第12話 ■ Happy Paradise Lost ■
私はブラウニーが荷造りしてくれた自分の荷物をチェックしていた。
うん、さすが完璧です。
赤ちゃんの時からずっと隣で育ってるから全部私の事わかってるな……なんで持ち物全部わかるんだ……ちょっと赤面した。
いや、その言葉にしにくい女の子の荷物とかってあるじゃない?
でもこれからみんなで旅にでるっていうならそういうのは、当たり前だって思わないとね。
「ブラウニー、荷物大丈……」
「失礼しますよ、ブラウニー、プラム。荷造りは終わりましたか?」
そこへ、数日前に私とブラウニーでボコボコにしてしまった知らないおじさんが来た。
私とブラウニーは固まった。
「ああああああああ、あの、あの。先日は大変失礼おば……(カクカク」
「あなたも目が覚めたんですね。えっと……」
ぶ、ブラウニー、こ、この人は……。
ブラウニーも目をそらし気味だ。
「あ……そうか。初めまして? ワタシは初めてじゃないんだけどね? ワタシ、この教会の真の神父でケイリーと言います。いやー、君たちありがとうね、アレ追い出してくれて。10年ぶりくらいに開放されたよ」
真の神父……!
私とブラウニーは雷に撃たれたような衝撃を受けた。
はっ。そういえばシスター・イラが言ってた神父様の容姿に当てはまる!
「ずっとね、見てましたよ。何もできませんでしたけどね。ワタシ。いや、最後は死んだと思いましたね、てっきり。プラムの力ですかね? ありがとう」
ううっ!
死んでました! ごめんなさい!
私とブラウニーに謎のダメージが入る。
「……思えばプラム、捨てられていた貴女を抱き上げた時に取り憑かれたんですよね」
な。なんだってー!
もうやめて、私達のHPが!
「すすすす、すみません……?」
すいません、すいません……っうちのストーカーがすいません、……なんか新しい小説のタイトルになりそう。
「……そういえばいつから取り憑かれてたとか考える暇なかったな」
「いやー、うーん、完全に貴女のストーカーですね、アレ。すっごい見てましたよ、プラムの事。私も仕事上、魔をいくつも払ってきましたが、アレはやばいですね。うん。お父さんはアレの向こうで心配していましたよ、プラム。ブラウニー。何もできない不甲斐ないお父さんでした。 ……やっと開放されたと思ったらあなた達とすぐお別れなんてね」
優しそうにニッコリ微笑んで……温かい。
「……」
……あれ、なんだろう…初めて話すのに、すごく知ってる人のように。
「急ぎの旅でしょうから、手短に……」
ケイリー神父様は、私達を片腕ずつにそっと抱いて言った。
優しい光がふわりと浮かび上がる。
「あなた達の道行に神のお導きと幸がありますように……」
「あ……」
神父様の……祝福だ。
これは……アイツの中にいたケイリー神父様の力だったんだ……。
見るとブラウニーが神父様の服をギュッとして固まっている。
今にも泣きそうだ。
私もそうかもしれない。
ずっと見てた、と言ってくれた。
アイツに神父が務められたのも神父様から人としての情報を搾取していたのかもしれない。
「さっきも言いましたが、あなた達からしたら、ワタシは初対面ですが……ワタシからしたら可愛い子供たちです。……いつでも戻っていらっしゃい。わびしい教会ですが、お茶菓子くらいは出せますからね。……って知ってますよね。フフ」
ケイリー神父様は私とブラウニーを何回か交互にいいこいいこ、と撫でたあと、ちょっとまだしんどいからって、自室へ帰られた。
「ブラウニー…」
ブラウニーは顔を覆ってる。多分泣いてる。
「良かった……私達、失ってなかったよ……お父さん」
ブラウニーは喋らない。
多分、喋れない。
「み、……みっ」
ブラウニーがまんじゅうって言ってる白丸い子がブラウニーの左肩にいったり右肩にいったりして、まるで慰めているように動いてる。
私達はしばらく、無言でいたが、そこへガラスに何かがコツっとぶつかる音がした。
「……ん?」
窓に見に行くと、一つの紙飛行機が先端でコツッコツッと旋回してはガラスを叩いていた。
あれ、この紙飛行機……
「……アドルフさんからの『報』だ」
ぐしっと、袖で涙を拭いて、ブラウニーは窓を開けてそれを手に取った。
『ブラウニー、思ったより使者どもが早く来た』
『オレもすぐ行くから丘へ向かえ』
ブラウニーは紙飛行機にレの字を跳ねるようにペンで書き込み、それをまた窓から放った。
あ、こんな風に使うんだ。便利だな……というか、使者がもう来るって!?
