉じ込められてたんだ?ブルボンス公爵令嬢に気に入られた、とか書いてはあったけどな。実際は違う気がしてるんだが」

「うーん……」


 理由は確かに細かくは載ってなかったはず。

 ココリーネが私を気に入って、ぐらいしか。

 多分皆もう少し知りたいところだとは思うけど、そこから先、ちょっとでも余計な情報流すのはよくないよなぁ。

 また、これはリンデンお兄様に聞かないと答えられない。

 リーブス家の方針があるかもしれないし。


「この件はお父様かお兄様に聞かないと喋れないかも」

 ふと周囲を気にすると、チラチラ見られてる。

 たしかにココリーネの事件は貴族的には超気になるだろう。


「あ、なるほどな。すまんな」


 話題変えたい……でもその前に。

「あなた、ココリーネ様と交流が?」

「おう。家が付き合いあるんだ。パーティとかたまに会うこと多かった」


 これだ!


「……あの、少しお願いがあるんだけど、ココリーネ様にこっそり手紙を出してもらえたりする?

ほんの一言なんだけど」

「んー。まあできないことないと思う、いいぜ。じゃあ貸し1な」

「おっけ、ありがとう!! ほんの一言なの!」


 家に帰ってからだけど、めちゃくちゃ短い手紙書いた。


 『これは夢でみたから伝えるんだけどね。

  あなたはこのままだと紫頭に襲われるよ』


 これで理解するでしょ。前世の情報いっぱいもってるんだし。

 あーこれでスッキリ。

 頼むぜチェス!!


「そういえば、えっとジャスミン様は……どうなったかな…」

「ああ。あの後、聖属性の先生のとこへ搬送された。とりあえず死んではないぜ。

てか、あんた、ジャスミンに様つける必要ないだろ」

チェスは笑った。


「あいつ、小等部の頃から色んなやつに嫌がらせしてたから、あんただけじゃないぜ。

あんたがあいつの顔、ボコボコにしたのな。アイツに今まで嫌がらせされた奴はきっと胸がスカッとしてると思うぜ」

 な!☆って軽いのりでウインクされた。


「そっか」

 チェスと話してたら、だんだん動機が収まってきた。

 クラスを見回す余裕がでてきた。


「リーブス公爵令嬢、話しかけても~?」

 気がつくと傍に、ふんわりした白茶の髪を三つ編みにやっぱり分厚いメガネの女の子が立ってた。

 メガネ率高いな!


「ど、どうぞ。あの、プラムでいいですよ」

「わかりました~。プラム様、大丈夫ですかー? 昨日はびっくりしましたよ~」

「えっと大丈夫です…」


「そうですか~。よかった~。あ、わたくし、副委員長に任命されましたオリビア=フラグラントです。ちなみに伯爵家です。オリビアって気軽に呼んで下さい、さん付けもいらないですからね~。

ちなみにじゃんけんで負けて任命されました~☆」

「じゃんけん!? このクラス、意外とノリがいいね!?」


 貴族の係決定とか、めっちゃ議論吟味、また家柄重視とかして時間かけて決めるイメージだよ!?


「あはは~。実はー。クソ……じゃなかったジャスミンが搬送されてから、クラスはお祭り騒ぎでしたあ~。はい」


 今、どっかで聞いたフレーズが……!

 ていうか。


「お祭り騒ぎ!?」

「ほい」


 パン☆


 いきなりオリビア令嬢がクラッカーを三つくらい同時に私に向けて鳴らした。

「ふぁっ……!?」

 私はクラッカーから出てきたテープと紙吹雪だらけになった。


「あはははは!」

 パン☆

 チェスが笑って、オリビアに続いてクラッカーを私に向けて鳴らした。

 それを合図に教室中から、クラッカーが私に向けて発射された。


「うぁえああ!?」


 結構な爆音だよ!?

 クラス中が爆笑してる。


「ひゃー、さすがに火薬臭くなりました~」

 私の前に立っていたオリビアもテープまみれになっている。


「うわー、ちょっとこりゃひでぇな」

 同じくチェスが自分に絡まった紙テープを四苦八苦してとってる。

 クラス中が全部そんなかんじになった。


「あら~美人さんが台無しですねぇ~」

 オリビアはそう言いながら、自分のよりも私のテープを丁寧に取ってくれてる。

「えっと、これは……一体」

 気づくとクラス中の皆がこっちをノリのいい笑顔で見ている。


「このクラスはな。あんた以外全員小等部から一緒なんだよ。

クソ……じゃなかったジャスミンも含めてな。

あんたは転校生みたいなもん。よろしくな、プラム様」


「よろしくです~」

 チェスとオリヴィアがそういうと、クラスの皆も口々にヨロシクヨロシクと挨拶してくれた。

 私はいっきに緊張がほぐれた。


 そして私は目に涙をためながら、力いっぱい叫んだのだった。



 「プラム=リーブスです!!!よろしくお願いします!!!」


 そして歓迎の拍手が教室に響き渡ったのだった。



※※※※※


「良かったじゃないか」

 ブラウニーがサンドイッチの包みを開きながら言った。

 リーブス家のプライベートルームで二人でお昼を今、食べてる。


「みっ」

 マロがサンドイッチを欲しそうにしている。

「マロ、これ食べてみる?」

 部屋に置かれていたお菓子の瓶からマカロンを取り出して、私はマロにあげてみた。


「……み」

「み!み!」

ひっくり返ってほっぺたらしき所を抑えてバタバタした!

 一瞬喉でもつまらせたのかと思ってびっくりしたよ!

 ……めちゃくちゃお口に合ったようだ。

 あとでお土産に包んであげよう。

 モチに食べさせてやりたい。

 半年間一緒だったからモチが直ぐ側にいないのが最近とても寂しい。


「……うん、まさかあんなノリで歓迎してもらえるとは思わなかった…」

 私は思い出して少し頬が赤くなった。

 とても嬉しいの。


「良い奴らじゃないか。

小等部から一緒ってことは、気心知れてるんだろうな」

「うん……、そう言ってた」


「ああ、そうだプラム。明日の昼飯だけど、クラスの奴らと行ってきていいか。食堂。」

「ん? いいよ。そうだよね、クラスの同級生とも交流しないとね。私もクラスの友達と一緒に食べてみようかな?」

 多分入れてくれそう。


「おう。いいんじゃないか?せっかく同じ年齡の奴らといるんだし。放課後は必ず向えに行く。殿下のプライベートルームの扉の真ん前に立っててやるよ」

 ブラウニーは笑いながら言った。


「ほんと? 嬉しい!」

「……殿下がお前に興味持っちまってるからな。オレとしてもあまり隙は作りたくない。婚約者がきっちりしてるところを見せておかないとな」

 そういうとブラウニーは私の口に千切ったサンドイッチを入れた。

「ほふふい」

 おいしい。

「食べ終わってから喋れ」

 ブラウニーが食べさせたくせに!!


「これ、アドルフさんが作ったサンドイッチだぞ」

「アドルフさん、最初は父叔父否定してたのに、お父さんしてくれてるよねぇ。……いやお母さん?」

「もう最近どっちかわからねぇよ、あの人」

「あはは」

 そんな風に和やかなランチを取った。

 昨日のことが嘘みたいだった。

 このまま和やかに3年間過ごしたい。



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