第15話 ■ Surprise Attack ■
次の朝、目が冷めたら目の前にブラウニーの顔があった。
まだよく寝てる。
起こさないようにベッドを抜け出して、朝の支度をした。
うーん、お城の朝って冷えるなぁ……。寒い寒い。
朝ご飯の支度をしようと思ったけど、そういえば厨房どこだ……。
昨日はお弁当買ってきて庭で晩ごはんを食べたんだった。
アドルフさんも、久々に自分の家に帰ってきて、熟睡してるかもしんない。
起こさないようにそーっと探そう。
しかしお城なだけあって、部屋数多すぎる……。
でも、改築したってとこだけ回ればいつかは見つかるだろう。
ガーゴイルさん、私は泥棒じゃありませんよ~~。
カチャ、と目についた部屋を開けた。
「あ」
失礼しました。
アドルフさんがベッドに突っ伏すように寝てました。頭にモチが乗ってます。上半身裸です、風邪ひきますよ。おつかれです。
起こさないようにそーっと布団かけてあげようか。
「う……」
アドルフさんが苦しそうに顔を歪めて、まるで悪夢でも見ているかのようにうめき声を上げた。
念のため熱があるか見ようとしたら、ああー! バンダナと眼帯したまま寝てるよこの人!!
こういうのって家で寝る時もするもんなの?
……そういえば、この眼帯、なんでしてるのかな?
私が治せるようなものなら治してあげたいけど……。
そう思いながら、アドルフさんが一番疲労溜まってるだろうし、とりあえず癒やしを……と手をかざしたら、ハッとした感じで私の手をギュッと握って飛び起きた。
「みっ」
「わっ」
モチがベッドの上に転がって、片手を取られた私はバランスを崩して、アドルフさんの胸元に倒れ込んだ。
のわー!
上に何も着てない男性の胸に飛び込むのはさすがに心臓に悪い!
「はっ…、は………。あ…プラムか。うわ…最悪だ、これは、すまん……。腕は平気か?」
アドルフさんはすぐに私を立たせてくれた。
「あ、腕は全然平気。私もごめんなさい、勝手に部屋はいって。ちょっと間違えちゃって。すぐ出ようと思ったんだけど、アドルフさんがうなされてたから心配になって、癒やしかけようと……」
「いや、全然構わないぞ。すまんな、心配かけて。おじさんは大丈夫だぞ」
自分の髪をくしゃっとして微笑んだ。
私はちょっとドキっとした。
朝日の逆光に照らされたアドルフさんは、なんていうか…ちょっと魅せられる。
改めて目に入ったアドルフさんの引き締まった身体には古傷でいっぱいだった。
……この人、かっこいいな。
ブラウニー以外の異性にドキッとしたのは初めてかも知れない。
これは勘違いしないでほしいから言うんですけどね、郡をぬいて美しく咲いた花を見たって感覚なんですよね。
ついなんとなくエセ神父のマネしてしまった。
それにしても、自分ではおじさんってよく言うけど、何歳なのかしら。どちらかっていうとまだお兄さん寄りだよね、この人。
ホントになんで彼女できなry
「で、どした?どこ行きたかったんだ?」
「厨房に行きたかったんですけど」
「おう、飯作ってくれんのかな。オレも作ろう。一緒に行くわ。…顔だけ洗うからちょっと待っててくれ……あ、眼帯したまま寝てたのかオレ……」
成る程、外し忘れだったのね……。お疲れ様です。
眼帯とバンダナを外すと、すぐにさらりと銀髪が落ちて右目が隠れる。
……そういえば、ブラウニーの目の色とアドルフさんの左目の色、そっくりだな……。
目の形も似てる気がする……とか思ったら、顔も喋り方も似ている気がしてきた。
ブラウニーが大人になったらこんな感じ? まさか血繋がってたりしないよね。
……アドルフさんに妙に親近感湧くのって、これが原因かしら。
「そういえば、アドルフさん、右目はどうしたの?」
「ん? ああ、オレも知らないんだよ。子供の頃、このヒースで保護された時には既に無かったんだよ」
「な、ない?怪我とかじゃなくて?」
「おう。今は義眼いれてる。肩凝るんだよなぁ」
あとで肩もみますね。
「『絶対圏』を使わずに欠損の怪我とか失った記憶とか……いつか治せるかなぁ」
『絶対圏』はきっと思うままに色々できる。
けど、それを使わずに普通の聖魔法だけで色々しよう、となると勉強がかなり必要そうだ……。
「はは、親孝行してくれるつもり満々だな。別にこのままでいいから気にしないでくれ。