「プラム、行けるな?」
「うん。大丈夫」
「この書き方だと多分もう街に使者が着いたんだと思う」
「王都からここまで10日以上かかるんじゃないっけ!?」
「多分大規模なテレポート使ったんだろ。わかるよな?テレポート。お前もやったんだから」
「お、おう……」
そんな事できるんだ…すごいな世の中の魔法技術……。
それにしてもブラウニーと私の知識量違いすぎない?
アドルフさんがとても良い師匠ってことかな……。
しかし……夕食を最後に皆で食べれるかと思ってたけど。とても残念だ。
私達は荷物を持つと、玄関に走った。
途中、ロベリオとすれ違った。
「うおっ!?」
「ロベリオ、王都の使者に見つかった。もうここに来るらしいからオレ達は行く。チビたちによろしくな」
「ええっ」
「ロベリオ! ごめん! 話あとで聞くっていってたのに! もう行かなきゃ!」
「むしろ覚えてたのかよ!?」
私の記憶力を疑っている!
ロベリオが追いついて走ってきた。
「廊下は走ったら駄目って言ってるでしょ!」
「お前がいうな!?」
「あはは……チビたちに挨拶できないでごめんって言っといて!!」
「……あとはまかせた、ロベリオ」
「ああ、がんばれよ、二人共」
「またね!」
ロベリオは足を止めて、私達に小さく手を振った。
「さようなら……」
そんな彼は、なんだかいつものクソガキじゃなくて、お兄さんぽく見えた。
――教会の扉を開け放った。
「……さようなら」
私達は飛び出し、ブラウニーは私の手を取ると、走るスピードを上げた。
わわわ。雪積もってるのに速い!!
「魔力変質して付いてこいよ。むしろオレより早く走れるならそうしろ」
「多分まだそういうの無理……ってどこ行けばいいんだっけ」
「そっか、行き先……こっちだ」
ブラウニーに連れられて、街へ行く道を外れた林を走り抜けていると、馬車や甲冑の音が聞こえた。
見ると、立派な鎧と、きらびやかな馬車の一行だった。観測所からの使者だ!
ブラウニーは私の口を塞いで、木の陰に身をひそめた。
「んっ」
え、うそ。
ここまで早かったの?
「教会に向かってるな」
――息を潜める。
「……!」
馬車が通り抜けた。馬車の中に観測所の人っぽい制服の人が数人と……
ココリーネ嬢!?
「んん」
ブラウニーが耳元で囁く。
「……こら、声だすなよ」
「ん……」
ブラウニーわかってるな。ブラウニーが口抑えてなかったら声出しちゃってたかも……。
……ひょっとして、ココリーネ嬢が通報した?
