第20話 ■ Visitors ■


 今日は、ココリーネ嬢がライラック殿下を伴って私の部屋へやってきた。

 ライラック殿下は15歳で、学園に入ったら三つ上の先輩になるそうだ。

 ちなみに皇太子殿下はそのひとつ上で16歳。


「ごきげんよう、プラム。封印の点検を殿下にしていただくから、そこへ座りなさいですの」


 確かアドルフさん言うには、めちゃくちゃ忙しい王子様だったはずだけど……ココリーネにこき使われてない?


「……ライラック殿下、ココリーネ様にご挨拶致します」

と、カーテシーして、私は大人しく椅子に座る。


「プラム、手袋をとってくれるかな?」

 研究所の制服姿のライラック殿下が言った。


「はい」

 封印の印が見苦しいから、と夏なのにすっごい長い丈の手袋をさせられてる。

 オペラグローブとかいうやつ。

 これ、もうすぐ行く学院とかもずっとこの手袋なの? やだな……。


「……うん、大丈夫だよココリーネ。次はまた半年後くらいかな。……君のためならいつでも来るけどね」

「ふふっ。まあ、殿下ったら……」


「……」

 私はひたすら無言だ。

 発言を許すって言われないと喋っちゃいけない。

 ……喋りたくないから、逆に助かるけど。


「ねえ、ココリーネ。この子は本当に兄上が気に入ると思うかい?」

「もちろんですの…わたくし、夢でみましたの……そうしたら、わたくし達、その……」

 ココリーネは頬を染めて、ライラック殿下から目をそらす。

 なかなかの演技力ですね。

 そんな事、かけらも思ってないくせに……。


「僕たちが婚約できるんだろ? ……じゃあこの子には頑張ってもらわないとね。よろしくねプラム」

「……(コク)」

 私は黙って頷いた。心の中は……


 けっっ!!!騙されてやんの!!!


 と反吐を吐いてるけど。


「そういえば先日、リンデン様が……プラムに会って、ブラウニーさんの事をこないだうるさく聞かれましたの。会いに行ったり余計なことをしないか心配ですの」

不安そうにぶりっ子するココリーネ嬢。


 ブラウニーと聞いて、私の心臓がちょっとドキリ、とする。

 だめだめ、平常心、平常心。


「リンデンか、困ったものだね。まあでもリンデンは放っておいても害にはならないんじゃないかな。

安心してココリーネ。それにしても、笑いの師匠ってなんなんだい?

そのブラウニーは一度見たことあるけど、そういう子には見えなかったけどね。

君の元彼だったかな?おもしろいね? ……あ、そうか、喋っていいよ、プラム」


 ブラウニーはそういう子じゃないです!!! 元彼でもないです!! 今彼です!!! 永久オンリー彼です!!!


 そしてリンデンも見下されてるなぁ……。多分あの天然ほわほわな性格のせいだと思うけど。


「プラム?」

「あ……、申し訳ありません、そうですね、一度ブラウニー……にはお会いになってますね」

 私は少し見上げて、ライラック殿下に返事した。

 喋って良いって言われても、話すこと別にないわよ。


 ライラック殿下はメガネをくいっとしたあと、私をじーっと見た。なんでそんな見るの。

「プラム、兄上は聡明な女性が好きなんだよ、ココリーネのようにね」

 聡明ってそういう言葉だったっけ、私間違えて覚えてたかな!

「はい、頑張ります」


「兄上が堕落すれば……ココリーネ、僕たちが次世代の実権を握れる。一緒にがんばっていこう」

 そして、ココリーネの手を握る殿下。

 うわーーーーー後継者争いからんでるぅーーーーー!!


 こんな秘密知りたくなかった!!!

 私の部屋で、私の前で、そんな話ししないで!