それに欠損や記憶の再生は結構難しいらしいぞ。えーっと……確か欠損の方は基本的には失った部分が必要だったような。……あまり魔法使おうとすると、厄介な奴らに見つかるぞ」
頭をポンポンされた。
「う、うん」
そうだった。……でも、恩返しとかしたいんだけどな。
でも当人が必要ないっていうなら、他のことで何かするしかないなぁ。
「厨房はここだ」
アドルフさんに連れられて、厨房へやってきた。
うわ、広い。
キッチン部分とカウンター挟んだ向こうは、壊れまくったイーティングスペースが見えた。
昔はたくさんの人がここで食事したんだろうな……。
「っと、昨日食料ここに放り込んだままだったな。ちょっとパントリーに並べるわ」
見ると、床の上に昨日買った食料が無造作に置かれてる。
「あ、私やります」
「……」
アドルフさんがこっちをじっと見た。
「?」
「昨日ブラウニーにも言ったから、おじさん察してくれたと思ってたんだけど、プラム、お前も敬語やめていけよ」
デコピンされた。痛っ。
「お、おおおう」
「すまん、ちょっと強かったか」
「ひ、酷いよ、お、おとうさん……!」
「お父さんは禁止だ!!」
私とアドルフさんはそこでひとしきり笑った――ところで。
リーンリーン……
「え、なんの音?」
「うお、珍しい。来客だ。てか、昨日の今日とか、確実にお前関連だろうなぁ。やべ、オレいま丸腰だわ」
ええ……。
「プラム、お前はここにいろ。モチ、ブラウニーを起こしてここに連れてこい」
「みっ」
そういうとアドルフさんとモチは厨房を出て行ってしまい、しばらくすると、寝癖がついたブラウニーが血相かえて厨房に滑り込んできた。
「寝坊した、ごめん」
「ううん、疲れとってほしくて私も起こさなかった。おはよ、ブラウニー」
「おはよ」
ブラウニーが頬にキスしてくれた。こんな時にって思うけども……う、うれしい。なんか新婚さんみたいだ。
私も頬にキスを返した。
私はただ、こういう日常が欲しいだけなんだけどな……。
「みっみっみ」
ブラウニーの頭でマロとモチがはねてる。
「マロもおはよ。モチ、ブラウニー連れてきてくれてありがとう」
「みー」
モチが私の肩に乗ってきた。
可愛い…。私は頬ずりした。
「入るぞ」
アドルフさんも、急いだ感じで戻ってきた。
「おかえりなさい」
「アドルフさん、おはよう」
「おう、ただいま。ブラウニーおはよう」
アドルフさんは一通の手紙を手に持っている。
すごく綺麗な封筒で、赤い封蝋が施されている。
そしてアドルフさんは、ついさっきまでタンクトップ姿だったのに、既に昨日までと同じ装備になってる。整えるのはや。
「プラム、ブルボンス公爵家の令嬢からお前に手紙だ……郵便屋が返事しないと帰らないって言ってるから、取り急ぎ読んでくれ。というか郵便屋がなんかあやしい。とりあえず応接室に上手いこと言って閉じ込めては来たが、急いで逃げる準備をしたほうがいいかもしれん」
アドルフさんが封筒をビリっと破って中身を渡してくれた。
「え、郵便屋さんが? うわ……何が書いてあるのかな……怖」
ブラウニーが深い溜め息をついた。
「……手紙だけ見たら、オレ、荷物かき集めてくる。アドルフさん、こいつ少しの間頼んでいいですか。最悪マロで追いかけますから危なそうなら先に逃げてください」
「んー、とりあえず手紙だけはササっと読んで方向性を決めよう」
「い、急いで読むね……読みたくないけど」
私は手紙を広げて読んだ。
『拝啓 プラム=ヒース様』
『初春の候、プラム様におかれましては、
ますますご健勝の事とお喜び申し上げます。
先日、教会へお伺いしたところ、
すでにご卒業されたとの事でびっくり致しました。
まだまだお話したいことがありましたのに、
どちらへ旅立たれたのかと心配しておりました。
思いかけず役所への貴女様の提出書類を目にしましたので、
取り急ぎお手紙したためました。
提出書類の日付と、貴女様がご卒業された日にちが、
異なっているように思いますが
わたくしの勘違いでしょうか?』
「うわ……書類提出したの昨日よね!?」 私驚愕。どうやって調べた。
「いやみったらしい脅しだな……」 ブラウニーから不穏な空気。
「情報収集力すげーな。さすが公爵家……」 アドルフさんは言葉だけは感心している。
『つきましては、公爵家にいらしていただけないでしょうか?