一行が遠ざかると、ブラウニーが手を放した。
「あの公爵令嬢、通報しやがったな……リンデンはいなかったな」
「……ふう。そういえば口止めのお願いとかしてなかったね。……聞いてくれなかったかもだけど」
「やっかいな交換条件だされたかもしれないから、しなくてよかった。幸い今、オレ達は逃げ出せたしな」
「さ、行くぞ。教会にはちょっと迷惑かけてしまいそうだが」
「だね。家探しぐらいはされるかもね」
「よし、行くぞ」
ブラウニーは再び私の手をとって走った。
しばらく走ると約束の丘が見えてきた。
「こっちだ」
もう少しで林を抜けると思った時、アドルフさんの声がした。
見ると、小さな洞窟があって、その中に姿が見えた。
「よしよし、ちゃんとすぐ来たな」
「アドルフさん、さっき使者が教会へ」
ブラウニーが報告する。
「ああ。家探しした後、周辺探索しはじめるだろうな。……プラム、魔法は使うなよ。魔法感知のプロ達が来てるんだ」
「わ、わかりました」
き……緊張する。
「よし、今から急いで回り道して王都方面に向かう。ほら、歩くぞー。あっちの森に入っちまえば視界が 悪いから、目立つことしなければ見つからん。そしたら夜中までは進むぞ。寝不足覚悟しろよー」
アドルフさんはとっとと歩き初めた。
「えっ、王都!?」
ブラウニーも私もなんでって顔した。
「ほらほら、歩きながらしゃべるんだぞー。確かに、王都からの使者から逃げるのになんで王都方面? ってなるよな。裏切ったわけじゃないから安心しろ。あとあくまで王都方面な。王都じゃないぞ。まあ、王都も行く必要あるんだが。……えーっと何から話すかな……。そうだな、まず目的地。オレの家にいく。オレん家」
「え、ご実家ってことですか?」
「実家……うん、まあそうだな。そこのレインツリーの街で住んでた家よか設備は整ってるからオレも仕事がやりやすいし、家は広いほうだから、お前らにも各自部屋やれるし。久しぶりに帰るから掃除は頼むぜー」
「はい、それはもちろんやりますよ」
おおー自分の部屋。……いや、ブラウニーと同室でもいいんですけry
「それでな、ついさっきお前ら二人共、オレの養子にしてきた。ホントは書類上婚姻させてから引き取りたかったんだが、おまえらまだ結婚できないしな。結婚する時に書類手続き面倒になるな」
「え」
二人で声が揃った。
「勝手なことしてすまない、だが観測所に見つかって里子みたいな軽い契約なら、それこそ役人たちの好きなようにされるからな」
「……」
「……」
「え、なんで無言おまえら。良かれと思ってやったんだが……やりすぎだったか?」
アドルフさんが焦り気味の声で言った。
ううん、そんなじゃない。
そこまで気を回してくれて嬉しい、嬉しいんだけど……
「どうしてそこまでオレ達にしてくれるんですか……。オレなんてただのインターンじゃないですか」
「うん、私だって、まだちょっとしか会ったことない……」
「……ああ、一応喜んでくれてるのか?」
私達は同時に頷いた。
特にブラウニーは嬉しそうだ。
「成り行きもあるけどな。ブラウニーは仕事の助手としても、あ~、ここ3年ほどか、すごい優秀で助かってたから手放したくなかったし、ようはお前のこと気に入ってるんだよ。もともと卒業までにオレん家への引取の相談しようとは思ってたし。なんか気が合うしな」
アドルフさんは足を止めて言った。
ブラウニーは頬を染めて照れくさそうに言った。
「そ、そうですか……ありがとうございます」
「プラムは確かに会ったばかりだけど、ブラウニーからちょくちょく話は聞いてたし……まあ、こないだのエセ神父の件でなんだか放っておけなくなってなぁ。あとブラウニーの嫁だし。家族になるのに相性の悪さ感じなかったしな。……だいいち可愛い娘ができるってのは悪くない」
嫁。
あ、そうか、私は将来ブラウニーのおよめさんなんだ……フフフフフ。
「……この娘はほんとにブラウニーが好きだな。ブラウニーの嫁って言った後の話聞いてないだろ……」
「やだ、そんな事ないですよ~。もっと言ってください、誰が、誰の嫁ですって」
「……お前ら静かにしろよ!? 逃亡中だぞ!」
……耳まで真っ赤になったブラウニーが一番大きな声だった。
「しー! しー! ……まあ、オレも拾われっ子だったしなー。なんか放っておけないってやつだな」
「え、そうなんですか?」
「オレ迷い子だったのよ。記憶なくしてフラフラしてたところ、拾われたんだ。で、親も見つからなかったしそのまま養子になった」
「記憶がない?」
ブラウニーが初耳、といった感じで聞き返した。
「そ。オレ、お前らの歳くらいかなぁ。そのくらいまでの記憶ないのよ。で拾われた家が錬金術を家業にしてる家だったもんで、そのまま家業継いだって感じか。ちょうど後継者探してたみたいだったしな」
「へえ……結構波乱万丈に生きてきたんですね」……とブラウニー。
「まあ、語るとそう感じるかもしれないけども。淡々としたもんよ? そんなわけでお前らはこれからブラウニー=ヒースとプラム=ヒースだ」
うお、ファミリーネームキター!
