「あの世」と「この世」

瀬戸口 大河

「あの世」と「この世」

 僕は目を覚ました。長い眠りの中にいたはずなのに一瞬のようにも感じる。辺りを見回すと真っ白な空間にいる。水の中を彷徨うアメーバのようにぷかぷかと浮いている。身体も何もない。

 ただ何もない空間で浮いたままだ。いつもならこのままもう一度眠りに落ちてしまうが何かがおかしい。

 そう僕には「記憶」がある。夢の中で見た。一面の空間の色が「白」と呼ばれていることも理解できる。

 僕は夢の中で何をしたのか。日本という国に生まれ日が上り沈むサイクルを24時間、つまり1日。それを365日繰り返すと1年と定義された世界を76年過ごし老に負けたのだ。

 いつもなら何も考えることなく遠のいてゆく「意識」の中で我を忘れるはずなのに。

 この世界には何もない。考えるべきものもぶつかるべき壁も「人」という形をしたもの。私が夢の中で見たものが何もないのだ。

 ここが人間の世界でいう「あの世」なのだろう。何が言いたいのかって。僕たちの精神は「この世」に存在しているわけじゃない。僕たちの精神は「あの世」に存在してる。そして「あの世」という何もない空間から「この世」という長い夢を見ているだけなのだから。

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「あの世」と「この世」 瀬戸口 大河 @ama-katsu1029

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