珍しい茶菓子などご用意して楽しみにお待ちしております。
もしいらっしゃってくださらないなら、妙な噂が流れるかもしれませんね
ヒース領地に、桃色の髪の聖女が隠れている、などと。
それではお目にかかれますこと、楽しみにしております。
我が公爵家の精鋭が出張がすることがありませんよう……
では、ヒース男爵家の今年一年のご多幸をお祈りいたしております。 敬具
※追伸 ご招待はプラム様のみとなります。
他の方の同行はご遠慮くださいませ』
「うああああ。人の心が感じられない…!」 私涙目。
「クソが。プラムを拉致る気満々じゃねえか、誰が行かせるか!」 スパダリ神は激おこ。
「この子なんなの……?公爵令嬢ってこんな手紙の書き方すんの? 怖…」 アドルフさんドン引き。
「ココリーネ嬢、こんな人だったっけ、もっと純粋で可愛らしい感じの……」
「これが本性だろ」
「公爵家に逆らえる強カードはねぇな……」
「……そうなっても、プラムを行かせるわけにはいかない」
ブラウニーが手紙を睨んでいる。
「……うーん、外国へ逃げるか? いや、このぶんだとそれも読まれてるだろうな…」
アドルフさんが眉間をもんだ。
また二人を悩ませてる。なんとか平和的解決はないのかしら……。
「だいたい、話しはどうせ平行線になるだろうし。彼女の希望は私が何したって力になれないと思うんだけどな……」
「えっと、たしか第一王子と結婚したくないんだっけか」
アドルフさんの問いに私は頷いた。
「私が彼女と同じ学院にいくっていうのが落とし所な気がするけど……彼女は多分私に第一王子と最終的に結婚してもらいたいんだと思……」
「ふざけるな……」
ブラウニーが地の底から出るような声で言った。
やっと今日から日常生活に入れると思ってたのに……。
ブラウニーもアドルフさんもすごく疲れてるはずだ。
よし、ここは私が動かなきゃ。
「多分殺されるわけでもないし…私、行って今度こそ断りを……」
ドゴオオオオオオオン!!
――その時、エントランスのほうで何かが爆発する音がした。
そして、その後続いて爆音が、ドン、ドン! と正確に厨房の方へ近づいてくる。
うわあ! すごい音してる!
「あいつ! 応接室のドア壊しやがったな! 返事くらい待てないのかよ! おうち壊したらおじさん泣いちゃうぞ!」
「こ、この連続してるこの音なに!?」
「ガーゴイルが追跡して攻撃してる音だ! 早い! 来るぞ!」
「アドルフさん、やっぱりオレこいつつれて2Fへ退避します」
「プラム、ブラウニー、パントリーに隠し階段が――」
バン!!!!!
厨房の扉が開いて、制服姿の長身の男が滑るように侵入してきた。
室内なのに、ざあっと風が吹き込む。
何!? この人、宙に浮いてる!
「――見つけた」
男はそう言うと私を冷たい瞳で見据え、被っていた郵便局員の帽子を投げ捨てた。
薄黄緑色の長い髪が広がる。
……うっわ、顔が綺麗……というか、整いすぎて逆に怖い!!
そして耳長い!?