孤児だったから名字なかったのよ、私達。感動。
そのうち自分で考えて申請しなきゃって思ってたけど、それはファミリーネームって感じしないから……こうやって名前をもらえるって……なんか嬉しい。
「わあー、私達に名字ができたよ!ブラウニー」
「なんかくすぐったいな……慣れるのに時間がかかりそうだ。……そういえば、掃除してくれって言ってましたけど、アドルフさん、ご家族は?」
「ああ、死んだ。オレ一人暮らし。あと、うちの土地、ほぼ荒野だから貧しいからな?
オレの家の周りだけちょい森になってるけど。オレががんばって復興したから。
領民もいないし。滅びたせいで税金免除されてるのが救いだ。王都が近いのが救いでなー。買い出しは王都行くことになるから」
ああ、亡くなられたんだ……ん? 領民? 滅びた???
ブラウニーがピン、ときたって顔をした。何?何?
「あの、アドルフさん。貴方の故郷はなんて名前ですか」
「ん? お前らの名字だぞ。ヒース領。王都の傍にありながら魔王に滅ぼされ荒野と化した土地」
「まおうに」
「ほろぼされた」
魔王悪いことしてた!
「末端男爵家だけどな。お前たちは貴族っ子になったんだぞ☆」
「きぞく」
「吹けば跳ぶような男爵家だけどな。王家と神殿がうちの土地滅ぼされた時に援軍とかよこさなかったり対応が悪かったせいで負い目あんのよ。そういう時のために税金やらお布施を収めてたのもあるのになぁ。
そんなの他の領地にもモロバレだし、うちを無下に扱えないんだよ。そんな事をしたら他の領地の顰蹙と反発がねぇ。だから」
「プラムの事でなにか言われても、うちの籍入ってれば、酷いことにはならんと思う。どこの機関も聖属性囲い込みたい欲が丸出しだからなー。お前らも隠れて逃げてを繰り返すより、この方法に乗ってみないか? いやならオレから逃げるといいさ。オレは追わないから」
頬をかきながら彼は苦笑した。
「アドルフ、さん……」
「アドルフさん、お人好しすぎですよ……」
「お人好しかねぇ。そうでもないぞ、仕事の助手もしてもらうし家事も分担してもらうぞ」
「……もちろんです」
ブラウニーと私が笑顔で答える。
「オレん家ついて、一息ついたら王都の役所に自ら行こうぜ。向こうから来る前に先手を打って登録しちまおう。正当な手続きを踏んでしまえば、王都の奴らってのは強くでれないとこあるからな」
「なるほど……でもちょっと怖いですね」
私は言った。行きたくないな~…。
「確かにな。でもな、さっきも似たような事言ったが、いつまでも隠れて暮らす訳にはいかないからな、バレるよりかは堂々としてみようぜ」
「はい」
「プラム、お前は髪色にしたってそうだ。王都でもまずいないだろうな。つか、オレ今まで生きてきて見たことないし。珍しくてすぐに話題になるぞ。ずっと髪染めするわけにもいかないだろ?」
う、うん、確かに。
「話題になるっていうか……そういやプラム、おまえすぐに人垣作るよな」
ブラウニーが言った。
「……は? 人垣? 珍しいとか話題でよく聞くがそこまでとは知らなかったぞ」
「……なんかこいつ、やたら人に親切にされたりプレゼントされたりとか不自然に多いんですよ」
そうなんだよね。
髪のせいだけじゃない気がする。
「あ……。まさか。プラムちょっとそこ立て」
アドルフさんが思い当たったように何か計測器のようなものを出した。
こないだの体温計みたいなのとは違うな……。