「うふふっ。では、殿下、そろそろ参りましょうですの。美味しいお茶が手に入りましたの!」

 ココリーネは殿下の言葉にイエスとは言わず、腕を絡めた。

 多分彼女も心の中は反吐でいっぱいなんだろうな。


「そうかい? じゃあ、プラム、またね……」


 二人が出て言ってホッとしたのもつかの間。

 すぐにノックされた。


「やあ、プラム、すまない。忘れ物をしてね」

 ライラック殿下が戻ってきて遠慮なく部屋へ入ってきた。


「あったあった」

 テーブルの上にあった封印用のツールを手にした。

 私は頭を下げて、黙っていた。が。


「ねえ、プラム」

 いきなり殿下に顎を持たれて、顔をじっと見られた。

「っ!?」


「……さっきの話し聞いたよね?」

「……は……い」


 な、なんだ……秘密を知ったから最終的に殺すとか言われるのかな、と思ったら。

「僕が覇権を握った暁には…君も側妃にしてあげる。君は兄上に献上するには正直もったいないなって。……楽しみにしててね」

とにっこり笑った。

 …は?


「じゃ、そういう事で」

 今度こそ殿下は出ていった。

 私は頭を抱えた。


 ココリーネええ、こいつクズだよおおおお!!! 知ってるかもしれないけど!!


※※※


 その後、私は寝るまで刺繍をして過ごした。

 チクチク。

 クローバーの髪留めを刺繍した。

 その横にブラウニーの帽子、アドルフさんの眼帯……。

 ……帰りたい。


 結構夜更かししてしまった。

 目にクマつくっても怒られるんだよなぁ、教育係に……。

 そろそろ寝ようかと、針を片付けていたら、バルコニーで何か音がした。


「みっ」

 モチが飛びだしてバルコニーに飛んでった。

「ちょ、ちょっとモチ…………あ……」


「プラムか……?」

 ――小声で名前を呼ばれた。

 あ、アドルフさんだ……! バルコニーにアドルフさんがいる……!

 ……え、なんで!?


 アドルフさんは、ちょっと呆然としてこっちを見ている。

「ア…!!」

 アドルフさんは素早く私の口を塞いで、バルコニーを締めた。

「しーっ」


 私は、頷いた後、抱きついて泣いた。

「アドルフさん……アドルフさん……!!」

「……いや、びっくりしたな。場所が特定できたから様子を見に来たんだが。随分と見違えた、な、と」


「(ぐしぐし)……髪とか伸ばさなきゃいけなくて……髪がこの色じゃなきゃ、他人に見えるかも?」

「いや、プラムはプラムだ。良い意味で言ったんだ。……半年でちょっと背も伸びたか?」

 アドルフさんは私の涙を拭って、そのまま私の顔をじーっと見た。


 ???