「な……エルフ!?」
ブラウニーが驚愕する。
「は……? 来るの早すぎだろ! くそ、風の精霊……厄介な!」
エルフ! 最近なんか聞いたやつ! ……か、風の精霊!?なにそれ!!!
ああああ、専門用語(実はかつて習った事がある)についていけない!
かつての船こいでた自分を殴りたい。いやだって田舎の日常生活には関係なかったし!!!
「シルフ、巻き起こせ」
男が冷酷な口調でそう言うと、厨房の中に風が吹き荒れた。
――空中に何かいる、風の精霊ってやつなのかな――私がそれを目で追った次の瞬間、
「ああっ?」
私は体がふわっと浮かびあがった。
「プラム!」
ブラウニーが私の手を掴んだ。
エルフがその掴んだ手に風をまとった手刀をおろして、私達を分断した。
「うぁっ!!」
ブラウニーが痛みに顔を歪めた。
「みーっ」
ブラウニーが風に吹き飛ばされて、厨房の壁に衝突――するかと思った時、
「ブラウニー!!!」
アドルフさんがブラウニーを受け止め、身を挺してその衝撃から庇った。
「みッ! みっ!」
マロがポロッとブラウニーから落ちて、厨房の床に転々と転がる。
「……ぐ…ッッ!」
「アドルフさん……!」
アドルフさんが、すばやく身を起こそうとして、脇腹の上を抑えた。
肋(あばら)をやられてる!?
だめ、ちょっと距離がある。
回復魔法を拡張して、癒そうとした時、私は風にあっというまに攫われてエルフに抱き抱えられた。
「ちょっと!?」
「手紙は読んだな? ――ココリーネがお前を待っている」
「プラム! 触んなこの野郎!」
「プラム……!!」
二人が叫ぶ。
ブラウニーがダガーを投げようとしたところ、アドルフさんが止める。
「こら……っブラウニー!! プラムに当たったらどうすんだ!!」
「そんなドジしない……ッ」
「冷静になれ! ここじゃ投擲は駄目だ、風で命中が逸らされる!」
何かあっても魔力変換で受けるから、気にしないで!!!と言おうとした所、エルフを追ってきたガーゴイルが一匹こちらに向かってきて、口を開いた。中に無数の鉄のつぶてが見える。
あ、こっちに発射する!
私は魔力変換で身を守ろうとしたけど――
「【Parking】、ガーゴイル!」
アドルフさんが叫ぶと、ガーゴイルは飛行をやめて、部屋の隅にとどまって石化した。
そのままアドルフさんは、すぐさま次の行動に移る。
懐から小瓶と紫色に光る小石を出して床に投げた。土と雑草が広範囲に散らばる。……土!?
「〚プラントバインド 02〛!!!」
アドルフさんはその上に手をついて命令するように叫んだ。
アドルフさんの指の隙間から――紫色の光が浮かび上がったかと思うと、雑草が起き上がり、またたく間に蔦となってエルフと私に絡みつかせた。
そして、私をエルフから引き剥がした。
アドルフさんすご!?
「なっ……。ドライアドとノームに錬金術で細かなオーダーを……邪道な。シルフ、切れ!」
エルフがまた風を起こす。
蔦は細かく裁断されてく。
「あっ」
私の蔦も切られた。落ちる……かと思ったら、風で浮かされてるから落ちない。
落ちたほうがマシだった! 地に足がつかないって何もできない!
エルフがこっち見た……いやだ!!
「……くそ、風は相性最悪だ…!」
アドルフさんが、痛みに顔を歪めながら、私のところへ走る。
エルフとアドルフさんが同時に私に手を伸ばす。
「マロ!!【Glider】【Fly】!……くそ、ここじゃ場所が狭い!!」
「みっ」
突如、ブラウニーとマロの声がして、ブラウニーが私を攫うように二人の間を飛び抜けた。
片腕で私をギュッと抱き寄せられる。手がわずかに震えてる。ああ、さっき風の手刀を落とされたから……。見なくてもわかる、きっとすごく腫れてる。……そうだ、アドルフさんはもっとひどい!