「あ~~~~」
計測器がピピッとなってアドルフさんが額に手をあてた。
何その反応。
「これ、小型の簡単なパッシブ計測器なんだけどなぁ。あ、パッシブってわかるか? 簡単に言うと何もしてないのに勝手に発動する魔術なんだが」
あ、アイツからは習ってないなそれ。
「えっと……このパターンは……自動回復と自動魅了、か」
「魅了!?」
「他にもありそうだけど、この小型計測器じゃちょっとな。今急いでるし……お前、魅了垂れ流してるぞ……プラム。ようは、魔法で人を魅了して好かれてる事があるって事だ」
がーーーーーーーーん。
え、それ色々アイデンティティに抵触しますよ!?
「え、つまり私は今まで人に好かれてたのは……。ブラウニーが私を好きになってくれたのも?」
魔法のせい?
今まで私は魔法で人を操って、私を好きにさせてた?
ブラウニーも魔法で私が好き?それってなんて酷い話し。罪悪感で目の前が真っ白だ。
「あ、いや、待て、早とちりするな。大体初見の人や、あまり親しくない人にかなり有効ってだけで…印象が悪くないとかそういう魅了だ。あ、でもお前の魅了レベル……いや、容姿も相まって、かなり好かれやすいけれども!」
しどろもどろ! どっちだ!?
「プラム、大丈夫だ。少なくともオレはお前に魔法では魅了されてない!」
ブラウニーが両肩に手をおいて、しっかり私の瞳を見てきた。
「……もしそうだとしても、オレはそれで構わない……!」
うわーん。
そう言ってくれるのは嬉しいけど……やはり人としてルール違反をおかしているのに……ショックもあいまって素直にうん、と言えない。
「お、オレも魅力無効の対策してるから大丈夫だぞ、我が娘よ!」
アドルフさんが、私を娘扱いしてあやそうとしてくれてる……!
なんだこの人、早くも私が喜ぶポイントを掴んできている!
「それにブラウニーは魔法抵抗力が素でかなり高いから、魅了とか幻覚とか……そういう類の魔法にはかかりにくいから、大丈夫だ。安心しろ」
「魔法抵抗力?」
「なんですか、それ、オレ初めて聞きましたけど」
「ああ、いやこんな事なるまえに、ブラウニーをそろそろ魔力値高いダンジョンに連れて行こうかと思ってたんだよ。だから計測してあったんだ。……えっとな、世の中魔力持ちは限られるがな、魔法にかかりにくい人間ってのは、一般の人間の中にもいるって事だ。魔力持ちのほうが当然高いけどな」
アドルフさんは、ひっくひっく泣いてる私の頭を撫でた。
「いつのまに……言ってくださいよ」
「オレも対策だけじゃなくて魔法抵抗力はブラウニーと同じくらい高い。だからブラウニーとオレに関しては少なくとも大丈夫だ」
「……」
少し安心した。
ブラウニーがハンカチで涙を拭いてくれてる。
こういった彼の優しさも実は魅了のせいだった、……なら私はもうここで人生終了でも構わないって思ってしまうもの……。
「しかし……それな、法律違反なんだ。うわ、まじで使者来る前に出てきてよかったな。子供だし本人にもどうしようもないスキルだから……そんなに罪にはならないが、見つかったら少なくとも罪状が決まるまで牢屋行きだ」
「う!?」
「は!?」
「そりゃ、魔法使って人の気持ちを操ってる事になるし、物もらったりまでするわけだから……。大丈夫だ、たしかオレの家に魅了パッシブ遮断するアミュレットの在庫があったはずだ。なくてもそんなに作るの難しくないから作ってやる。……だからそれつけて王都へ行こう。な?」