「(正直、心底驚いた……もともと容姿の良い娘とは思ってたが、半年会わなかっただけで随分と綺麗になった。やばいなこれは……)」


「背は……のびたかな? ヒール履かされてるからよくわからないや。……アドルフさん?」


「あ、いや。すまん。……元気か?」

「……ちっとも元気じゃないよ。帰りたいよ……迎えに来てくれたんだよね? ブラウニーは?」


「あ、いや、すまんが今日は様子を見に来ただけだ。今はまだ帰っても解決しないことはわかるよな?」

 私はしょんぼりしたが、それは理解できるので仕方なく頷いた。

 そんな事したらココリーネのことだから、ヒース領に、私達に何するかわからない。


「ホントはブラウニーを寄越してやりたかったんだが……ブラウニーもここ半年、荒れててな。

もし見張りに見つかったりしたら荒ぶって暴れかねないから、無理やり納得させておいてきた。すまんがオレで我慢しておくれ……娘よ……」


 ブラウニー……私が捕まったばっかりに……ストレス貯めさせてごめん、ごめんね……。

 アドルフさんも、そんな事言わないで。


「そんな事ないよ! 会いたかった! アドルフさんにもすっごく、すっごく会いたかったんだから!」

 ぎゅっと抱きついたアドルフさんからは、相変わらずブラウニーに似た匂いがする。落ち着く……。


「そうか、オレのことも忘れないでくれたか」

 アドルフさんは笑顔で頭をなでて、私をなだめてくれた。


「当たり前だよー!! うわーん、おとうさーん!!」

 ううう、この手を放したくない……。

「おとうさんは禁……まあ今日はいいか」

「え、いいんだ!」


「うん、まあ……お父さんとしての自覚を持っていかないといかないな、とちょっと思ったわけデス。これからのぼくは」

アドルフさんは少し目を反らしながら言った。


「何それ、変なの」

私は少し笑った。


「それにしても、数ヶ月もほったらかしになってごめんな……ちょっとライフラインまで絶たれて手も足もでなくなってなぁ」

ブラウニーとアドルフさん側の事情も聞いた。


「えげつない……」

ココリーネ、狡猾だな……。

そりゃそんな事されたら助けにこれないよね。むしろよく状況が好転したもんだと思う。


「公爵家に連れて行かれたのはわかってたんだが、魔力反応あったら公爵家なんて、すぐバレるだろうし広いから、お前がどこにいるか特定できないと難しくてな。

ただでさえ兵士がうろついてるし、あのエルフが厄介だと思ってたし……せめて見取り図でも手に入れたかったんだが、情報屋も公爵家から手を回されて……と、言い訳ばっかだな、おじさん」


 アドルフさんは困ったように頭をかいた。

 私は首を横に振った。

 ……すっごく大変だったんだ。


 そして私も自分の状況をアドルフさんに説明した。

 リンデンやギンコには言えない、ココリーネが前世男って話をしたあたりでアドルフさんは頭を抱えた。


「……うっわ、まじか偉いなプラム、よくぞそれで心を保った。うわぁ、これはブラウニーに話したら……アイツ間違いなくキレ散らかしてここに単独攻め込みかねないわ。公爵令嬢殺人事件起こしかねないわ。

ああ、でもアイツ、隠しても気づくからなぁ~オレ聞き出されるかも……妙に鋭いんだよあいつ……ぶらうにーこわい……」


 アドルフさん、おまえもか。


「あ……うん、言わない方が良いことも聞き出してくるよね。私もすぐバレる……(震え)」

「「ぶらうにーこわい……」」


 二人で声がそろって、二人で少し笑った。

 こんなの久しぶりだ。嬉しくてまた泣きそう。


「…アドルフさん、巻き込んでごめんね。ブラウニーと私を引き取らなければ、こんな……」

 アドルフさんは真面目な顔になって首を横に振った。


「ストップ。まだ家族になって日が浅いしな。そう思いたくもなるよな。……でもな。

お前らを引き取るって決めたのはオレの責任だし、決めた以上はなにがあろうと家族だ。

オレはお前たちが既に大切なんだよ。

お前達がオレを必要だと言ってくれる限り、オレはお前達とずっといるってもう決めているんだ」


 『お前がオレを好きだと言ってくれる限り、オレはお前とずっといるって決めているんだ』


「……?」

 ふと、アドルフさんとブラウニーが被って見えた。


「オレはお前らといて楽しいぞ。家族とか久しぶりにできたからな」

 アドルフさんが私の頭をなでながら優しく微笑む。


「……」

私はさらにギュッと抱きついた。

嬉しすぎて、何も言えない。


「……ごめんな、もう少しここで待っててくれ。今度こそ絶対迎えにくるから。

 モチはまた置いてくから心の拠り所にしてくれ。モチ、プラムを頼むぞ」


「み」

 モチが私の頭に乗ってきた。

 私はコクリと頷いた。

「み…、みっ」

 マロも私の肩にのって、頬ずりしてきた。

「あ、マロ…マロも久しぶりだったね……会いたかったよ」

 私は人差し指でマロの頭をなでなでした。


「さてと、プラム。これからの事だが。

リンデン坊っちゃんがうちに来たのは知ってるな?」

「うん、行くって言ってた」


「要点だけ言うぞ。お前は一度オレの籍から抜いて、リーブス公爵家の養子になる」

「今、私達は家族っていいましたよね!? いきなり捨てられた!?」

 すごく重い話ししたばっかだよ!!!