私はハッとして拡張回復をかけた。
ああ、なんでもっと早く気が付かないの。
「サンキュ」
少し笑顔してブラウニーが言った。
アドルフさんは、目が合うと笑顔で頷いた。
「ブラウニー、外にはでるなよ。ここは場所が悪いが、外に逃げたら風属性の思うつぼだ。秒でプラムを連れてかれるぞ」
「わかってます……!」
マロは、さすが飛竜の要素がある、といった感じで、私達をのせても風にうまく対応して、マロが跳ぶには狭い食堂をけっこうな速度で旋回する。
心臓が早鐘を打って身体が震えるつもりないのに震えてる。
私、この中で一番強い力を持ってるはずなのに……この間の教会みたいにまた動けないでいる。
どうやったらアドルフさんやブラウニーみたいに機転を効かせて動けるの。
「邪悪な……なんだそのキメラは。これだから錬金術師は」
エルフの顔が憎悪を浮かべる。
マロを邪悪扱い!? この人ひどい!
「はいはい、ナチュラル派のエルフさんに嫌われてるのは知ってますよ! ……だが、奇襲は失敗のようだな? 今日のところは帰ったらどうだ。ちゃんと玄関から出てけよー!」
ダメージから回復したアドルフさんは、小指で耳の穴をほじって、フッとエルフの方へ向けて息を拭いた。
「そういう訳にもいかない。私はその少女を連れて帰らないといけない。しかも、このような私に有利な土地で逃げ帰るなどココリーネに顔向けができない」
「確かに、ここはシルフが大量に吹き抜けてんな。だが大地も広がってんだ……」
「死んだ大地だがな」
「うっせーよ」
何の話してるんだろう。
ただ、ヒースがとぼされているのはわかって、ますます嫌な感じだ、と思った。
ブラウニーがこそっと私の耳元で囁く。
「こいつ……攻略対象ってやつじゃないのか?」
「あ、たしかに……ココリーネ嬢のこと、呼び捨てだし、親しそうだし……?」
ハーレムの一員さんかな。
「……なにか、感じたりするのか?その、好感とか……惹かれる、とか」
目を反らし気味にブラウニーが聞いてきた。やだ、可愛い。
「ううん……顔が綺麗な人だなとは思うけど、なんにも、からっきし……興味もなければ魅力も感じないよ……」
ブラウニーにギュッと抱きついた。
「そか」
ブラウニーも私を抱き返す。幸せ。
「聞 こ え て る が ?」
エルフがイラっとした顔で区切って言ってきた。
あ、この人、クールそうに見えてスルーできないタイプだな。
「おまえら…ホント、どこでもいつでもいちゃつくのな……」
アドルフさんが呆れている!
「し、失礼しました……」
「悪いことはしてませんが?」
しれっとブラウニー。
「「TPOを考えろ!!!!」」
エルフとアドルフさんの二人の声がピッタリ合った。
「……!」
アドルフさんとエルフは一瞬顔を見合わせたが、気まずい感じですぐ目を反らした。
「何がTPOだ。他人(ヒト)の家をあちこちぶっ壊しやがって。帰れ!」
ブラウニーがエルフを睨みつけた。
「あ! そうだ!! 修理代請求するからな!! 公爵家に!!! そしてカエレ!!」
アドルフさんが指さしてビシっという。
「…そうよ! こんな可愛いマロのこと邪悪だなんていうし! マロに謝ってから帰って!」
「みっ! みっ!」(カエレカエレ、な感じ)
私もマロも便乗してエルフに苦情を言った。
モチもそうだそうだと言わんばかりに私の肩で手をパタパタしている。
エルフは深いため息をついて眉間をもんだ。
「帰るとも。――闇の精霊よ、光を閉ざせ」
「{ニュートラー――やべ!ブラウニー!プラムを絶対離すなよ!!」
アドルフさんとエルフの言葉が重なったが、エルフのほうが僅かに早かったらしく、慌てて自分の懐を探るのを見た、と思った瞬間、厨房は暗闇に包まれた。
「ええっ!?」
「視界を奪いやがった……!」
「――風よ、更なる力で吹き荒れろ」
暗闇にエルフの声が響き渡る。
「うわっ」「きゃあ」「みっ!!!」
荒ぶった風が巻き起こり、マロが激しく揺れる。