「はい、お願いします」
ブラウニーが先に返事した。
「はい……」
しょんぼりしている私の手をブラウニーが握った。
「プラム、オレを信じろ、絶対大丈夫だから」
「ブラウニー……」
「おじさんもそこ入れてくれない!? もう家族だよね!?」
私はふふっとなって笑ったが、ブラウニーがなんか無言だった。
「……」
「ブラウニーおまえ……えぇーって顔したな……!?」
ブラウニーが小突かれてる。そして笑った。
……なんだろうこの温かい空間。
教会とはまた違う。
「さてと、森に入ったが……。ちとスピード上げるか。使者がどれだけの性能持ち合わせてるかわからないからな。プラムのパッシブ魅了、持ってきている機材か、もしくは鋭いやつなら感知するかもしれん」
「えええ」
……観測所怖い。
「みっ」
「あ……その子」
アドルフさんが自分の外套のフードから、ブラウニーが持ってたのと同じ白い子を取り出した。
「よーし、いい子だ」
「みっしゃみっしゃ……」
アドルフさんはリンゴを取り出して、その子に食べさせた。
「みっ!」
ブラウニーの白い子も気配を感じたのか飛び出てきた。帽子の中から。
そこに入れてたんだ。
「おう、お前も食うか?ほれ、ブラウニー」
「はい」
ブラウニーはリンゴを受け取って、白い子に食べさせた。
「さて、おまえ。飛んでもらうぞ。おまえもな。【Glider】」
アドルフさんは自分とブラウニーの手のひらにのっているその白い子それぞれに命令するように話しかけた。
「みっ」
「みっ」
「わわっ」
白い子たちはまるで鳥が羽を広げたようなカタチに変化した。
結構大きい… Glider(グライダー)。
「ブラウニー、できるな?」
「まだあんまり自信ないですけどね。プラム、来い」
ブラウニーは私の手をひくと、翼になった白い子の上にのせて座らせた。
「【Glider】……えっと、落ちないように後ろから抱えるから。お前もしっかりまんじゅうに捕まってろよ」
「え、え? 何するの……?」
てか、この子の名前、まんじゅうっていうの!? それはよくないんじゃない!?
「こうするんだよ!プラム!【FLY,Z01.X011,Y0251】」
アドルフさんが、まんじゅう(仮)に立膝たてて座って浮かび上がったかと思うと、
すごいスピードで木々をくぐり抜けるように飛んでいった。
後には木や草から落ちた雪がパラパラと。
「オレ達もいくぞ。【FLY,Z01.X011,Y0251】」
「えっえっ……きゃーーーっ!?」
「みーーーっ」
木がいっぱい迫ってきて、たまに茂みをぶち破ってものすごいスピードで目が回りそう。
日が暮れて、夜の闇と森が私達の姿を覆い隠す頃、私はそのスピードに慣れてきた。
迫りくる木や草が見えなくなったせいもあるかもしれないけど。
飛びっぱなしで、まんじゅうちゃんたち元気だな……。
「プラム」
「ん?」
振り返ると、ブラウニーがキスをした。
なんか最近ブラウニーのほうからのアクションが多い気がする。嬉しい。
「楽しみだな。アドルフさんの家につく頃には新年も終わりかけだろうけど、新しい年に新しい始まりだ。これからも……がんばろうな、一緒に」
「……うん!」
――私は短く返事して、幸せを噛み締めた。
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