「ははは! すまんな。いや、だから、お前はそこから、うちの息子に嫁げばいいんだよ」

「とつぐ」

「そう、それで元通り。大体いまは違法な拉致監禁状態だ。ヒース男爵家の力が弱いから揉み潰せてるだけに過ぎない。お前がリーブス公爵家の令嬢になれば、こっちは合法的に取り返せるんだ、お前を」

……なるほど。


「その代わり15歳まではリーブス公爵家で教育を受けること、15歳まではブラウニーとは結婚できないことは頭にいれておいてくれ」


「……そんな事でいいの?そんな事でここを出れるなら全然いいよ!」

「なんていい子なんだ……ブラウニーとは大違……くっ」

 アドルフさんが目頭を抑えた。

 私は察した。

 ブラウニー……、相当アドルフさんに苦労かけたわね……。


「さて、それじゃそろそろ行くわ。……これ、ブラウニーから手紙だ」

「!! ありがとう」

 私は手紙を受け取った。嬉しい……その手紙に触れるだけでブラウニーをいっぱい感じる気がした。


「じゃあな」

 アドルフさんはそう言って手を振ると、壁を手でつたって、闇へ消えていった。

 こ、ここすごい高いよ!? すご!?


 ……と、いけない。

 巡回の見張りに見られたらアドルフさんが危ないや。


 私はバルコニーから引っ込んで枕元以外の明かりを消し、ベッドに腰掛けた。

 ブラウニーの手紙……まだ開いてすらいないのに、心が震えて涙が手紙に落ちた。


「……いけない。文字が滲んじゃう」

私は手紙を開いた。

そこには短く、こう書いてあった。


『アドルフさんが帰ったあと、しばらく待ってろ』


……。

……え。


「み」

ベッドの上に転がってたモチが、起き上がってバルコニーを見た。


「……あ……」

 私は立ち上がった。

 震える足でバルコニーに向かった。足がうまく動かない。


 月明かりの中に、良く知ってるシルエットが降りてきて、私の方に手を伸ばした。

 私も震える手で、手を伸ばす。指先が触れた。

 信じられないものに触れたような、そんな感覚。


 私が知っているよりも、背が以前より高くなって、見上げると顔が精悍になってて……



「プラム……」


 ブラウニーが、今にも泣きそうに顔を歪めて、苦しそうな声で私の名前を呼んだ。


「……っ」

私は彼の腕の中に飛び込んだ。



久しぶりに吸い込んだブラウニーの匂いに脳が麻痺しそうだ。


「ブラウニー……会いた った……」

震えてうまく喋れない。


「こんなに……髪が伸びるくらい、会えなかったんだな……髪が長いお前、初めて見た。……綺麗だ」

ブラウニーは私の伸びた髪を一度手ですいたあと、抱き返した。


「ほんと……?ブラウニーがそんな風に言ってくれるなら、もう切らない」

「馬鹿、おまえの好きにしろよ。ただ新鮮だったのと……少し大人っぽく感じただけだ」


「ブラウニーも背が伸びたね。前は同じくらいだったのに。

 半年くらい会わなかったらこんなに変わるんだね」


 涙を拭こうとして、腕を動かしたら、腕の封印が暗闇に僅かに光った。

 暗闇だとぼんやり光るんだよね。

「なんだよ、この腕……何されたんだよ……」

 私の腕に触れて、手の平にキスしたあと、痛ましいように見た。


「大丈夫、痛くないから。魔力を封印されてるだけ」

「痛くないって……こんなの、酷いだろ……」

私の腕をいたわるように撫でてくれる。


「ありがとう。でも大分慣れたよ。自動回復とかなくて最初辛かった。みんな大変なんだね、知らなかったよ。靴擦れとかなかなか治らなくてさ。魔力の封印で今まで知らなかった事、知ったよ」

えへへ、と笑った。


「オレ、お前を連れて行かれて、その後も何もできなかった。実は……とても自分が情けなかった」


「そんな事ないよ。私だって何もできなかった。前に言ってくれた約束、守ってくれた……」

 私はブラウニーの頬に触れて、額をくっつけた。

「プラム……」


「あのね……

 "もしお前がどこかに連れて行かれても、絶対探してやるし、連れて行こうとするやつが近づいてきても一緒に逃げてやる。

それがどんなに大変だったとしても、ずっと一緒だ。

それは絶対変わらない"…って。

 私、物覚え良いほうじゃないけど、これは一言漏らさず覚えてるの。

……確かに私はここへ連れてこられてしまったけど、連れて行かせまいと最後まで戦ってくれて一生懸命手を伸ばしてくれた……そして今、ここに来てくれた」


「お前は、連れ去られてこんな……ひどい目に合わされたのに、助けることもできなかったオレのこと好きでいてくれるんだな……」

 ブラウニーが私の腕を撫でながら涙ぐんだ。


「好き。いっぱい好きだよ。泣かないで、ブラウニーは情けなくなんかない、むしろ私のせいで辛い思いさせてる。私が普通の子ならこんな事なかったし……。ね、それに助けてもらうとしたらこれからだから」