ブラウニーにぎゅっと抱きついて、彼も私をしっかり抱きしめていたけれど――
「うっ!?」
ブラウニーの声がうめいた、と思った時、背後から誰かに抱きすくめられ、引き剥がされた。
「あっ……!?」
「みーっ」
ガラガラガラーッ
誰かが瓦礫に突っ込んだ。多分ブラウニーだ。ひょっとしたらマロも。
「ブラウニー!?大丈夫!?」
叫んだ時、今度は窓ガラスが割れる音がして、冷たく頬を切るような風を感じて目を閉じた。
次に目を開けた時には、雪が積もった荒野が、ヒースの城が――足元に見えた。
「あ……」
ものすごく高い……!! 私は生まれて初めての高さに震え上がった。
「〚ウィルオウィスプ!!〛」
アドルフさんの声が聞こえて、厨房から光が一瞬あふれ、彼が窓から飛び出るのが見えた。
モチに乗れば、ここまでこれるだろうけど…あれ、そういえばモチは?私の肩にいたはずだけど……。
「〚プラントバインド…!!〛 ……ちっ! この魔石はもうだめだ!」
アドルフさんは魔石と言った石を投げ捨てた。近くの人工森から無数の蔦がこちらに向かってくるがエルフが片手で指示すると風がそれを切り裂いていく。
「〚プラントウォーク〛!!」
アドルフさんは、伸びてきた大量の蔦で足場を作りながら、こっちに――空へ向かって全速力で走ってくる。
アドルフさん、こんなに魔法使える人だったの!?
魔力保持者じゃないって聞いたけど……あの魔石とかいう石があれば魔法使えるの?
「この耳長!!! うちの娘を返しやがれ!」
穏やかだったアドルフさんが心底怒った顔をしている。
「……しつこいな」
「放して!!」
エルフの腕の中で、私は暴れた。
魔力変質させて……殴ることを試みたけれど――
「……無意味だな」
エルフはその風を纏わせた腕で軽く受け止めた。
ああ! この風……! この人も魔力で自分を強化してる!!
――戦い方はわからない。でも魔力量なら自信ある、もっと高めて、精錬して、強く、強く、強化してゴリ押しを――その時、
「プラム!」
マロに乗ったブラウニーが、ショートソードを手に眼前に飛び出してきた。
額と口から血を流してる!!
「ブラウニー!」
私は魔力変質を解いて、ブラウニーに回復を飛ばした。
ブラウニーはマロを蹴って空中に飛び出し、斬りかかる。
わあ!こんな高い所で飛んだら……!! と思ったらマロが旋回してきてブラウニーの足場を作った。
マロ賢(かしこ)!?
エルフは風で長細い剣を作り出して、向かってきたブラウニーの剣を受け止める。
「プラムを返せ!! クソ妖精!」
「子供がこんな無茶をするものではない」
その二人が拮抗しているところにアドルフさんが飛び込んできて、私に手を伸ばそうとする。
「おっと」
エルフは一瞬風をといて逆に急降下した。
「いやー!!」
何この感覚!落ちるって怖い!
拮抗相手を急に失いバランスを崩したブラウニーは自らそのまま空に飛び出す、
マロ!と叫んで呼び戻し、マロがブラウニーを速攻で受け止める。
アドルフさんが叫ぶ。
「こんのやろ!!〚プラントバインド〛!!」
蔦がこっちに向かうも――シルフが、風が。
次々とかまいたちのように刈り取っていく。
「マロ! 【Y00】!!!」
体勢を整えたブラウニーがマロに命令して急降下してきた。
そんなスピードで真っ逆さまに飛んだら……!!
「プラム!!」
ブラウニーが手を伸ばして落ちてくる。
「……っ」
必死で手を伸ばした。
「さて、そろそろお暇しよう――」
落下しながら、エルフは私に向かって手を振り上げた。
「『絶対圏』とやらを発動されたら困るからな」
冷たい声が聞こえて。
「……っ!?」
エルフは私の首の後ろに手刀を落とし――
「ジン、飛ばせ」
「プラムーーーーーー!!!!」
ブラウニーの悲痛な声が聞こえたのを最後に。
魔力変換が間に合わなかった私は―――そのまま気を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます