第18話:雨女の新しい友達
「すぴー」
満足そうな顔で眠る菜乃葉。
結局あの後、意味の分からないことを言ってすぐに菜乃葉は私を抱いたまま、そのままの姿勢で眠ってしまった。上半身素っ裸で。
仕方ないから汗を拭いてあげてからタンスに入っているもう一着のパジャマを着させた。そしてそのままベッドに潜らせて、毛布を肩まで掛けてあげる。
もちろん、ズボンの方も脱がして、下半身の汗も拭いてあげたんだけど………
ちょっと思い出しただけで叫びそうになっちゃうから割愛させていただく。
それにしても、、、
ムニムニ。グニャリグニャリ。ムニムニ。
「(………あぁぁあああああ!!!わ、わた、私!!な、菜乃葉のお、おっぱいに!顔!埋まって!!やわらか――違う!良い匂――違ぁう!!あぁもう!余計に菜乃葉のこと変な風に意識しちゃうんですけどぉぉおおお!!!!)」
さっきまでソレに埋まっていた顔を、主に頬っぺたを自身の手でグニグニと捏ねくり回しながら、私は未だ残る感触を思い出して静かに悶える。
結局、いっぱい話したいことあったけど何も話せなかった。まぁ、相手は病人だし。無理に自分の話したいことを聞かせるのも菜乃葉に悪いし。
気持ちよさそうに眠る菜乃葉の頭を出来る限り優しく撫でる。手櫛で髪を梳いて、その髪の毛先を、そのまま自分の顔に近づけて――――
はっ!???
な、い、今、私は何をしようと!??
無意識に菜乃葉の髪の匂いを嗅ごうとしてた。お、恐ろしい。な、なな、なんなんだね、このドキドキは!!
「んっ」
「………はぁ。人の気も知らないで。私がこんなにドキドキしてるの、絶対に菜乃葉のせいなのに。まったく、どうしてくれるのさ」
このドキドキについて、深く考えたくはない。もう菜乃葉を親友に留めておくことは出来ないと、それはもう理解したつもりだけれど。あんなに怒られたんだし。
だけど、かと言ってじゃあ、菜乃葉は私にとってのなんだ、と聞かれたら。そりゃ、大切な人?と答えるしかない。
そして、果たしてこのドキドキは、大切な人に抱くべき感情なのだろうか。
いや、深く考えたらダメだってば。きっと、誰だってあんな色っぽい姿見せられたら、ドキドキするもん。
「今日はもう帰るね。買ってきたものは冷蔵庫に入れておくから」
今日はもう帰ることにした。
家に帰って、今日本当は話したかったことをメッセージでまとめて送っておく。
寝る前に返信が来て、小一時間ほどチャットでお話した後、私たちはお互いに『おやすみ』のスタンプを送り合って眠った。
なんだかいつもよりもベッドが温かく感じた。
◇ ◇ ◇
それから三週間くらいは、特に何事もなく学校生活を過ごしていた。
菜乃葉も風邪で休んだ日から土日を挟んだらすっかり元気になったみたいで、相も変わらず今でもお互いに一日交代でお弁当を作り合っている。
私たちは応援団にも入ってないから、放課後も残る必要は無い。だから、ほぼ毎日いつも通りに菜乃葉と二人で帰路を共にしている。
ただ、週に一日だけ、私は一人で帰っていた。
それは何故か。私がクラスリレーの走者に選ばれてしまったからである。クラスメイトたちの推薦で、一応クラスで二番目に足が速い私が選ばれた訳だ。
そして今日は、ちょうどリレー練習の日で。
梅雨の時期で今日も今日とて雨が降り、校庭は使えず私たち走者は体育館でバトンの受け渡しの練習をした。
その帰り。
下駄箱で靴を履き替え、帰ろうとすると。
校舎の入口。屋根の下で一人の生徒が雨空を見上げたまま立っていた。いや、立ち尽くしていた。
「えーっと………」
誰だっけ。名前が出てこない。
確か、クラスメイトで、体育祭実行委員に自ら立候補した子だ。
目を覆う前髪。その下に更に大きいフレームの丸メガネ。うん、間違いない。くるくるに跳ねたセミロングの髪は、湿気のせいでお花畑みたいになってる。
「(キョロキョロ)………………ぁ」
「あ。」
「(ペ、ぺこり)」
「あ、あー、どうもどうも。えーっと、、」
「あぅ。………ぁ、
「ご、ごめんね名前覚えてなくって!ハルカちゃんね!もう覚えたよっ!!」
「……………」
「ハ、ハルカちゃん?」
「あばばばばばばばば」
「ハルカちゃん!?ちょ、どしたの!??」
「い……いい………いきななり名前呼びととか……お、お恐るべしカーストップ」
ガタガタと震えて縮こまるハルカちゃん。
「だ、大丈夫?」
「へ、へへ、へへへ。め、めめ滅相もござりませんざます」
「ぶふっ」
だ、ダメだ。笑っちゃいけないんだろうけど、こ、この子、反応が一々面白すぎる。
「ハルカっていうのは、漢字だとー、、」
「ぁ……晴れる夏………です」
「へぇ!良いなま―――」
「な、名前負けしてて草ですよねほんとごめんなさいマジであーなんで私の名前は根暗
「ちょ、落ち着いて!?」
「あぅ!い、いきなり大きい声出さないでください」
「え!?ごめん!」
「許します」
な、なんだこの子。くせ強すぎでしょ。
と言うか、めちゃくちゃ面白い子じゃん。いっつも教室で一人ぼっちだけど、今度からちょくちょく話しかけてみようかな。
「それで?どうして一人でずっと立ち続けてるの?帰らないの??」
「ぁ………!ぁ、あの……ぇ…えっと!!」
「おーけーおーけー。落ち着いてー、深呼吸してー。はい、ゆっくり話してみてー」
「かっ(裏声)…………っ/////……傘、忘れちゃって」
「あー、今朝は降ってなかったもんね。家どっち方面?」
「ぇ?ぁ……正門出て右です」
「おー、真逆か」
「???」
「ま、いっか。じゃあ………ほれ」
私は自分の水色のちょっとオシャンティーな傘を広げて、晴夏ちゃんに「おいでおいで」と手招きする。
「ぅえ?」
「あはは。そんな固まってないで。ほら、はやくおいで?止むの待ってたのかもしれないけど、予報だと今日はずっと雨だよ?」
「そ、そそそんな!!夜凪さんの傘に入れてもらうくらいなら、濡れてでも走って帰るです!」
「こーら、風邪ひくでしょーが」
「あぅ」
土砂降りのなか、本当に飛び出そうとする晴夏ちゃんの首根っこを掴む。ほら、暴れないの。
「あー、終わりだ。私の穏やかな学校生活は終わるんだ。人気者の夜凪さんと相合傘なんてしたら、明日には『お前の席ねーからwww』されて、私の居場所は無くなるんだ」
「そんなことなんないから!友達と一緒に帰るだけで、そんなことされないから安心して!」
「ト、トモダチ???」
「え、もうお互い名前も知ってるし、こんなにお喋りしたんだから、もう私たち友達でしょ?」
「と、ともだち。とも、、だち。友達。友達。友……達………。グ、グヘヘ。えへ、えへへ。うへへへへ〜♪わ、わた、うぃ、うぃーあーベーストフレーンド!!!」
晴夏ちゃんがはじけた!
ランラン♪と私の周りをくるくるスキップしている。完全に一人の世界でお花畑を駆け回っている。
「ほーら。もういい加減、帰るよ。家まで送っていくから、道案内してね?」
私と晴夏ちゃんは一つ傘の下、一緒に帰った。ニヘラニヘラした晴夏ちゃんとの距離がやけに近かった気がするけど、まぁ、気のせいだと思う。
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