 私は心からの笑顔を浮かべた。


「……ああ、わかった」


ブラウニーは、私の肩を掴んで、すこし私を放してじっと目を合わせてきた。

「プラム、手紙の返事だ」

「ん?」


「愛してる」

 そして口づけしてくれた。

「……っ」

 駄目だ、泣く。


 話したいことがいっぱいあるのに。

 何が話したいのかわからなくなった。

 ただ会えたことがうれしくて。言葉は感情にかき消されて、ただブラウニーに抱きつく事だけで精一杯だった。


 このまま一緒に帰れたらいいのに。

 いや……むしろ二人でどこか遠くへ消えてしまいたい。

 ふと、そんな考えがよぎる。

 遠くってどこだろうと、苦笑した。



 ――その時。部屋のドアがバン!、と開いた。



「……招待したのはアドルフ氏だけだったはずだが?」

 眉間に皺を寄せたギンコがノックもせずに部屋に入ってきた。



「………」


ぎゃーーーーーーーーーーー!(心の声)



「なっなっな……!!!!」(大赤面)

「お前……!!」(既に手にダガー)

「「みっ みっ みっ(手パタパタ)」」(謎の便乗)

 なんだろう、悪いことしてるの見つかった気分!!


 そして背後から……


「ブラウニー…お前……」

 振り返るとアドルフさんが、ブラウニーが怒ってる時と同じくらい怖い顔で立ってた。


ひぃ!


「アドルフさん顔怖!?」

「アドルフさん……帰ったはずでは」


「プラム……大丈夫だ、おじさんはプラムには怒ってないからね……。

帰ろうとしたら計測器から闇魔法の数値が反応でたから、変に思って帰ってきたんだよ! もしかしたらプラムに何かあったのかと思って!!

……おまえ、闇属性魔法組んでオレの影に潜んでついてきたな!!!」


 そういうと、アドルフさんは、ブラウニーに力いっぱいゲンコツを落とした。

 闇属性魔法!? ブラウニーそんな事できるようになったの!? というかそんな事ってできんの!? すごい!!


「……ぃって。ちょっとスクロールに式を組んでみてたのを試してみただ……って!」

 しれっと答えるブラウニーにアドルフさんがもう一回ゲンコツする。


「お前達静かにしろ。私もこの東棟周辺のシルフの動きに異変を感じたから来た。……お前、風を操るようになったのか…」

「チッ……最小限に操ったのにそれでもバレたか」

 シルフ操った!? ぶらにーぃ!?

 エセ神父いわく、あなた普通の男の子ですよね!? なんなの!? スパダリなの!? スパダリだけど!!


「ブラウニー! あれだけ、おうちでおとなしく待ってなさいって言ったでしょ!!!」

「そんな事できるわけないだろ……読みが甘いな」

 ぶ、ブラウニー?

「なんてこと……!! 産むんじゃなかった……!」

 アドルフさん…?

「あんたは産んでない、しっかりしろよ。親父」

 親子喧嘩始まった! ……あれ、ブラウニー。アドルフさんへの敬語やめたんだね。

 アドルフさん、嘆いてるわりに、ちょっと楽しそう。


「静かにしろ!! 2回目だぞ…! 一応サイレンスはかけておいたが……」

 ギンコが少し疲れたように言った。


 サイレンスってこないだもやってくれた声が漏れなくなる魔法かな。

 うーん、先程まで甘い空間だったはずなんだけどな、おかしいな。どうしてこうなった。


 そして、その刹那。

「……へえ、サイレンスかー。

ギンコ、ココリーネを裏切ったんだね」


 ――この場にいないはずの人間の声がした。


 声がしたほうを見ると、部屋の隅の闇がスーッと変化して、それはライラック殿下となった。






 ……はい?

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